研究課題/領域番号 |
23K06081
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分47020:薬系分析および物理化学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大崎 恵理子 大阪大学, 大学院医学系研究科, 助教(学内講師) (50447801)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | B型肝炎ウイルス / ポリメラーゼ / 逆転写酵素 / RT / 非核酸系RT阻害剤 / 結晶構造解析 / スクリーニング / 構造解析 |
研究開始時の研究の概要 |
B型肝炎ウイルス(HBV)は世界で20億人が一過性感染し(2002年推計),肝硬変や肝がんへと進行する持続感染者は2019年の推計で約3億人,年間死亡者は約89万人存在すると言われており,世界最大級のウイルス感染症を引き起こす。B型肝炎の治療法は,現時点でインターフェロンと核酸アナログの2種類しかなく,新規治療薬,治療法の早急な開発が求められている。HBVにおいては未だに非核酸系RT阻害剤(NNRTI)は存在していないことから,本研究ではポリメラーゼと阻害剤の複合体構造をクライオ電子顕微鏡により解析し構造活性相関を明らかにすることで,併用療法を前提とした実用的なNNRTIの創出を目指す。
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研究実績の概要 |
B型肝炎ウイルス(HBV)は世界最大級のウイルス感染症であり,B型肝炎による肝硬変や肝がんによって世界の年間死亡者数は90万人近くにのぼる。しかしながらB型肝炎の有効な治療法は現時点でインターフェロンと核酸アナログしか選択肢がなく,新規治療薬,治療法の開発が求められている。ウイルス感染症においてウイルスゲノムの複製に必須であるポリメラーゼを標的とした治療戦略は,さまざまな標的にフォーカスした治療法開発の中でも重要な位置づけとなる。HBVポリメラーゼのゲノム複製活性に重要な逆転写酵素(RT)対する核酸アナログはHIV RTに対して開発された治療薬を転用しているものが多い。HIVの場合は核酸アナログに加えて非核酸系RT阻害剤,プロテアーゼ阻害剤,インテグラーゼ阻害剤など作用機序の異なる複数の薬剤を組み合わせることによって,今やHIV感染者の平均余命は一般の人と変わらないレベルに近づきつつある。HBVにおいても核酸アナログは強力な阻害効果を発揮しており,エンテカビルやテノフォビルなど薬剤耐性変異の発生頻度が低い薬剤が開発されてきたものの,核酸アナログとは作用機序の異なる非核酸系RT阻害剤はいまだに存在しておらず,早急な開発が求められている。 研究代表者らはこれまでにHBV RTドメインの高純度精製・結晶化に成功しており,本研究ではRTドメインの立体構造解明と,候補阻害剤との構造活性相関を明らかにすることで,構造理解に基づく新規非核酸系RT阻害剤の開発を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではHBV RTの立体構造の完全解明を目指している。研究代表者らは世界で初めてRTドメインの結晶構造解析に成功し,分子モデル構築を試みている。HBV RTのアミノ酸配列の相同性は,高いものでもHIV RTやモロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)のRTなどとの間で15%程度に過ぎず,構造解析で用いられる分子置換法において必要とされる30%相同性に満たないため,解析が非常に困難である。現時点では全体構造の決定には至っていないものの,RT単体の結晶構造の解析データはほぼ得られており,重原子置換法による解析データと合わせて引き続き解析を進めているところである。また,新規の非核酸系RT阻害剤(NNRTI)を探索するために,精製RTを用いたin vitroアッセイによるスクリーニングを実施したところ,候補化合物が多数得られた。これらの化合物についてHBV持続産生細胞株を用いて薬剤阻害効果を検討したところ,効果が期待される薬剤が複数見出された。さらに,単独使用で阻害効果の弱い薬剤については,ドッキングシミュレーションによる結合部位予測データをもとに2種の薬剤組み合わせを検討したところ,相乗的な阻害効果を示すものや逆にお互いが干渉して阻害効果が減弱する拮抗作用を示すものなどがいくつか見出されており,構造に基づいたin silicoドラッグデザインの有用性が十分に期待できる結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
候補阻害剤の結合部位予測をさらに高精度に行うためには,より高精細・高精度のRT分子モデルを構築することが重要である。そのためには,引き続きRTの立体構造解析を進めて,全体構造を理解することが必要となる。また,候補阻害剤との複合体の構造を明らかにし,実際の結合部位を明らかにすることに加えて結合親和性,解離定数などの分子間相互作用解析を通して薬剤及びRTの構造活性相関を理解する。得られた候補阻害剤をリード化合物として最適化を試みる。さらにin silico およびin vitroスクリーニングを双方向に駆使することで,より強力かつ低毒性の最適な阻害剤を探索する。薬剤評価系としてこれまでに確立した精製RTを用いたセルフリーアッセイにより候補阻害剤の作用機序を把握した上でその阻害効果をセルベースアッセイで検証することで,構造理解に基づくin silico ドラッグデザインを試みる。有望な候補薬剤が得られた場合は,薬物動態解析やヒト肝細胞キメラマウスを用いた感染実験によりHBV増殖阻害効果を評価する。以上の研究成果をもとに新規NNRTI開発を進めるとともに,新薬開発の飛躍的な発展に寄与し得る情報基盤を構築する。
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