研究課題/領域番号 |
23K06092
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分47020:薬系分析および物理化学関連
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
原矢 佑樹 国立医薬品食品衛生研究所, 薬品部, 主任研究官 (30634604)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | 膜活性ペプチド / 膜摂動 / 細胞膜通過 / 脂質膜 / 原子間力顕微鏡法 / コンフォメーション / 分子内架橋 / 膜通過 / 膜障害 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、膜活性ペプチドが細胞脂質膜に作用して顕現する物理化学的現象(細胞膜通過または細胞膜障害またはその両方=機能)の制御法を、膜摂動の観点から確立することを目的にしている。そのために、原子間力顕微鏡法の膜剛性計測技術を活用し、塩基性アミノ酸/疎水性アミノ酸数や両親媒性度などの構造特性を説明変数とした膜活性ペプチドの構造特性-膜摂動の相関解明に取り組む。また、膜活性ペプチド群の機能と構造特性-膜摂動との関係を精査する。これら取り組みにより、膜活性ペプチドを薬物キャリアや抗がん/抗菌剤として応用する上で課題となる「ペプチドの細胞膜通過・細胞膜障害の制御困難性」を解決する方法論の構築をめざす。
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研究実績の概要 |
本年度は、効率的に細胞内へ移行するアポリポタンパク質E由来膜活性ペプチド(両親媒性正荷電ペプチド:A2-17)の機能に与えるコンフォメーションの影響を調査するために、分子内架橋により両親媒性ヘリックス構造を安定化した2種のA2-17誘導体(2点での架橋:StpA2-17; 3点での架橋:StchA2-17)を設計し、これらペプチドの脂質膜および細胞相互作用を定量的に評価した。このために、科研費事業20K15982で確立した原子間力顕微鏡法をはじめとする「膜摂動評価系」を適用した。結果、水中から脂質膜環境への移行に伴い、ランダムコイルからα-ヘリックスへ転移するA2-17の構造的柔軟性が示された。StpA2-17とStchA2-17は、水中と脂質膜結合時の両環境においてα-ヘリックス様構造を維持する「分子内架橋による構造的制限性」を示した。また、分子内架橋の導入によってペプチドの細胞膜通過性が低下することが判明し、これは従来報告されている分子内架橋による細胞内移行性の促進現象に反するものであった。特に、StchA2-17の脂質膜への親和性は、A2-17およびStpA2-17よりも約40倍高く、細胞内へ移行することなく細胞膜に蓄積した。一方、A2-17は、StpA2-17およびStchA2-17よりも脂質膜の力学的強度を有意に減少させた。さらに、StpA2-17およびStchA2-17と比較して、A2-17は脂質二分子膜に対して一過性の細孔を効率的に形成した。以上より、膜活性ペプチドの機能評価・制御において、本研究の膜摂動評価系の有用性が確認されたとともに、A2-17の構造的柔軟性が、その細胞膜通過を有利にする膜摂動作用に寄与している事を示唆する新規知見を得たので、国際雑誌で原著論文とした発表した(Sci. Rep. 13, 19396, 2023)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の核心をなす学術的「問い」は、「膜活性ペプチドの機能の本質である膜摂動を目的に応じて制御するためには、どうすればよいのか」という方法論に関する問題である。本年度では、初年度から2年目に予定していたペプチドの化学修飾が及ぼす膜摂動および細胞膜通過性への影響に関する知見を提示するという目標を達成した。一方、種々の構造特性を有する細胞膜障害ペプチドを用いた膜摂動-細胞膜障害/細胞毒性の関係に関する検討は、2年目に開始予定であり、当初の計画に沿っておおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者は、有用な細胞膜通過ペプチドを開発する方法論が、「その細胞通過時の障壁となる脂質膜上に膜ポアのような非二分子膜構造の親水領域を生成するための膜摂動作用(脂質膜の力学的強度を低下させる作用=膜摂動力)をペプチドに持たせる一方で、過度な膜摂動力に由来する細胞膜障害は抑える」というトレードオフの最適化であることを独自に提唱している(2020-2022年度の科研費研究課題20K15982による成果)。本研究課題においては、細胞膜通過ペプチド群に細胞膜障害ペプチド群を加えた膜活性ペプチド群に対象を拡大し、本方法論の適用範囲と普遍性の検証、および改良を行い、「膜活性ペプチドの細胞膜通過・細胞膜障害の制御困難性」を解決する科学基盤を構築しようと試みている。そのため、2年目からは、抗がん/抗菌/抗ウイルス作用をもつとされているメリチン、マガイニン等の細胞膜障害ペプチド群も研究対象に加え、ペプチドの構造特性、脂質膜相互作用、膜摂動、細胞膜通過性/細胞膜障害性/細胞毒性について、本研究の膜摂動評価系を用いて調査を進める。
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