研究課題/領域番号 |
23K06111
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分47030:薬系衛生および生物化学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
平田 祐介 東北大学, 薬学研究科, 助教 (10748221)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2025年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | トランス脂肪酸 / 細胞死 / がん / フェロトーシス |
研究開始時の研究の概要 |
トランス脂肪酸の摂取は、循環器系疾患などの諸疾患と共に、がんのリスク因子としても挙げられてきたが、その病態発症・増悪の分子機序は全く不明である。我々は、がん細胞が特に高い感受性を示す新規プログラム細胞死フェロトーシスにおいて、ある複数のトランス脂肪酸種が、各々全く異なる作用を発揮することで、がん促進あるいは抑制的に作用することを見出した。そこで本研究では、脂肪酸種ごとの構造特異性、標的がん種、ターゲット分子、および分子作用機構を明らかにすることで、新規がん予防・治療戦略の開発に繋げるとともに、食品安全性の向上および国民の健康増進への貢献を目指す。
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研究実績の概要 |
トランス脂肪酸は、循環器系疾患などの諸疾患と共に、がんのリスク因子としても挙げられてきたが、その病態発症・増悪の分子機序は全く不明である。本研究では、由来の異なる様々なトランス脂肪酸のがんとの関連性を明らかにし、その分子作用機構の解明を通して、がん予防・治療戦略の開発につなげることを目的としている。 天然由来のトランス脂肪酸の中でも、複数の二重結合が共役(隣接)している共役脂肪酸は、がん細胞選択的な殺傷作用を有することが古くから知られているが、その具体的な細胞死誘導機構については、不明な点が残されている。我々は、共役脂肪酸を処置したがん細胞では、鉄依存的な脂質過酸化によって引き起こされるフェロトーシス(制御性細胞死の1つ)が惹起されることを見出した。詳細な解析から、共役脂肪酸はフェロトーシス抑制因子GPX4をリソソーム分解に導き、最終的にフェロトーシスを誘導することが明らかになった(論文投稿・査読中)。 トランス脂肪酸の中には、非酵素的なラジカル反応によって、生体内の不飽和脂肪酸のシス型二重結合がトランス異性化することで産生するものがあり、その代表例がトランスアラキドン酸であるが、生体内での具体的な産生条件や機能的意義については、ほとんど不明である。我々は、フェロトーシスが惹起される脂質過酸化誘導時に、細胞内の一部のアラキドン酸がトランスアラキドン酸に変換されること、本脂肪酸には、フェロトーシス促進作用がないことを明らかにした(国際学術雑誌Free Rad. Biol. Med.にて論文発表済)。したがって、トランスアラキドン酸は、フェロトーシスの負のフィードバック機構として働き、関連疾患の発症・増悪を抑制する可能性や、がん細胞では産生が増大し、フェロトーシス抑制によって悪性化・増悪に寄与する可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
共役脂肪酸によるフェロトーシス(細胞死)誘導作用について、GPX4のリソソーム分解促進が細胞死誘導の引き金となっていることを突き止めた。また、免疫不全マウスを利用したがん細胞移植モデルにより、マウスに共役脂肪酸を多く含有する桐油を摂取させることで、腫瘍が退縮することを見出し、in vivoにおける本作用の有効性を確認することができた。以上の成果について、現在論文投稿・査読中であり、近々論文化できる目処が立っていることから、本プロジェクトは順調に推移している。 また、トランスアラキドン酸については、生体内での具体的な産生条件を探索・同定するため、イタリアISOFのChatglialoglu教授の研究グループとの共同研究により、様々なストレス刺激を加えた際の産生の有無を検討した結果、フェロトーシスが惹起される脂質過酸化時にトランスアラキドン酸が産生されることを見出した。また、同グループが作製し、提供を受けたトランスアラキドン酸を細胞に処置したところ、通常のシス型のアラキドン酸の処置で認められたフェロトーシス誘導が、トランスアラキドン酸の場合は認められなかった。過去の同グループの知見から、トランスアラキドン酸は、細胞内の活性酸素の主要な産生源の1つであるNADPHオキシダーゼの活性を抑制することがわかっており、この抑制作用によって、脂質過酸化が起きづらくなり、フェロトーシス促進が起きなかったと考えられる。本機構は、虚血性疾患などの疾患に伴って産生され、疾患改善に寄与している可能性や、活性酸素を多く生み出しやすいがん細胞で本脂肪酸が産生されることで、フェロトーシス耐性を獲得し、がんの増悪や転移などに寄与している可能性が想定される。 以上のように、今年度得られた成果が、実際に論文発表に至っており、概ね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
共役脂肪酸について、がん細胞内に取り込まれたのちに、具体的にどのような機構によってGPX4のリソソーム分解を引き起こすのかを明らかにするため、オートファジーの各種様式との関連について詳細に解析を行う予定である。 トランスアラキドン酸については、これまでは、あくまでも有機合成した脂肪酸を外から細胞に添加することで機能解析を行っていたが、内在性の不飽和脂肪酸(シス型二重結合のみ)が、より効率よくトランス異性化される条件や手法について検討を行う予定で、フェロトーシス抑制作用や、その他の細胞死・炎症に与える影響についても、さらに解析を進めていきたい。 工業的な食品製造過程で産生され、加工食品に多く含まれる「人工型」トランス脂肪酸についても、がん発症・増悪との関連を探る。代表的な人工型トランス脂肪酸であるエライジン酸について、フェロトーシスを抑制する作用を見出している。がん細胞は通常、活性酸素や鉄を多く含むことから、フェロトーシスに脆弱であるとされており、フェロトーシスをがん治療に応用する創薬研究が盛んに行われている。実際に、フェロトーシス耐性を獲得したがん細胞の悪性化・転移との関連が報告されていることから、人工型などの主要な食品中トランス脂肪酸とがん増悪との関連性について、今後解析を進めていく予定である。
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