研究課題/領域番号 |
23K06135
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分47030:薬系衛生および生物化学関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
多胡 めぐみ 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 教授 (30445192)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 未分化大細胞リンパ腫(ALCL) / NPM-ALK / STAT3 / リン酸化 / アセチル化 / STAT3標的遺伝子 / 未分化大細胞リンパ腫(ALCL) |
研究開始時の研究の概要 |
ALCLの原因遺伝子産物であるNPM-ALKによる細胞増殖や腫瘍形成には、STAT3のY705のリン酸化が必須である。申請者らは、RNAシークエンス解析により、NPM-ALKがSTAT3のY705のリン酸化に依存して9種類の遺伝子の発現を誘導することを見出した。本研究では、これら9種類のSTAT3標的遺伝子群に焦点をあて、各遺伝子産物のNPM-ALKによる細胞増殖や腫瘍形成に及ぼす影響を解析することにより、NPM-ALKの下流で発現が誘導されるSTAT3標的遺伝子を介した発がん制御機構の解明を目指す。本研究は、ALCL発症機序の理解と新たなALCL治療薬開発の基盤を提供する。
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研究実績の概要 |
未分化大細胞リンパ腫 (anaplastic large cell lymphoma:ALCL) は、日本における小児悪性リンパ腫の約15%を占める疾患である。ALCLの原因遺伝子産物として、融合型チロシンキナーゼNPM-ALKが同定されている。これまでに、NPM-ALKは恒常的に活性化しており、転写因子STAT3の活性化を介して、形質転換能を示すことが報告されている。ALCL細胞では、NPM-ALKのキナーゼ活性に依存して、STAT3のチロシン残基 (Y705) やセリン残基 (S727) のリン酸化やリシン残基 (K685) のアセチル化が誘導されるが、NPM-ALKが示す形質転換能に及ぼすSTAT3の翻訳後修飾の生理的意義は不明である。また、現在まで、ALCLの病因となるSTAT3標的遺伝子は同定されていない。今年度、申請者らは、sh-RNAを用いてSTAT3の発現を抑制したNPM-ALK発現Ba/F3細胞 (STAT3-KD細胞) に、野生型STAT3、あるいはリン酸化やアセチル化を受けないSTAT3変異体 (Y705F, S727A, K685R) を再構成し、増殖能や腫瘍形成能を検討した。その結果、STAT3のY705のリン酸化がNPM-ALKによる細胞増殖や腫瘍形成に必須であることを見出した。また、STAT3のK685のアセチル化は、STAT3のY705やS727のリン酸化を抑制し、NPM-ALKが示す形質転換能に対して抑制的に機能することを明らかにした。さらに、RNAシークエンス解析を行い、NPM-ALKが誘導する遺伝子は多数存在するが、その中で、STAT3のY705のリン酸化を介して、9種類の遺伝子の発現が誘導されることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、NPM-ALKによる形質転換能に及ぼすSTAT3のリン酸化やアセチル化の影響を検討した。その結果、STAT3のY705のリン酸化がNPM-ALKによる細胞増殖や腫瘍形成に必須の役割を果たすことを明らかにした。また、NPM-ALKによって発現が誘導される遺伝子の中で、STAT3のY705のリン酸化に依存して発現が誘導される遺伝子を9種類同定することに成功した。現在、同定したSTAT3標的遺伝子産物の機能解析を開始している。さらに、STAT3のK685のアセチル化は、STAT3のリン酸化や転写活性を負に制御し、NPM-ALKによる形質転換に対して抑制的に機能することを見出した。このSTAT3のアセチル化に関する研究成果を学術論文に発表した。 以上より、研究は概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
NPM-ALKによるSTAT3を介した発がん誘導シグナル経路を解明することは、未だ不明な点の多いALCLの発症機序の理解へと繋がることが期待される。今年度に同定したNPM-ALKの形質転換能に必須なSTAT3のY705のリン酸化に依存して発現が誘導される9種類の遺伝子産物は、NPM-ALKによる細胞増殖や腫瘍形成に重要な役割を果たすと期待される。 今後は、RNA干渉法やゲノム編集により、NPM-ALK発現Ba/F3細胞において同定遺伝子の発現を抑制し、NPM-ALKによる細胞増殖、腫瘍形成における同定遺伝子産物の機能を解析する。また、作製した細胞を用いて、NPM-ALKの下流で活性化されるシグナル経路 (STAT3, Ras-Raf-MEK-ERK, PI3K-Akt-mTOR) に及ぼすSTAT3標的遺伝子産物の役割を検討し、NPM-ALKの下流で活性化されるSTAT3標的遺伝子産物を介した発がん誘導機構を解明する。さらに、ALCL患者由来細胞 (SUDHL-1、Ki-JK、Karpas299) およびALCL患者検体を用いて、得られた知見を検証する。
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