研究課題/領域番号 |
23K06212
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分47060:医療薬学関連
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
松本 准 岡山大学, 医歯薬学域, 准教授 (60709012)
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研究分担者 |
荒木 元朗 岡山大学, 医歯薬学域, 教授 (90467746)
濱野 裕章 岡山大学, 大学病院, 講師 (10847289)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 腎細胞癌 / ドラッグリポジショニング / データサイエンス / ビッグデータ / 腎癌 / データマイニング |
研究開始時の研究の概要 |
腎癌に対する現行の第一選択薬は、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)とチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の併用である。しかし、ICI + TKIは薬剤費が極めて高く、また申請者はICIとTKIの併用が有害事象を複雑化させることを見出している。そこで本研究では、申請者が新たに考案した多層的なデータマイニングを活用し、腎癌に対して効果的かつ安全・安価な既存薬を特定し、その科学的エビデンスを確立する。
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研究実績の概要 |
腎癌に対する現行の第一選択薬は、有害事象の発生率・薬剤費が極めて高いため、安全・安価な治療薬の開発が望まれる。近年、ビッグデータの発展が著しく、以前と比較し容易にビッグデータを取得・解析できるようになっている。そこで本研究では、ビッグデータを活用することで、腎癌に対して有効かつ安全・安価な既存薬を見出すことを目的とした。 研究の初年度に当たる本年は、主にビッグデータを活用して候補薬を抽出した。従来、ビッグデータを活用した既存薬の抽出では、単一もしくは少数のビッグデータに基づいた手法が多かった。一方、本研究では新たな既存薬の抽出法として、腎正常組織と腎癌組織におけるマイクロアレイデータに加えて、腎癌組織における遺伝子発現量と患者予後との関連や、腎正常組織と腎癌組織におけるタンパク質発現の有無などを含め、複数のビッグデータを多層的に活用することで、より高精度に腎癌に有効な既存薬を抽出することを試みた。最終的には50種類の化合物が新しく候補として抽出された。その候補の中には、日常的に慢性疾患や短期的に使用される安全・安価な既存薬が含まれていた。そこで、これらの薬物を複数の腎癌由来細胞株に投与したところ、ある薬物(以後、薬物A)は細胞増殖を濃度依存的に阻害した。 以上より、本年度に得られた成果として、複数のビッグデータを活用した多層的なデータマイニング法を確立し、またその結果として腎癌に有効である可能性の高い薬物Aを見出すことができた。特に、薬物Aの副作用発現頻度は1%程度と極めて低く、また薬価もこれまでの抗がん剤と比較して遥かに安価である。そのため、薬物Aについて、腎癌に対する新たな治療薬としてのエビデンスを示すことができれば、史上最も安全・安価な抗がん剤となる可能性がある。今後は、薬物Aの腎癌に対する有用性について更なるエビデンスを取得する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、主にビッグデータを活用して腎癌に対して有効である既存薬候補を見出すことを予定していた。これまで、ビッグデータを活用したデータサイエンスにおいては、得られる結果が使用したデータベースの内容に強く依存してしまうこと、またデータサイエンスから得られた成果を基礎的な解析に落とし込む際に、結果が大きく異なってしまうことを経験している。そのため本研究では、複数のビッグデータを多層的に活用した新たなデータマイニング法を確立することで、これらの問題点の解消を試みた。また、各ビッグデータを使用する際にも、単一ではなく複数のデータセットを統合的に参照するなど工夫をすることで、解析精度の向上に努めた。当初は解析精度を高めることで候補数が激減してしまう可能性を危惧していたが、最終的には複数の候補を抽出することに成功し、当初の予定通りにデータサイエンスによる解析を進めることができた。 また、データサイエンス上で得られた成果を基礎的に検証するため、腎癌由来細胞株に候補薬物を投与することで、候補薬が今後解析を進める上で相応しい薬物かを吟味することまでを本年度の予定としていた。実際に複数の候補薬物を腎癌細胞株に投与することで、安全性および薬価面に優れる薬物Aを見出すことに成功し、当初予定していた内容は順調に終了した。そのため、次年度に予定していた候補薬物の作用機序の解明について、データサイエンスによる候補分子の特定を先行して開始した。また、薬物Aの主作用について、複数の同効薬を腎癌由来細胞株に添加し、薬物Aが腎癌細胞の増殖を抑制する機序は主作用とは異なることも明らかにした。そこで、次年度以降はデータサイエンスによって見出された複数の候補遺伝子について解析を進める予定である。以上より、本研究は当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果として、複数のビッグデータを活用した多層的なデータマイニング法を確立し、またその結果として腎癌に有効である可能性の高い薬物Aを見出すことができた。また、薬物Aが作用する遺伝子について、従来広く認識されている主作用とは異なること、また薬物Aの新たな標的分子をデータサイエンスによって複数見出した。そこで、今後はこれら候補遺伝子について、以下の解析を実施する予定である。 まず、複数の腎癌由来細胞株に薬剤Aを様々な濃度で添加し、候補遺伝子の発現量の変化を解析する。本解析において変化が認められた遺伝子については、同様にタンパク質レベルで解析する。以降、タンパク質レベルで変化が認められた遺伝子を標的分子の最有力候補として解析を進める。 次に、標的分子候補について、腎癌由来細胞株で過剰発現させる。この遺伝子操作が腎癌細胞の増殖・浸潤能に及ぼす影響を解析し、また薬物Aの作用に変化が認められるかを解析する。過剰発現による影響を確認した後は、該当遺伝子をノックダウンさせ、過剰発現させた際の結果と比較するとともに、薬物Aによる細胞増殖の阻害作用の変化を解析する。これらの解析により、初年度に見出した薬物Aの腎癌に対する新たな標的分子が明らかになる。 なお、近年は腎癌においても異なる作用点を有するがん薬物併用療法が主流になっている、薬物Aは副作用発現頻度が極めて低く、がん薬物併用療法の観点からも極めて合目的な薬物である。そのため、上記の解析においては、腎癌領域で汎用される分子標的薬を同時に添加し、相乗効果が得られるかについても解析する。以上の通り、今後はまず培養細胞を用いたin vitroにおける解析を主軸とし、薬物Aの新たな作用点を明らかにするとともに、実臨床への応用性について、特にがん薬物併用療法に着目しつつ解析を進めていく。
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