研究課題/領域番号 |
23K06334
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分48020:生理学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
河合 喬文 大阪大学, 大学院医学系研究科, 助教 (70614915)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 精子 / 膜電位 / pH |
研究開始時の研究の概要 |
細胞には恒常性が備わっており、外部の環境が変化してもその内部環境を一定に保持しようとする力が働く。pHもその中の一つであり、細胞内pHは常に一定の値をとるように厳密に制御されている。しかし近年、いくつかの細胞種ではその局所のpHを変化させることで、pHをシグナル因子として利用していることが明らかになりつつある。本研究ではpHによって活性化することで知られるイオンチャネルSlo3に着目し、「pHのシグナル因子としての重要性」を分子レベルで明らかにしたいと考えている。対象としては主に精子を使用し、実験の経過次第ではその他の細胞種も含めた解析を行っていきたい。
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研究実績の概要 |
近年、様々な細胞種において、pHがシグナル分子として機能することが明らかになりつつある。本研究では、精子に存在するpH依存性K+チャネルSlo3に着目した。Slo3チャネルは細胞内のpH変化に依存して精子の膜電位を決定的に制御するイオンチャネルであるが、その活性化機構については生物物理学的な知見が殆ど存在しない。この点を調べるために、Slo3チャネルの細胞外ドメインに蛍光標識を行い、膜電位変化などによって駆動されるSlo3蛋白質の構造変化を調べた。その結果、Slo3チャネルが実際に電位に応じて動く様子を直接捉えることに世界で初めて成功した。現在はここで得られた情報に基づいて、このSlo3の活性化メカニズムを数理モデル化しようとしている段階であり、これによりその詳細が明らかになると期待される。 また、我々はこれまでSlo3チャネルの活性が細胞内亜鉛イオンによって抑制されることを見出していたが、この抑制についても細胞内pH依存性を持っていることを明らかにした。この点は、精子の細胞内のpHが生理的に変動し得ること、精子の細胞内の亜鉛濃度が高いことが知られている点からも興味深い。 また、Slo3の精子や精子以外での細胞機能を調べるため、海外よりSlo3にEGFPを融合させたマウスを入手した。このマウスはCreマウスと交配することによって、Slo3遺伝子の欠損マウスに変換できるマウスであり、現在はこの交配を行ってSlo3遺伝子欠損マウスも得ようとしている段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Slo3の活性化機構について、基本的な情報を得ることができた。何より、亜鉛イオンによる抑制機構にpH依存性が存在することを明らかに出来た点が興味深い。この亜鉛によるSlo3の抑制機構は、一度結合すると数十秒以上の長いスパンでSlo3を抑制するという非常に強固なものであった。精子は細胞内に亜鉛を多くふくんでいる以上、Slo3の活性を抑制し続けることとなってしまい、何故正常な精子でSlo3が機能することが出来るのか、という謎を含んでいた。一方で我々は、細胞内のpHが低下した(酸性化した)条件下ではこの亜鉛による抑制が外れるという現象を見出している。この点はすなわち、精子の細胞内pHが予め低めに保たれていることに一定の意義が存在することを表している。 加えて、海外からSlo3-GFPマウスを入手し、また将来的にSlo3KOマウスを入手・繁殖させることが出来る条件が整ったことは、次年度以降マウスを用いたSlo3研究を進めるうえで大きなアドバンテージになることと予想される。
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今後の研究の推進方策 |
まずSlo3の活性化機構についてその数理モデル化を完成させる。次にこの活性化機構が細胞内pHの変化によってどのように調節されうるのかについて検証を進め、精子において膜電位―pH連関を司る本チャネル分子の制御機構を生物物理学的に明らかにする。 また引き続き、今回見つかった亜鉛とpHによるSlo3の制御機構について検証を進める。Slo3に変異導入実験を行い、これによって亜鉛に抵抗性のある変異体を見出すことで具体的にどの部位が亜鉛の標的になっているか実験的なデータを得る。次にこのデータを基にSlo3の予測構造から具体的な亜鉛の結合部位を推定する。 さらにSlo3における亜鉛シグナルが実際にどのような影響をもっているのかについて、人為的に精子内の亜鉛濃度をマニピュレートした実験を野生型・Slo3欠損型精子で行い、その運動性の変化などのデータから考察する。 Slo3-EGFPマウスを用いて、精子以外の組織や細胞でSlo3の発現が見られるかを検証する。この点は、既にRNAレベルでのSlo3の発現が示唆されている味細胞や神経幹細胞などにも着目して検証を進める。
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