研究課題/領域番号 |
23K06345
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分48020:生理学関連
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
津野 祐輔 金沢大学, 医学系, 助教 (70827154)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 概日リズム / 視交叉上核 / ファイバーフォトメトリー / カルシウム / in vivo |
研究開始時の研究の概要 |
生物は睡眠を必要とし、睡眠のタイミングを制御する自律的な概日リズムは、視床下部の視交叉上核によって決定されている。視交叉上核からのシグナルで全身の概日リズムが同期するが、視交叉上核内ではどのように概日リズムが形成されているのであろうか。本研究では遺伝子工学、カルシウムイメージング、in vivo生理学的手法などを駆使し、細胞種ごとのカルシウム活動や神経伝達物質濃度を、リアルタイムで長期間効率良く記録し、視交叉上核神経細胞の活動と行動リズムとの関係性を自由行動下のマウスで明らかにする。本研究により、概日リズム異常やシフトワークへの効果的な対処法の開発が期待できる。
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研究実績の概要 |
動物には睡眠が必要であり、概日リズムの中枢である視交叉上核は、睡眠のタイミングを決定する上で重要な役割を果たしている。本研究では視交叉上核カルシウム活動のin vivo記録を用いて、アルギニンバソプレシン(AVP)陽性細胞が概日リズムのペース決定において支配的な役割を果たしていることを明らかにした(Tsuno et al., 2023)。AVP陽性細胞特異的にカゼインキナーゼ1デルタ(CK1δ)を欠損し、行動リズムの周期(1日の長さ)が延長しているマウスでは、血管作動性腸管ペプチド(VIP)陽性細胞のカルシウム活動周期も延長していた。このことは、VIP陽性細胞は自身の正常な概日リズム周期を持つにもかかわらず、AVP陽性細胞の影響により概日リズム周期が変化していることを意味する。さらにAVP陽性細胞を光遺伝学的に活性化すると、VIP陽性細胞のカルシウムが一過的に上昇した。これらの結果は、AVP陽性細胞が視交叉上核全体の周期を決定していることを示唆する。加えて、視交叉上核の一部を構成するプロキネチシン2(Prok2)陽性細胞の概日カルシウムリズムのin vivo記録を行い、ピークが日中にあることを明らかにした(Onodera, Tsuno et al., 2023)。Prok2は視交叉上核からの出力分子の候補で、日中の運動活動を抑制する役割があると予想されており、この結果はその予想と一致する。このように、視交叉上核内の様々な神経細胞が役割分担しながら協調して、概日リズムを生み出していることがわかってきた。これらの発見は、睡眠リズムの異常や概日リズム関連疾患の新たな理解と治療法開発につながると期待される。本結果を踏まえて、視交叉上核における概日リズム機構と嗅覚系との関係の総説を出版した(Tsuno & Mieda, 2024)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
視交叉上核カルシウム活動のin vivo記録を用いて、アルギニンバソプレシン(AVP)陽性細胞が概日リズムのペース決定において支配的な役割を果たしていることを明らかにした(Tsuno et al., 2023)。この論文の出版に際して追加実験として、1)Synaptophysin::GFPを用いた順行性ラベル、2)光遺伝学的なAVP陽性細胞刺激時の、VIP陽性細胞の一過性カルシウム応答記録、3)gRNA-Cas9ノックダウン法を用いた、視交叉上核AVP陽性細胞のAvp遺伝子の選択的破壊を行った。その結果、AVP陽性細胞がVIP陽性細胞を制御し概日リズムの周期を調節していること、さらにAVP分子以外の別の因子も関与していることが明らかになり、論文として発表した。また、視交叉上核の一部を構成するプロキネチシン2(Prok2)陽性細胞の概日カルシウムリズムのin vivo記録を行い、ピークが日中にあることを明らかにした(Onodera, Tsuno et al., 2023)。本結果を踏まえて、視交叉上核における概日リズム機構と嗅覚系との関係の総説を出版した(Tsuno & Mieda, 2024)。さらに、視交叉上核AVP陽性細胞で特異的に小胞性GABAトランスポーター(VGAT)を欠損しGABAが放出できない、概日リズム障害マウスにおいて、VIP陽性細胞のカルシウムリズムの記録を行い、特徴的なカルシウム活動を得られつつある。加えて、視交叉上核AVP陽性細胞で特異的にナトリウムリークチャネル(NALCN)を欠損したマウスを作製し、AVP陽性細胞とVIP陽性細胞のカルシウム活動を同時に記録し、特徴的なカルシウム活動を得られつつある。これらの実験から、GABAやNALCNが概日リズム形成にどのように関与しているのかを解明できると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
まず、AVP陽性細胞とVIP陽性細胞のカルシウム活動を同時に記録する実験を進めて行く。さらに、これらの神経細胞を特異的に操作した際の行動リズムの変化とカルシウム活動の変化を調べる実験を進める。AVP陽性細胞からGABAの放出を阻害したAVP-VGATノックアウトマウスについて、カルシウム活動記録の個体数を増やし、データを確実なものとする。その上で、学会や論文で成果を発表する予定である。またAVP陽性細胞からナトリウムリークチャネル(NALCN)を欠損させたマウスでは、興味深いカルシウム活動が得られつつある。個体数を増やしてデータを確実なものとし、さらに必要なコントロール実験を行う。加えて、このマウスでは行動リズムの異常に性差が見られたため、オスとメスそれぞれについて解析を進める。また、視交叉上核に関連する様々な分子の概日リズム(日内変動)を可視化するため、多様な蛍光センサーを視交叉上核に発現させ、その変動を記録する実験を進める。以上の実験により、視交叉上核内の各種神経細胞の役割と、それらが協調して概日リズムを生み出すメカニズムの統合的理解を目指す。
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