研究課題/領域番号 |
23K06348
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分48020:生理学関連
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
美津島 大 山口大学, 大学院医学系研究科, 教授 (70264603)
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研究分担者 |
木村 良一 山陽小野田市立山口東京理科大学, 共通教育センター, 准教授 (20343022)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | Amyloid beta / Intrinsic plasticity / synaptic plasticity / GABAA receptor / AMPA receptor / Lecanemab / membrane resistance / Learning and memory / Amyloid β1-42 / 海馬学習 / シナプス可塑性 / GABAA受容体 / 電位依存性Naチャネル |
研究開始時の研究の概要 |
2023年度は海馬CA1におけるエピソード学習の情報処理過程を、AAVベクターを用いた遺伝子導入や光遺伝学的手法により証明し、スライスパッチクランプ法、多ニューロン発火活動記録、多光子顕微鏡などを多角的に用いて、Aβ1-42凝集体がこの情報処理過程のどこを混乱させ学習を阻害するか、有害作用を網羅的に抽出する。2024年度は各障害機能に対する、拮抗薬物を投与して各有害作用の中和を図る。2025年度は両側海馬に拮抗薬物群を投与し、個体レベルで有害作用を阻止する。
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研究実績の概要 |
ラットを用いてストレス回避学習を行うと、海馬CA1ニューロン上の興奮性シナプスと抑制性シナプスの可塑性が高まり、入力強度が細胞毎に多様化して学習が成立する(Mitsushima et al. Nat Commun 2013)。記憶の維持過程については、Fos発現等を指標にエングラム細胞が標識されてきたが、我々は学習初期の記銘過程に着目し、急性的に形成されるシナプス多様化を指標にする事で、細胞毎に記憶情報量を定量化してきた(Sakimoto,, Mitsushima. Cerebral Cortex 2016 & 2019)。今回、我々が明らかにしてきた海馬CA1ニューロン群における記銘過程モデルを活用し、Amyloid β1-42 (Aβ1-42)の有害作用を系統的に抽出する事で、病態生理への応用を新たに展開する。認知症を情報処理過程の撹乱と考え、学習依存的なシナプス多様化、情報エントロピー拡大(bit)、チャネル分子数に対するAβ1-42 oligomerの作用を捉え、標的分子を特定して拮抗分子を探る。すでに有害作用ポイントは少なくとも4カ所以上明らかにしており、一部については拮抗分子を使った有害作用の中和を試みている。さらに、ヒト型Aβ凝集体を形成するAlzheimer型認知症モデル動物を活用し、有害作用の拮抗と情報処理の改善を進め、学習機能の低下を阻止する。 既に承認されている抗Aβ抗体薬は、脳浮腫や微小脳出血の出現頻度が高く、高額であるため、既に認知症を発症し病態が進行中の患者には適用できない。本研究から情報撹乱の拮抗分子群を特定できれば、広い症例に適用可能なAβ1-42の拮抗戦略に貢献できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々が明らかにしてきた海馬CA1ニューロン群における記銘過程を活用し、Aβ1-42 oligomerの有害作用を系統的に抽出して、病態生理への応用を展開した。認知症を記銘過程の撹乱と考え、学習依存的なシナプス多様化、閾値、膜抵抗、チャネル分子数、単一チャネル電流、伝達物質放出確率などを網羅的に比較した結果、Aβ1-42 oligomerの有害作用部位を4カ所以上捉え、その数は現在も増加中である。うち2つについては標的分子を特定し、拮抗実験を行っている。また、Aβ1-42 oligomerを両側CA1にmicroinjectionし、1週間後における海馬内oligomerの分布域と陽性細胞群をCongo Red染色によって明らかにした。エーザイの新規抗体薬Lecanemabを免疫組織染色法に活用し、脳組織内におけるAβ1-42 oligomerの蛍光標識に成功し、グリア細胞やニューロンにおけるAβ1-42 oligomerの分布域を明らかにした。有害作用の拮抗分子については有効濃度を検討中である (Min-Kaung-Wint-Mon,Kida,,Mitsushima. 日本生理学会 2024.3)。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、記銘段階に対するAβ1-42の有害作用を系統的に抽出する。正常学習の記銘過程を解明し、様々な高次機能疾患における正常逸脱点を特定して病態解析への応用に貢献する。抗体薬Lecanemab (Dyck et al. NEJM 2023)を使ったAβ1-42 oligomerの蛍光標識に成功したため、Saline対象群、Aβ1-42群、Aβ42-1群の3群を設定し、定量解析と統計解析を行っている。パッチクランプ法では電位依存性Naチャネル(NaV1.6)、GABAA受容体の単一チャネルなど複数の有害作用点を抽出した。判明した作用点については標的分子を特定して引き続き拮抗分子を探る。正常な記銘機序の解明は、疾患で生じる情報破綻部位の特定に役立ち、病態の診断、制御、治療法確立に応用できる。解析が先行しているNaV1.6の拮抗分子については、学習低下動物の両側CA1に微量注入し、Aβ1-42による学習低下作用の阻止を自由行動動物で確認する。拮抗分子の作用については、我々の行動バッテリーテスト(Sakimoto,,Mitsushima. Sci Rep 2022)を活用し、文脈学習機能、空間認知機能、新奇物体認知機能のみならず、痛覚、視覚、運動機能、情動機能などを総合的に評価し、副作用を含めた薬理作用を総合的に抽出して慎重に評価する。英語論文については1報目の論文が投稿準備中であり、年度内の公表を目指して速やかに投稿を進める。
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