研究課題/領域番号 |
23K06402
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分49010:病態医化学関連
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
坂本 修士 高知大学, 教育研究部医療学系基礎医学部門, 教授 (80397546)
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研究分担者 |
津田 雅之 高知大学, 教育研究部医療学系基礎医学部門, 教授 (90406182)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 骨格筋萎縮 / 骨格筋分化 / 細胞融合 / Myomaker / Myomixer / 恒常的発現 / 遺伝子改変マウス / 骨格筋 / 筋細胞融合マスター因子 / RNA結合タンパク質 / 筋萎縮 |
研究開始時の研究の概要 |
加齢により筋量・筋力が低下する「サルコペニア」や遺伝性疾患である「筋ジストロフィー(MD)」は難治性で、病因は異なるが、病態としては「骨格筋萎縮」の点で共通している。そのため、両疾患共に「骨格筋萎縮」が治療標的であり新規治療法開発には骨格筋の成熟化抑制機構の理解が重要だが、当該機構は不明な点が多い。 本研究では、これまでに我々が見出した『DRBPによる筋細胞融合マスター因子の恒常的発現を介した骨格筋萎縮』の分子機構を明らかにすることを目指している。 本研究により骨格筋の成熟化抑制機構の一端が明らかになることは、「サルコペニア」や「MD」の新規治療法開発における有益な情報になり得ると考えている。
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研究実績の概要 |
超高齢化社会の我が国において、高齢者の筋力の衰え(サルコペニア)は健康寿命が縮む主因となり大きな社会問題である。また、難治性の遺伝性疾患である「筋ジストロフィー(MD)」は様々な病型があり、各病型の原因遺伝子は同定されているが、治療法は十分に確立されていない。「サルコペニア」と「MD」の病因は異なるが、病態としては「骨格筋萎縮」の点で共通している。そのため、両疾患共に「骨格筋萎縮」が治療標的となっている。「骨格筋萎縮」を治療標的とするためには、骨格筋の分化及び成熟化機構の理解が重要となる。骨格筋の分化は、下記の流れで進む。 筋衛星細胞 → 筋芽細胞 → (細胞融合) → 筋管細胞 → (成熟化) → 筋繊維 我々はこれまでに、骨格筋においてDNA- and RNA-binding protein (DRBP)であるNF90-NF45を恒常的に発現するマウス(NF90-NF45 dbTg mice)が筋萎縮を示すことを見出した。加えて、これまでの解析により、「サルコペニア」と「MD」の病態において、NF90-NF45の発現が上昇することも分かっている。従って、NF90-NF45 dbTg miceの骨格筋萎縮の分子機構を解明することは、「サルコペニア」や「MD」の病態発症の解明や新規治療法の開発の礎になるものと考えている。 これまでの我々の解析により、NF90-NF45 dbTg miceの骨格筋萎縮が、筋分化過程における「細胞融合」のマスター制御因子であるMyomaker (MYMK)及びMyomixer (MYMX)の恒常的発現に起因する可能性を見出した。一方で、骨格筋におけるMYMK/ MYMXの恒常的発現が筋萎縮を引き起こすのか、確証が得られていない。そこで、現在、骨格筋においてMYMK/MYMXが恒常的に発現する遺伝子改変マウスの作製を進め、確証実験に取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在、骨格筋特異的に「細胞融合」のマスター制御因子であるMYMK/MYMXを恒常的に発現する遺伝子改変マウス (HSA-MYMK/MYMX Tg mice)の作製を試みているが、当該マウスの樹立には至っていない。 一方で、近年、新たな筋成熟化マーカーとして、Myozenin 1 and 3 (Myoz1 and Myoz3), Troponin I (Tnni2), Dystrophin (Dmd)が報告された(Yoshimoto Y et al. Front Cell Dev Biol 2020)。そこで、NF90-NF45 dbTg miceの大腿四頭筋における当該筋成熟化マーカーの発現解析を行った。その結果、野生型マウスと比較し、NF90-NF45 dbTg miceにおいてMyoZ1, MyoZ3, Tnni3, Dmdの有意な発現低下が確認された。この知見は、NF90-NF45 dbTg miceの骨格筋において筋成熟化が抑制され、筋萎縮が生じていることを示している。筋萎縮は、筋繊維におけるタンパク質合成と分解のバランスにおいて、タンパク質分解が上回った際に生じるとされている。そこで、NF90-NF45 dbTg miceの骨格筋において、筋繊維のタンパク質分解を促進するユビキチンリガーゼであるatrogin-1とMuRFの発現を解析した。その結果、野生型マウスと比較し、NF90-NF45 dbTg miceにおいてatrogin-1の発現は顕著に低下し、MuRFの発現に差異は認められなかった。これらの知見より、NF90-NF45 dbTg miceの骨格筋の萎縮はタンパク質分解の亢進により生じるのではなく、筋成熟化機構の抑制に起因することが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」項目に記載のように、NF90-NF45の過剰発現はMYMK/MYMXの恒常的発現を引き起こす。我々は、このことがNF90-NF45による骨格筋萎縮の要因と考え、現在、HSA-MYMK/MYMX Tg miceの作製に取り組んでいる。一方で最近、他の研究グループより、マウス成体の筋繊維にMYMK/MYMXを過剰発現させると筋萎縮を引き起こすことが報告された(Witcher PC et al. Skeletal Muscle 2023)。一方で当該知見に関しては、第三者による検証は行われていない。そのため、本課題で実施しているHSA-MYMK/MYMX Tg miceの作出と当該マウス骨格筋の形態解析は、「MYMK/MYMXの恒常的発現による筋萎縮」を検証するために重要である。 加えて、本研究課題で取り組んでいる「NF90-NF45過剰発現骨格筋におけるMYMK/MYMXの発現亢進の分子機序解明」は筋萎縮の発症機構を知り、筋萎縮の治療法開発に繋げるために有益な情報となり得る。近年、筋分化・成熟化に関しては、DNAのメチル化やヒストンの化学修飾によるクロマチン構造の弛緩・凝集による遺伝子発現制御(エピジェネティック)が深く関与することが知られている。近年、クロマチン構造の弛緩領域を網羅的に解析する方法としてAssay for Transposase-Accessible Chromatin with high-throughput sequencing (ATAC-seq)が活用される。そこでNF90-NF45 dbTg miceの骨格筋を用いてATAC-seqを実施し、NF90-NF45の過剰発現によるクロマチン構造への影響を解析することで、NF90-NF45によるMYMK/MYMXの恒常的発現の分子機序解明に繋げたいと考えている。
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