研究課題/領域番号 |
23K06487
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分49030:実験病理学関連
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
増井 憲太 東京女子医科大学, 医学部, 准教授 (60747682)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 悪性脳腫瘍 / がん幹細胞 / オミクス解析 / がん代謝 / エピゲノム / 癌幹細胞 / 細胞内代謝 / 網羅的解析 / 膠芽腫 |
研究開始時の研究の概要 |
悪性脳腫瘍である膠芽腫に代表される高悪性度の癌では、腫瘍内に存在する癌幹細胞が種々の癌治療に抵抗するとされる。一方で癌幹細胞は元々存在する細胞集団ではなく、治療ストレスや環境変化により誘導される可逆的な性質に過ぎないとの大胆な仮説が提唱されている。本研究では、癌の病態に関連が深い細胞内代謝の変化により、癌細胞が“幹細胞性”を獲得して治療に抵抗する可能性を検討し、新しい癌幹細胞理論の構築から新規の癌治療開発を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究は、ヒト腫瘍の中でも最も悪性度が高い脳腫瘍である膠芽腫 (グリオブラストーマ) において、細胞内代謝のダイナミックな変化により、癌細胞が“幹細胞性”を獲得して細胞生存や治療抵抗性に関わるという、新しい癌幹細胞理論の構築を目指すものである。幹細胞性の獲得に繋がる代謝の全体像を種々のオミクス解析で網羅的に解析し、特に幹細胞化の制御に関してハブとなる代謝経路を同定することで、未だ有効な治療法のない膠芽腫に対して、幹細胞化経路を標的とする新規治療法を開発することを最終目標としている。 本年度は、癌幹細胞誘導モデルの構築を主眼として研究を展開した。接着細胞であるU87およびT98G (膠芽腫) 細胞を幹細胞培地 (Neurobasal + EGF + FGF) で培養することでneurosphereを形成させると、幹細胞マーカー (Nestin, NANOG, OCT4, SOX2, MYC, BMI1, MSI, CD44) の発現が増加する事を見出した。またneurosphereでは、神経細胞 (Tuj1) やアストロサイト (GFAP) への多分化能を有する事を確認し、抗癌剤 (テモゾロミド) への感受性が低下する事も分かった。更には、幹細胞化させることで、マウス脳へのorthotopic implantationで造腫瘍能が増加した。 これらの結果は、癌幹細胞としての定義を満たすものであり、今後の研究を展開する上で必須となる癌幹細胞誘導モデルが構築できたことを意味する。また、幹細胞への変化は1週間程度の培養期間で誘導されるダイナミックなものだが、十分な幹細胞性を発揮するには4週間程度の培養期間が必要である事も分かり、次年度以降の研究を進める際に参考となるデータが得られたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、本研究で基盤となる可塑的な癌幹細胞誘導モデルを構築する事ができ、更には今後の研究を展開していく上で十分な幹細胞性を発揮するには、4週間程度の培養期間が必要な事も明らかとなった。また、予備データとして、本研究で誘導した癌幹細胞は、解糖系が抑制される一方で、アミノ酸や脂質、核酸代謝などは亢進する特異な代謝状態にある事が分かっている。現在は、これらのデータを基に、誘導された癌幹細胞内の代謝経路およびネットワークの全体像を解析するべく、プロテオームによる代謝酵素またはメタボロームによる代謝産物解析を計画中である。一方で、癌幹細胞モデルの構築には成功したものの、オミクス解析に提出するサンプルの最適条件の検討に時間がかかり、本年度中にオミクス解析までは進むことが出来なかったため、研究全体としてはやや遅れていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、ヒト膠芽腫細胞が特異な低栄養環境にさらされると癌幹細胞としての性格を発揮する事が明らかとなった。この際にダイナミックに変化する代謝状態について、オミクス解析を用いることで、網羅的にネットワーク全体の変化を捉える事を次年度以降の研究の主眼とする。更には、「低栄養ストレス→代謝の再構成→幹細胞性の誘導」という制御軸が明らかとなった場合、代謝の変化が癌の幹細胞性を誘導する具体的なメカニズムの解明に取り組む。特に本モデルでの幹細胞の表現型に着目し、1) 細胞分化を制御するエピゲノムへの代謝の影響、2) スフェア形成という構造変化への代謝の影響、という2点に着目する。具体的には、エピゲノム変化は分化状態に大きく関与し得るヒストン修飾およびDNAメチル化を、代謝変化としてはスフェアという形態変化に貢献し得る脂質プロファイルに特に着目し、接着細胞群とスフェア群でそれぞれ比較検討を行う。同解析により、幹細胞化に関わる経路・機序を同定する事が出来た場合、これらの経路を阻害すると幹細胞 (スフェア) が形成されない可能性まで検討する事で、代謝経路やエピゲノム経路に介入し癌幹細胞の誘導を阻止する新規治療戦略への足掛かりとなり得る、基礎データの取得を目指す。
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