研究課題/領域番号 |
23K06490
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分49030:実験病理学関連
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研究機関 | 日本獣医生命科学大学 |
研究代表者 |
栃木 裕貴 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 准教授 (40571576)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | WOREE症候群 / WWOX遺伝子 / LDEラット / GABAニューロン / Parvalbumin / 甲状腺ホルモン / Wwox / てんかん |
研究開始時の研究の概要 |
難治性てんかんや精神遅滞、早期死亡を主徴とするWOREE症候群は、WWOX遺伝子の変異に起因して発症するヒトの遺伝性疾患である。比較的新しいこの疾患は、中枢神経系の詳細な病理所見や病態発生メカニズムについての知見が少なく、未だ有効な治療法は確立されていない。WOREE症候群モデル動物を用いた最近の研究では、これらの異常がGABA作動性ニューロンの障害に起因する可能性が見出された。本研究計画では、GABA作動性ニューロンの障害がWOREE症候群における中枢神経系の病理学的変化を誘発する主たる原因であることを証明し、治療標的として明確化すると共に薬物治療の可能性を検討する。
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研究実績の概要 |
WOREE症候群は、WWOX遺伝子の変異に起因して難治性てんかんや精神遅滞、早期死亡などの症状を呈するヒトの遺伝性疾患である。比較的新しいこの疾患は、中枢神経系の詳細な病理所見や病態発生メカニズムについての知見が少なく、未だ有効な治療法は確立されていない。WOREE症候群モデル動物として広く認知されているLDEラットを用いたこれまでの研究から、Wwoxの欠損は生後発達期の大脳皮質における「ニューロンの遊走障害や成熟不良」、「著しい髄鞘低形成」を引き起こすことが明らかになっているが、これらの特徴的な病理学的変化が生じる細胞性メカニズムは未解明でる。本研究計画は、WOREE症候群に見られる神経症状と、その原因となる中枢神経系の病理学的変化がGABA作動性抑制性ニューロン(GABAニューロン)の障害に起因するという仮説に基づき、その病態発生メカニズムの解明と、治療標的として明確化することを目的して、研究を進めた。 今年度は、脳組織標本ならびに、ラット胎児大脳皮質由来の初代培養ニューロンを用いて、GABAニューロンの分布を調査したところ、LDEラットにおいてParvalbumin(PV)陽性GABAニューロンが特異的に減少することを明らかにした。また、周産期における甲状腺ホルモン(THs)濃度がGABAニューロンの細胞数に影響することから、LDEラットに対し、甲状腺ホルモンならびにそのアナログの投与を試みた。その結果、PV陽性GABAニューロンの細胞数や髄鞘形成、さらには生存性の改善が観察された。さらなる研究の推進により、WOREE症候群における中枢神経系の病理学的変化を誘発する主たる原因を究明し、治療標的を明確化することが出来ると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
WOREE症候群に見られる中枢神経系の病理学的変化の原因となる細胞性変化を同定するべく、生後発達期のLDEラットの大脳皮質におけるGABAニューロンの分布を調査した。ラットの主要なGABAニューロンマーカー、Parvalbumin(PV)、Somatostatin、Calretininを用いて、それぞれの分布を調査したところ、10日齢において有意な変化は観察されなかったものの、15日齢以降にPV陽性GABAニューロンが特異的な減少を見せ、その減少は21日齢においても継続的に観察された。また、LDEラットより胎児由来大脳皮質ニューロンを分離培養し、同様にGABAニューロンの分布を調査したところ、培養21日ならびに28日において、PV陽性GABAニューロンの特異的な減少が観察された。初代培養ニューロンにおいて陽性GABAニューロンの減少が再現されたことは、Wwoxの欠損がPV陽性GABAニューロンの増殖・分化に与えるメカニズムの解明に向けて、有用なツールになると考えられる。 甲状腺ホルモン投与による表現型の救済を目的に、サイロキシン(T4)、トリヨードサイロニン(T3)に加え甲状腺ホルモンアナログの1つ、3,5-ジヨードチロプロピオン酸(DITPA)の効果を調査した。その結果、T3の投与においてのみ、明確な生存性の改善が観察された。さらに、T3を投与された個体の脳組織において、有意なPV陽性GABAニューロンの増加と、髄鞘低形成の改善が観察された。しかしながら、これらの個体においても音刺激によるてんかん発作を軽減するには至らなかった。T3がPV陽性GABAニューロンの増殖・分化に与える影響については、前述の初代培養細胞を用いてより詳細に解析を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
脳内ならびに血清中のTHs(T4およびT3)含有量は、対照動物とLDEラットの間で変化しなかった。これはLDEラットの脳内におけるTHsの生合成・輸送経路には異常が無いことを意味する。しかながら、外因性T3が救済効果を示したことは、未熟なGABAニューロンのT3に対する感受性の低下を示唆する。また、LDEラット由来初代培養ニューロンにおいてもPV陽性GABAニューロンの減少が再現されたことから、初代培養細胞対するT3の添加実験を行い、甲状腺ホルモン受容体の発現量や、その下流の遺伝子群の発現などを調査する。特に、遺伝子群の発現については、RNA sequence解析の実施を計画している。 LDEラットに対するT3の投与は生存性を改善したが、聴原性てんかんの発生を抑制するには至らなかった。また、脳内におけるPV陽性GABAニューロンの分布も改善していたが、対照群に比較して低値であった。そこで、投与期間や投与量を精査する。これにより、より高い改善効果が得られる投与プロトコルを確立し、神経症状への抑制効果を検討する。 本研究計画では、Wwox遺伝子をPV陽性GABAニューロンに特異的に発現するトランスジェニックラットを作出する予定であったため、本年度はトランスジェニックベクターの構築し、動物の作出に着手する予定であった。しかしながら、初代培養ニューロンにおいてもPV陽性GABAニューロンの減少が再現されたことから、初代培養細胞を用いた研究を先行させた。次年度以降において、初代培養細胞で得られた成果を精査し、よりよい成果が得られると判断できた場合は、トランスジェニックラットの作出に着手する予定である。
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