研究課題/領域番号 |
23K06492
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分49030:実験病理学関連
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研究機関 | 愛知医科大学 |
研究代表者 |
山崎 達也 愛知医科大学, 医学部, 講師 (50624087)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | RP105 / アゴニスト抗体 / インフルエンザウイルス / エピトープ / 架橋 / 抗体遺伝子 / アジュバント / 遺伝子免疫 / トル様受容体 / ワクチン |
研究開始時の研究の概要 |
病原体を中和できる抗体の誘導がワクチンの主な目的である。よって、その中和抗体レベルを増強させる添加物(アジュバント)の開発は重要である。我々は過去の研究において、マウスへのインフルエンザウイルス抗原遺伝子の接種時に、「トル様受容体RP105 に対するアゴニスト抗体(RP14)」を発現する抗体遺伝子を同時に接種することで、 抗原特異的な抗体レベルや中和抗体レベルは増強されることを見出した。 本研究では、この「RP14 抗体アジュバント」の実用化を目指すため、RP14 抗体とウイルス抗原の融合遺伝子を用いて、より高いアジュバント効果を得ること(=高い中和抗体レベルを誘導できること)を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究では、インフルエンザを感染症のモデルとし、アゴニスト抗RP105抗体を発現する遺伝子を、中和抗体レベルの増強が可能な遺伝子ワクチンのアジュバントへ応用することを目指している。RP105は、トル様受容体(TLR)ファミリー分子の1つで、抗体産生細胞(B 細胞)に発現している。 RP105に対するアゴニスト抗体(クローン名:RP/14)は、B 細胞を強力に活性化できることが知られている。また、ウイルスを中和するための主な標的は、ウイルス膜タンパク質の1つであるヘマグルチニン(HA)抗原である。 研究代表者らのこれまでの研究では、細胞膜貫通ドメイン(TM)を付加したRP/14抗体(RP/14/TM)遺伝子を作製し、HA抗原とともに細胞膜上に共発現させることで、B細胞に活性化刺激と抗原刺激の両方を効果的に供与できると考えた。このRP/14/TM 発現細胞とB 細胞を共培養するとB 細胞は活性化した。実際にHA 遺伝子とRP14/TM 遺伝子をマウスに同時接種すると、血中のHA 特異的な中和抗体レベルは上昇した。しかし、実用化のためには、そのアジュバント効果(中和抗体レベル)をさらに高める必要が考えられた。そこで、B細胞への効果をさらに高めるために、RP/14とHAを直接融合させた(RP/14/HA)遺伝子を作製した。しかし予想外に、RP/14/HA 発現細胞ではB 細胞を活性化できなかった。ゆえにRP/14/HAの構造を再検討する必要が生じたが、RP/14によるB細胞活性化の分子メカニズムの詳細は不明であるので、最適な構造の検討は難しい。そこでまずは、その分子メカニズムを解明することにした。 今年度の成果として、RP/14によるB細胞活性化にはRP105の架橋(2つの分子をつなぐこと) が重要であることを明らかにし、RP105のRP/14との結合部位(エピトープ)を同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1価のRP/14 Fab(可変領域+定常領域の一部)とHAの融合遺伝子から発現させたRP/14/HAは、B細胞を全く活性化できなかった。そこでRP/14によるB細胞活性化において、RP105の架橋は重要であるかを解明することにした。まずはRP105発現細胞にRP/14を添加して数日培養し、その細胞ライゼートをNaitive-PAGE(ネイティブフォームのタンパク質やタンパク質複合体を高分解能で分離して解析する方法)で解析したところ、RP105の複合体が検出された。また、リンカー配列で2つのFabをつないだ2価のRP/14 Fab遺伝子を作製して細胞に発現させ、1価のRP/14 Fab とB細胞活性化能を比較すると、2価のRP/14 FabのみB細胞を活性化できた。以上から、RP/14によるB細胞活性化には、RP105の架橋が重要であることが示唆された。 RP105は可溶性タンパク質MD-1と1:1で会合しホモダイマーを形成していることが知られている。そこでRP/14は1つのホモダイマー内に結合するのか、複数のホモダイマー同士の架橋が可能であるかを明らかにするため、RP/14のエピトープを同定することにした。RP105の変異体を作製して解析したところ、RP/14のエピトープに含まれるアミノ酸の同定に成功した。近年、エネルギー的に安定して抗原と結合できる抗体の“腕”の距離は約95Åと報告された。この距離と、同定したアミノ酸のRP105における配置から、RP/14は1つのホモダイマー内に結合するよりも、主に複数のホモダイマーに結合して架橋することが示唆された。 RP/14によるB細胞活性化においてRP105の架橋の重要性を明らかにし、RP/14のエピトープを同定したことで、RP/14/HAの構造を検討するための情報を得られた。これより、研究の進捗状況はおおむね順調であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
前述で作製した2価のRP/14 Fabにおいて、B細胞活性化レベルはRP/14(完全長抗体)の10分の1以下であった。またリンカー配列の長さから、この2価のRP/14 Fabの腕の距離は約70Åと予想された。これはエネルギー的に安定した距離(95Å)の“腕”をもつ抗体と比較して、結合エネルギー(kcal/mol)は5倍以上の差があると予想された。よって、リンカー配列の長さを検討して、最適な(=高レベルにB細胞を活性化できる)距離の腕をもつ2価のRP/14 Fabの作製を目指す。 一方でRP/14のエピトープ同定では、Mouse(m)RP105とHuman(h)RP105のホモロジーは約70%であることと、RP/14はmRP105のみに結合することを利用して、mRP105とhRP105のキメラ(=両者で異なるアミノ酸において、hRP105由来のアミノ酸のいくつかをmRP105へ移植した変異体)遺伝子を作製した。この変異体を細胞に発現させてRP/14を反応させたところ、その結合能は全く消失していた。逆に、それら候補アミノ酸をhRP105へ移植して作製した変異体を細胞に発現させるとRP/14と強く反応した。また、タンパク質構造の予測精度が飛躍的に向上したAIシステムであるAlphaFold2で変異体の構造を確認したところ、移植による大きな構造変化は認められなかった。以上から、RP/14のエピトープに含まれるアミノ酸を同定できたと考えている。また、同定したアミノ酸には荷電アミノ酸が多く含まれていた。ゆえに、パラトープ(抗体の抗原結合部位を形成するアミノ酸)にも荷電アミノ酸を含む可能性がある。そこで荷電アミノ酸を中心に、パラトープを形成するアミノ酸の同定も検討する。さらに同定したパラトープをつなげてRP/14抗体遺伝子構造を最小化できるかも検討し、B細胞活性化能について解析を行う。
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