研究課題/領域番号 |
23K06493
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分49030:実験病理学関連
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
佐藤 文孝 近畿大学, 医学部, 講師 (30779327)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 動物モデル / ウイルス性心筋炎 / ピコルナウイルス / 血小板 / バイオインフォマティクス |
研究開始時の研究の概要 |
新型コロナウイルス感染者に心筋炎の発症が報告されていうように、心筋炎の主な原因はウイルス感染であるが、心筋炎の病態および重症化に関与する因子は不明である。当研究室ではこれまでに、ウイルス性心筋炎動物モデルのトランスクリプトーム解析から血小板の関与が示唆された。近年、血小板は血液凝固に働いているだけでなく、免疫病態を悪化させうる新しい役割が報告されている一方、多様なウイルスに結合しウイルス排除に働く可能性も考えられている。これらのことから、本研究ではウイルス性心筋炎動物モデルを用いて血小板の役割を解明することで、ウイルス性心筋炎の病態解明および新たな診断・治療戦略へとつなげる。
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研究実績の概要 |
心筋炎は,主にウイルス感染により惹起される免疫介在性の疾患であるが,無症候性であることが多いため,これまで看過されている。ウイルス性心筋炎は急性期・亜急性期・慢性期の三つの病期に分けられるが,急性期にとどまる症例から慢性期まで進展し致死性となる症例まであり,病期の進展に関わる危険・増悪因子は不明である。近年,ウイルス感染症と免疫疾患の双方の病態に関与する生体側の因子として血小板が注目されている。心筋炎において,血小板が心臓で検出されている一方,ウイルス感染急性期では血小板がウイルス排除や自然免疫の調整に働くという報告がある。すなわち,血小板が心筋炎の病態に関与していることを示唆するが,どのように心筋炎の各病期の病態や病期の進行に関与しているかは不明である。そこで,ヒト心筋炎の異なる病期を再現することが可能なタイラーウイルス誘導性心筋炎モデルを用い,血小板の動態を三つの病期で比較検討したところ,免疫細胞の浸潤が病態に関与する亜急性期において心筋内への血小板の遊走が増加していた。このモデルにおける血小板の役割をさらに解析するため,血小板に対する中和抗体を急性期または慢性期に投与したところ,中和抗体投与群では非投与群に比べて病理学的に心筋炎が軽減していた。病理像と一致して,中和抗体投与群ではウイルスの排除に関与するサイトカイン“インターフェロンγ”の産生が亢進していた。さらに,血小板の中和抗体投与により血清中の抗タイラーウイルスIgG抗体のサブクラスの割合(IgG2a/IgG1)に変化が生じていた。本成果から心筋炎の病態において血小板が抗ウイルス免疫反応に影響を及ぼすことが明らかとなり,血小板-免疫細胞間コミュニケーションの解明が,心筋炎に対する新たな治療法の開発へつながる可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度は,タイラーウイルス誘導性心筋炎モデルを用いて,心筋炎の急性期・亜急性期・慢性期の三つの病期における血小板の役割を検討した。血小板のトランスクリプトーム解析において,タイラーウイルスゲノムは急性期・亜急性期・慢性期のどの病期においても検出されなかった。一方,k-means法などのバイオインフォマティクス的手法を用いた血小板のトランスクリプトーム解析を行ったところ,急性期には主要組織適合抗原 (MHC) クラスI分子関連遺伝子が,亜急性には自然免疫関連遺伝子の発現が,慢性期には微小管関連遺伝子がそれぞれ増加していたことを見出した。このことから,血小板は急性期・亜急性期では免疫反応に,慢性期では心筋の線維化に関与することが示唆された。そこで,血小板の中和抗体を用い,急性期または慢性期における血小板の枯渇実験を行ったところ,病期に関わらず中和抗体投与群は非投与群に比べて心筋の線維化が軽減しており,タイラーウイルス誘導性心筋炎モデルでは血小板が増悪因子となることを示唆した。また,中和抗体投与群は非投与群に比べてウイルス排除に関与するサイトカイン“インターフェロンγ”の産生が亢進しており,かつ血清中の抗タイラーウイルスIgG抗体サブクラスの割合(IgG2a/IgG1)が中和抗体投与の投与により変化していたことから,血小板が免疫反応を制御することで心筋炎の増悪に関与することを示唆した。心筋炎の動物モデルを用いて血小板の役割を検討した研究成果は少なく,かつすでに論文発表(Ahmad and Sato et al., Int J Mol Sci, 2024, doi: 10.3390/ijms25063460)を行っていることから、令和5年度の研究達成度としては,おおむね順調と評価している。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度に行った血小板の枯渇実験より,血小板が抗ウイルス免疫を制御することでタイラーウイルス誘導性心筋炎モデルにおいて増悪因子となる可能性を示唆した。この研究成果をさらに補強するため,免疫染色による心臓に感染したウイルスの検出・定量またはプラークアッセイによる心臓のウイルス価を定量する。また,心筋炎の病態に関与することが報告されている免疫細胞の中で,血小板の枯渇によりどの免疫細胞が心臓への浸潤に違いが生じ、その結果として心筋の線維化が軽減されたのかを免疫染色により解析する。さらに,血小板と免疫細胞とのコミュニケーションをより解明するため,血小板のトランスクリプトームデータとウイルス学的・免疫学的パラメータとのパターンマッチングを行う。一方,マウスへの血小板中和抗体の投与により4日間95%以上の血小板の枯渇できることを見出したが,副反応として持続的な出血,貧血,体重減少などが認められた。そこで,血小板P2Y12受容体に対する阻害薬であるプラスグレルの使用し,今回の血小板の枯渇実験と同様な結果が得られるかを検討する。
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