研究課題/領域番号 |
23K06503
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分49030:実験病理学関連
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
大倉 定之 日本医科大学, 医学部, 助教 (10731036)
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研究分担者 |
石野 孔祐 日本医科大学, 医学部, 講師 (60584878)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | retrovirus / HIV-1 / bat / host factor / proteomics / capsid / host factor |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、未だに根治療法がない後天性免疫不全症候群(エイズ)を克服するために、ウイルス感染後細胞内炎症応答が誘導されないコウモリに由来する細胞を解析し、HIV-1感染抑制のコウモリ間での普遍性を明らかにすると同時に、コウモリ細胞が炎症を誘導しない機序を解明する。この機序に関与する、HIV-1キャプシド(CA)コアに高い親和性で結合して感染を特異的に防御する因子をプロテオミクスを用いた網羅的解析により同定する。これら因子の炎症抑制関連部位およびCA結合部位を用いて、CA高親和性と炎症抑制によりエイズ発症を防御する人工HIV-1抑制分子をデザインすることにより、新規抗エイズ薬のシード開発を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究ではコウモリ細胞においてヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)感染が抑制されるメカニズムを解明することを目的とする。コウモリ細胞にはHIV-1は侵入できないと考えられるため、エンベロープをVSV-Gにシュードタイプ化したHIV-1ベクターウイルスを感染させた。オオコウモリ細胞はHIV-1感染に対して抵抗性を示したため、感染細胞をウイルスゲノム由来の蛍光タンパク質発現によってソーティングして、感染性が高い細胞群および低い細胞群を濃縮した。3種類の蛍光タンパク質遺伝子を有するHIV-1を用いて高感染性、低感染性細胞群の濃縮を3回繰り返すことにより、高感染性および低感染性細胞群の純度を高めた。こうして得られた高感染性および低感染性細胞群間でタンパク質発現の変化を網羅的に質量分析により解析した。 その結果、研究に用いた6種のココウモリ細胞はHIV-1感染に対して感受性が高かったのに対して、5種のオオコウモリ細胞はHIV-1感染に抵抗性であった。オオコウモリ細胞におけるHIV-1感染抵抗性はHIV-1のcapsid依存性であり、同ウイルスの感染は逆転写反応の完了後、ウイルスゲノムのコウモリゲノムへの組み込みまでの間で阻害されたことから、霊長類ですでに同定された宿主因子の関与を疑った。しかし、実験結果から該当するTRIM5、CPSF-358、Mx2/MxBのオオコウモリのorthologはHIV-1感染を抑制しなかったことから、新規の感染抑制因子の関与が示唆された。 また感染感受性が異なる2群の細胞群のタンパク質発現を質量分析により解析した結果、発現が異なるタンパク質が判別解析によって感受性に応じて明確に2群に分かれ、感染抵抗性の細胞群ではmRNA splicingやautophagosomeに関連する因子の発現が高いことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HIV-1感染に対するコウモリ種特異的な感受性の解析はすでに済んでおり、この結果を踏まえて感受性が高いオオコウモリ細胞の解析を進めている。HIV-1のほか、代表的なレトロウイルスであるマウス白血病ウイルス(MLV)に対する感受性の解析も進め、HIV-1感染に対するオオコウモリ細胞の感染抵抗性およびMLV感染に対するココウモリ細胞の感染抵抗性が新規の宿主因子によることを示唆した。これら新規因子の同定に関わる研究を進めている。また、感染抵抗性の細胞群で特異的に発現するタンパク質を解析する研究では、感受性細胞群の濃縮を済ませ、これら細胞を用いた質量分析を行い、同定されたタンパク質の解析を進めている。こうしたことから、初年度としては順調に研究が進展していると考えている。一方で、本研究ではHIV-1 capsid coreと相互作用するコウモリ由来の宿主因子の探究も課題として含めているが、実験の設備上の問題から実験に手間取っている。本報告作成時点で実験設備の問題解決の目処は立っていることから、全体として概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
HIV-1感染に対する感受性と並行して実施しているMLVを抑制するコウモリ細胞因子の研究では、既知の宿主因子の関与が示唆されたことから、同因子がMLV感染を抑制する機序に関して実験結果をまとめ、学術誌で公表する。HIV-1に対する感染感受性のオオコウモリ細胞のプロテオーム解析は概ね計画通りに進展しているため、このまま計画の通り進める予定である。感染させるHIV-1に関して、これまでは第2世代、第3代世代に相当するベクターウイルスを使用していたが、感染性HIV-1と比較するとかくウイルスタンパク質のウイルス粒子ないでの比率が異なることがわかっていることから、より自然な感染後の細胞免疫応答を解析するため、感染性ウイルスにより遺伝的に近づけたウイルスを使用し、これまでと同様のタンパク質解析を行うことを予定している。またプロテオーム解析にはリファレンスとなるタンパク質データベースが必要となるが、コウモリのタンパク質データベースはないことから、RNA-seqに基づいたゲノムデータベースを参照し、ここから推定されるタンパク質データをリファレンスとして用いていた。非感染のコウモリ細胞のトランスクリプトーム解析を進め、より細胞内のタンパク質発現に近いタンパク質データベースを作成し、公開していく。また、HIV-1 capsid coreと相互作用するオオコウモリ細胞由来の宿主因子の探索に関する研究に関しては、capsid coreの精製方法を改良し、本年度中には相互作用する宿主因子の質量分析を終わらせることを計画している。
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