研究課題/領域番号 |
23K06581
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分49070:免疫学関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
SEO WOOSEOK 名古屋大学, 医学系研究科, 特任准教授 (40574116)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | SATB1 / ヘルパーT細胞 / Treg / 疲弊T細胞 / Satb1 |
研究開始時の研究の概要 |
申請者は、ゲノムオーガナイザーSatb1が「キラーT細胞」の疲弊現象を制御することを見出し、更に、キラーT細胞の適切な免疫応答をコントロールする「ヘルパーT細胞」を解析した結果、ヘルパーT細胞の疲弊においても、Satb1が深く関連することを発見した。この研究結果を一層発展させるため、本研究提案では、転写制御ネットワークやクロマチン変化の探索にとどまる従来の手法を超え、その上流、すなわち、Satb1によるゲノム構造変化レベルからトップダウンでアプローチを目指すことで、T細胞の活性・疲弊の分子制御機構を新しい視点から理解することを試みる。
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研究実績の概要 |
獲得免疫の主役であるT細胞は、CD8陽性のキラーT細胞とCD4陽性のヘルパーT細胞によって成り立っている。ヘルパーT細胞のなかには、免疫反応を行うTh1・Th2・Th17などのエフェクターT細胞と、免疫応答を抑制する制御性T細胞(Treg)が存在する。しかし、慢性炎症やがん微小環境に集積しているT細胞は、抗原刺激を繰り返し受けることで、免疫のブレーキ役割を果たすPD-1、CTLA-4、TIM-3、LAG-3、2B4などの「免疫チェックポイント分子」を持続的に高発現し、徐々に「疲弊」と呼ばれる免疫機能不全状態に陥ってしまう。現在、疲弊したT細胞の免疫チェックポイント分子をブロックする、いわゆる、「免疫チェックポイント阻害剤」を用いた免疫療法は、新しいがん治療選択肢として注目されているが、未だに不明な点か多い。本研究は、ゲノムオーガナイザーSatb1がキラーT細胞の疲弊現象を制御することを見出した申請者の先行研究成果をもとに、ヘルパーT細胞においてのSatb1の機能を明らかにすることを目標にしている。本研究提案では、転写制御ネットワークやクロマチン変化の探索にとどまっている従来の疲弊T細胞分野の研究とは異なり、遺伝子発現制御の上流で働くゲノムオーガナイザーSatb1によるゲノム構造変化を調べることで、T細胞疲弊の分子制御機構を明らかにすることを試みる。令和5年度では、CD4 陽性ヘルパーT細胞においてのSatb1の機能を調べるために、CD4陽性ヘルパーT細胞特異的Satb1コンディショナルノックアウトを作製し、flow cytometryとRNA-seqを用いて解析を行った。こちらの実験では、CD4陽性のヘルパーT細胞においても、Satb1が細胞の活性・疲弊状態をコントロールしており、とりわけ、PD-1の発現を抑制していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CD4 陽性ヘルパーT細胞においてのSatb1の機能を調べるため、CD4陽性ヘルパーT細胞特異的Creマウス(ThPOK-Cre)とSatb1 flox/floxマウスを掛け合わせ、Treg特異的遺伝子FoxP3にGFPを挿入したFoxP3-GFPマウスと掛け合わせることで、Satb1 F/F; ThPOK-Cre; FoxP3-GFPを完成した。Satb1 F/F; ThPOK-Cre; FoxP3-GFPマウスの二次リンパ組織をflow cytometryを用いて解析したところ、Satb1を欠損したCD4陽性細胞からPD-1が過剰発現していることを発見し、CD8陽性細胞と同様、CD4陽性細胞でも、Satb1転写因子がPdcd1遺伝子を抑制していることが分かった。 Satb1によるCD4陽性細胞の活性・疲弊状態の制御についてもっと詳細に調べるため、悪性黒色腫B16-F10の担癌マウスモデルを作製して検討した。Satb1のCD4陽性細胞特異的ノックアウトマウスからは、非常に強い抗がん作用が認められ、エフェクターヘルパーT細胞の主要殺傷能の増強、もしくは、Tregの免疫抑制能の減弱が原因として考えられた。腫瘍のFlow cytometry解析からは、Satb1の発現が正常であるCD8陽性キラーT細胞の活性が著しく増加していることか分かった。Satb1欠損がTregに与える影響について直接検討するため、Tregの細胞増殖抑制アッセイを行った結果、予想通り、Satb1欠損のTregは野生型と比較して、細胞増殖抑制能が弱いことが分かった。従って、こちらの実験から、CD4陽性のヘルパーT細胞、特にTregにおいても、Satb1が細胞の活性・疲弊状態の制御に関わっており、Satb1を欠損しているTregは機能不全状態に落ちてしまうことが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度においては、ゲノムオーガナイザーSatb1がどのように、エフェクターヘルパーT細胞とTregの活性・疲弊を制御しているかを分子レベルで明確に解析するため、RNA-seqを用いて更なる網羅的解析を行う必要がある。とりわけ、単一細胞遺伝子解析技術であるsingle cell RNA sequencing (scRNA-seq)、あるいは、オープンクロマチン解析であるATAC-seqを組み合わせたscATAC-seqを行い、ヘルパーT細胞とTregの活性と疲弊過程においてダイナミックに展開されるトランスクリプトームについて1細胞レベルで探索することを考えている。更に、Satb1 ChIP-seqと組み合わせることで、上記のシングルセル解析から浮かび上がる遺伝子群について、Satb1による直接制御の可能性を調べる。 令和7年どにおいては、上記の解析をバイオインフォマティクスを用いて詳細に解析し、ゲノムオーガナイザーSatb1によって直接制御される因子の同定を試みる。以上のマルチスケール解析に基づいて明らかになったSatb1の新しい標的分子においては、Crispr/Cas9によるノックアウトマウスモデルを作成し、loss-of-function実験を行うことで、T細胞の活性や疲弊を制御する新規分子としての役割について調べる。
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