研究課題/領域番号 |
23K06610
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分50010:腫瘍生物学関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
西村 建徳 名古屋大学, 医学系研究科, 助教 (10624869)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | ミトコンドリア / 葉酸代謝経路 / がん転移 / 葉酸代謝 / エピゲノム |
研究開始時の研究の概要 |
本研究ではなぜミトコンドリア内葉酸代謝阻害により、再発・転移に関与する腫瘍原生能が低下するのかを阻害剤によるエピゲノム変化を解析することで、原因遺伝子の同定とその変化の機序までを明らかにする。複数あるミトコンドリア内葉酸代謝酵素のうち、本研究では、その特異的阻害剤は唯一存在するMethylenetetrahydrofolate dehydrogenase 2 (MTHFD2)をミトコンドリア葉酸代謝阻害の作用点とする。
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研究実績の概要 |
葉酸代謝では細胞質とミトコンドリアに異なる酵素が局在し、後者ではより小さい区画でより複雑な反応が起きている(グリシン開裂系はミトコンドリアでのみ起きる)。がん細胞のミトコンドリア内葉酸代謝酵素は細胞質の酵素と比べて正常細胞との発現差が大きいため、新規抗がん剤のターゲットとして注目されている。本研究ではミトコンドリア内葉酸代謝酵素の中でもその特異的阻害剤が現在までのところ、唯一存在するmethylenetetrahydrofolate dehydrogenase (NADP+ dependent) 2, methenyltetrahydrofolate cyclohydrolase (MTHFD2)に着目する。これまでの申請者や他の研究者の研究から、MTHFD2の阻害は増殖の阻害に加えて転移も阻害することがわかってきた。増殖阻害の機序はこれまでの申請者のヒトがん細胞を用いたin vitro, in vivoの研究、マウスモデルのノックアウト細胞を用いた研究、他の研究者の研究から既存の葉酸代謝拮抗剤と同様に核酸合成阻害であることがわかった。しかし、転移阻害の機序についてはいまだはっきりとしたことがわかっていない。そのため、転移阻害を目的としたミトコンドリア内葉酸代謝拮抗剤の臨床応用の議論が進んでいない。今年度の実験からMTHFD2をノックダウンすると転移に関与すると考えられる、腫瘍原生能の低下や上皮系マーカー遺伝子の上昇、間葉系マーカー遺伝子の低下、運動能の低下がみられることがわかった。そして、MTHFD2の阻害またはノックダウンにより、NAD+、NADHやAICARなどの種々の代謝物の変化が見られた。これらの中にはepigenome modifierの補酵素となる代謝物も含まれていたため、MTHFD2の阻害によりエピゲノムが変化することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究ではがん培養細胞株、臨床検体を用いて、ミトコンドリア内葉酸代謝経路の阻害によって低下する転移能の分子機序を明らかにする。当初の予定よりも系の立ち上げと安定化に時間がかかってしまい、研究計画はやや遅れている。しかし、今年度で系が安定したことを確認できたので、次年度に遅れを取り戻せる見通しがたった。 今年度までにミトコンドリア内葉酸代謝経路の阻害により変化する遺伝子や代謝物についてわかってきた。次年度以降ではミトコンドリア内葉酸代謝経路阻害によるエピゲノムの変化を同定する。その後、遺伝子・代謝物の変化とエピゲノム変化の間の関連性を分子レベルで明らかにする。そして、エピゲノムの変化に関与するepigenomic modifierを同定する。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降はエピゲノムに集中して解析を行う。葉酸代謝経路はメチル基のドナーであるS-アデニルメチオニンの生成経路であるメチルサイクルにも一炭素を供給している。しかし、ミトコンドリア内葉酸代謝経路の阻害により、少なくとも一つの細胞株においては、メチルサイクルの代謝物の大きく有意な変化は見られなかった。しかしゲノムやヒストンのメチル化にも変化が起きていないかについては次年度以降、複数の細胞株を用いて検証を行う。 他の研究グループの今年度の学会報告から葉酸代謝拮抗薬のIC50はそのポリグルタミン酸化によって大きく低下することがわかった。MTHFD2の特異的阻害剤DS18561882も同様にポリグルタミン酸化によってIC50を現在の数百nMオーダーから一桁あるいは二桁落とせるのかについて検討する。もし可能であれば、現在でも少ない副作用をより軽減、あるいは投与量を減らせる可能性が出てくる。また、転移阻害剤としての将来的な応用に際して、ポリグルタミン酸化酵素(FPGS)の発現が高いことが治療効果の判定バイオマーカーになるのかについても検討する。
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