研究課題/領域番号 |
23K06631
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分50010:腫瘍生物学関連
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
中山 瑞穂 金沢大学, がん進展制御研究所, 准教授 (20398225)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 大腸がん / 変異p53 / LOH / 不均一性 |
研究開始時の研究の概要 |
大腸がんの転移・再発など悪性化制御は、未だ不明な点が多い。変異p53は新たな発がん機能を獲得することが知られる。我々は変異p53を含むヒト大腸がんドライバー遺伝子変異を持つ悪性化大腸がんオルガノイドを樹立し、転移巣では遺伝的背景が同じ腫瘍細胞間で、変異p53タンパク質を核内に蓄積する細胞と、分解され検出できない細胞が混在し、両細胞間では細胞シグナル活性に違いがあるという予備的結果を得た。本研究は、変異p53タンパク質蓄積の不均一性とそこに生じる細胞間相互作用に着目し、腫瘍細胞間に局所的に形成される微小環境が腫瘍形成や悪性化を促進するメカニズムについて、個体レベルで明らかにすることを目的とする。
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研究実績の概要 |
大腸がんの転移・再発などの悪性化制御には、複数のドライバー遺伝子変異蓄積のほか腫瘍内不均一性など、多様な要因が関わっている。申請者が着目しているp53遺伝子は大腸がんドライバー遺伝子の一つであり、変異により新たながん促進機能を獲得することが知られる。申請者らはこれまでに大腸がんモデルマウスから腫瘍オルガノイドを樹立し、変異p53発現に加え野生型p53のLOHによる欠失が転移に重要な役割を果たすことを報告した(Nakayama et al. Nature Communications 2020:11:2333)。ヒト大腸がんでは変異p53発現腫瘍のほとんどで野生型p53LOHが認められることから、これらの組み合わせは大腸がんの悪性化に重要なイベントであることを強く示唆している。 腫瘍細胞に発現する変異p53の多くでタンパク質蓄積が知られる。しかしその制御機構はほとんど分かっていない。さらにp53遺伝的背景が同じであるにも関わらず変異タンパク質が蓄積している細胞と分解されている細胞が混在していることも知られている。本研究ではこれら両細胞間に見られる細胞間相互作用に着目し、局所的ながん微小環境を介した悪性化メカニズムを明らかにすることを目的としている。 2023年度は、遺伝的背景が明確なマウスの腸管腫瘍に加え、ヒトの大腸がん検体(原発巣および肝転移巣)でも変異p53タンパク質蓄積の割合を調べ、マウスで40-80%、ヒト大腸がんで50-90%の腫瘍細胞で変異p53タンパク質蓄積が見られることを明らかにした。このことは変異p53タンパク質も野生型p53と同様に何らかの分解機構によって分解されていることを示す。またマウスの腫瘍オルガノイド細胞を用いた実験から、変異p53発現腫瘍ではp53欠損腫瘍細胞に比べ、Wnt活性が顕著に上昇していることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者らは、以前にp53を含む大腸がんドライバー遺伝子Apc (Apc delta716), Kras(KrasG12D), Tgfbr2(Tgfbr2 KO), p53(R270H-p53)を複合的にもつ大腸がん悪性化モデルマウスの腸管腫瘍からAKTPオルガノイドを樹立した。また、このオルガノイド細胞からCRISPR-Cas9を用いてp53を欠損したp53Null-AKTP 細胞も樹立した。 変異p53の腫瘍細胞における不均一なタンパク質蓄積は古くから知られており、本研究の課題である変異p53タンパク質の不均一性をp53欠損-AKTP細胞(AKTP Null)と変異p53発現AKTP(AKTPR273H)細胞を用いて再現した。これまでに、マウスやヒト大腸がん検体での解析から変異p53のタンパク質蓄積が同じような傾向にあること、またそれぞれの細胞を用いた分子細胞生物学的手法から、変異p53特異的に活性化している細胞内シグナルや、あまり変化しない細胞内シグナルがあることがわかった。また、それらのシグナルに特異的なインヒビターを用いた解析も行い、変異p53タンパク蓄積腫瘍細胞の特性を明らかにすることができた。 このような状況から、本課題の進捗状況は概ね順調であると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
野生型p53はMDM2(ユビキチンリガーゼ)によって分解され、細胞内での発現量は厳密に制御されている。しかし、がん腫瘍細胞で見られる変異型p53タンパク質の多くは分解機構を逃れ細胞内に蓄積されており、その制御機構はほとんど理解されていない。興味深いことに、実際の腫瘍病理組織ではp53蓄積細胞とp53分解細胞が同一腫瘍内に混在して観察される。 申請者はAKTPR270H細胞とAKTPNull細胞間でシグナルpathway の違いを見出しており、これらの混在がこのシグナルpathwayにどのような影響を及ぼしているのか、さらには腫瘍内微小環境をどう構築しているのかについて解析していく。具体的にはAKTPR270H細胞とAKTPNull細胞を共培養し、片方に変異p53特異的に活性化しているpathwayをモニターするレポータープラスミドを導入し、さまざまな条件下で培養しながらシグナルpathwayの活性化を測定する。これにより腫瘍内での変異型p53タンパクの蓄積と細胞内pathway活性化の相関を明らかにしていく。
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