研究課題/領域番号 |
23K06670
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分50010:腫瘍生物学関連
|
研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
辻岡 政経 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, プロジェクト講師 (60442985)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
|
キーワード | FAP1 / FRNK / FAK / がん / 接着斑 / DNA損傷ストレス / ケミカルバイオロジー |
研究開始時の研究の概要 |
申請者は、新たに発見した接着斑構成タンパク質FAP1 が、がんの生着や播種に関与し、がんの悪性化を促進することを見出している。本研究では、①FAP1 の発現制御機構とその機能、②生体での役割を明らかにするとともに、③がんの生着に関わるメカニズムを明らかにする。また、④ケミカルバイオロジーを応用して、FAP1 関連分子の同定と、これらを標的とした抗がん剤候補化合物の開発を行う。
|
研究実績の概要 |
がん細胞は、周囲の細胞外マトリックスと接着することにより生着し、接着斑と呼ばれる接着構造を足場として増殖、移動する。申請者は、接着斑構成タンパク質FAP1が、がんの悪性化を促進することを見出している。①FAP1の欠損により、がん細胞の生体への生着、播種が著しく抑制されることに加え、②FAP1は、DNA損傷ストレスにより発現が誘導され、FAP1を発現する腫瘍塊中の細胞ではDNA損傷が検出されること、③FAP1の発現誘導に、転写因子Nrf2が必要であること、④FAP1により接着斑が安定化し、細胞接着が増強されること、⑤大腸がんの臨床検体では30%程度でFAP1の発現が検出されること、を本申請以前に明らかにしている。これらの結果から、腫瘍塊中では、DNA損傷によりFAP1が発現して細胞接着を増強し、がんの生着・転移、ひいては悪性化を促進する、という仮説を構築している。本研究では、この仮説を基に、FAP1の機能と発現制御機構、がん悪性化における役割を明らかにする。また、ケミカルバイオロジーを応用して、FAP1関連分子の同定と、これらを標的とした抗がん剤候補化合物の開発を行う。 FAP1は、既知のタンパク質FRNKと同一であった。FRNKは、接着斑の主要タンパク質であるFAKの、中央ややC末寄りに存在するメチオニンを開始コドンとしたタンパク質である。このため、FRNKは、FAKのN末ドメインやキナーゼドメインは有していないものの、このメチオニン以降のFAKと同一のアミノ酸配列を持ち、C末端に存在する接着斑局在ドメインもFAKと同一である。また、開始メチオニンを含むエキソンの上流にFRNKの発現制御領域があるが、これはFAKのイントロン領域に該当する。この制御領域を破壊することにより、FAKの発現には影響せず、FRNKのみが欠失する株が得られている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請以前に、FRNKの発現誘導には転写因子Nrf2が必要であり、FRNK遺伝子の上流にNrf2結合のコンセンサス配列があることを見出していた。当該年度は、ChIPアッセイ法により、DNA損傷処理時特異的に、このコンセンサス配列にNrf2が結合することを見出した。更に、Nrf2の結合が見られない通常状態では、Nrf2の類似分子であるNrf1がこの領域に結合していることを明らかにした。したがって、Nrf転写因子ファミリータンパク質の入れ替わりが、FRNK発現制御に重要であることが示唆された。 また、当該年度は、FRNKとFAKが同一領域を有することを踏まえ、FAKのN末端、C末端をそれぞれ認識する2種類の抗体で、培養細胞の染色を行なった。通常状態では、両方の抗体で認識される接着斑のみが観察されるのに対し、DNA損傷処理後の細胞では、C末端を認識する抗体でのみ染色される接着斑が有意に増えた。DNA損傷ストレスにより発現誘導されたFRNKが、C末端に存在する接着斑局在ドメインによってFAKと競合し、接着斑においてFAKとFRNKの入れ替わりが起こるメカニズムが示唆された。 本申請以前に、FRNK欠損マウスに異常は見出されていなかった。当該年度は、X線を照射してDNA損傷ストレスを与えたマウスを解析した。すると、正常マウスの胃の粘膜組織において、X線照射によるFRNKの発現誘導が確認された。さらに、FRNK欠損マウスでは、胃の上皮組織に強いダメージが観察され、粘膜組織から細胞が剥がれて、アポトーシス細胞死を起こす様子が観察された。すなわち、FRNKは、DNA損傷ストレスから正常組織を防御する機能があることが分かった。 以上から、当該年度は、FRNKの発現制御機構と生理的機能について、一定の進展が得られた。
|
今後の研究の推進方策 |
申請者は、DNA損傷を受けた細胞の接着斑が安定化して接着が増強されることを、本申請以前に見出していた。当該年度は、この増強が、接着斑におけるFAKとFRNKの入れ替わりによることを見出した。今後は、FAKとFRNKの結合因子の比較と、それらの機能解析により、更なる接着斑安定化機構の解明を目指す。特に、FAKのキナーゼ活性は、接着斑のターンオーバーを促進することが知られているため、このメカニズムを、FAKの基質と下流因子に着目して解析する。 また、FRNKによる接着斑の生理的機能を更に明らかにするため、creリコンビナーゼの作用により、FAKの接着斑を持たず、FRNKの接着斑のみを持つようになるマウスを作製したので、このマウスの解析を行う。 当該年度は、FRNKの発現制御機構と生理的な機能を中心に解析を行ったので、今後は、がん促進におけるFRNKの役割解明に注力する。現在、「がん組織で生じたDNA損傷ストレスがFRNKの発現を誘導し、接着の増強を介して、がん細胞の生着、転移等、がん悪性化を促進する」という仮説を構築している。FRNK KOがん細胞を用いたマウスへのがん移植実験、in vitroでの腫瘍塊形成実験はこの仮説を支持している。今後は、マウスへの移植により成長したがん組織、in vitroで形成したがん細胞塊において、DNAダメージマーカーとFRNK発現の時空間的パターンを解析し、がん組織中でどのようにFRNKの発現が誘導され、どのようにがんの成長、転移を促進するのか検討する。 また、FRNKの関与するがん進行メカニズムを標的とした抗がん剤を開発するため、DNA損傷ストレス下でFRNKの発現を抑制する化合物を、約2万種の低分子化合物ライブラリーからスクリーニングしている。今後、得られた化合物を、転移性がん細胞を移植したマウスに投与し、がん転移の改善効果を評価する。
|