研究課題/領域番号 |
23K06707
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分50020:腫瘍診断および治療学関連
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
岡本 有加 公益財団法人がん研究会, がん化学療法センター ゲノム研究部, 客員研究員 (50625217)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | がん代謝 / ストレス応答 / 統合ストレス応答 / 合成致死 |
研究開始時の研究の概要 |
がん細胞は、正常細胞とは異なる代謝依存性を呈し、かつ、高い代謝可塑性を有する。近年、アスパラギン代謝経路の撹乱を介した強力な細胞致死効果が報告された。申請者らは、この細胞致死効果が臓器横断的な細胞選択性を有すること、また高感受性を示す細胞株においても、比較的短期間で耐性が出現することを見出した。そこで、本研究では、がん代謝依存性および可塑性の包括的な理解による新たな治療法開発の基盤を築くために、ASNase+GCN2阻害剤併用への耐性細胞をモデル系とし、アスパラギン代謝撹乱時にがん細胞内で起こる代謝リプログラミングの分子機序の解明とその解除法の同定を試みる。
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研究実績の概要 |
血管形成不全による酸素・栄養欠乏といったストレス環境下で活発な増殖を維持するため、がん細胞は解糖系の亢進やグルタミンなどのアミノ酸要求性の増大といった「がん化に伴う1次的代謝リプログラミング」により、正常細胞とは異なる代謝形態を呈する。そこで、がん細胞が強く依存する糖・アミノ酸代謝機構の治療標的化が試みられているが、代謝経路の遮断に対する代替経路の活性化などの「治療介入に対する2次的代謝リプログラミング」による抵抗性獲得などが大きな壁となっている。そこで、本研究では、がん細胞の代謝脆弱性と可塑性の包括的な理解による新たな治療法開発の基盤を築くために、細胞内のアスパラギン(Asn)代謝に着目し、Asn代謝撹乱時にがん細胞内で起こる代謝リプログラミングの分子機序の解明とその解除法の探索を目的としている。哺乳細胞におけるAsn供給源は、細胞外からの取り込みと、酵素(Asparagine Synthetase; ASNS) 依存的な合成のみであり、細胞外Asnを分解するASNase処理時には細胞側の適応応答として、GCN2依存的に統合的ストレス応答(Integrated Stress Response; ISR)が活性化され、転写因子ATF4下流でのASNS誘導によりAsnの合成が強化される。一方で、ASNaseに加えて、GCN2阻害剤GCN2iBを共処理すると、一部の細胞には強力な合成致死を誘導するものの、この合成致死効果に内在的に抵抗性を示す細胞も存在する。本研究では、細胞間における合成致死に対する内在的感受性の相違、合成致死効果に高感受性の細胞株から樹立した耐性細胞と親株との遺伝子発現・代謝的特徴の比較を切り口としてASNase+GCN2iB併用によるAsn欠乏に対する細胞の代謝リプログラミングを制御する分子機構の解明を目指している。2023年度は、主に耐性細胞の性状解析に注力し、糖・アミノ酸要求性や代謝応答に重要なシグナル経路の解析、通常条件およびASNase+GCN2iB併用下での遺伝子発現解析を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である2023年度は、ASNase+GCN2iBによる合成致死に高い感受性を示した細胞株(卵巣がんOVCAR8およびメラノーマのA375)から樹立した耐性細胞株の性状解析を進めた。樹立した耐性細胞株(synthetic lethality-resistant; SL-R)は、 GCN2iB存在下でのASNaseのIC50が親株(Pt)と比較して、約200倍以上と、非常に高い抵抗性を示した。アミノ酸・グルコース要求性について比較した結果、グルタミン飢餓、グルコース飢餓、いずれの条件でもSL-Rは親株と比較して顕著な増殖能の変化を示さなかった。また、Asnの供給源として飲食作用が亢進しているかを検討するため、オートファジー・エンドサイトーシス・マクロピノサイトーシスといった飲食作用の活性の検討を行ったが、顕著な変化は認められなかった。更に、通常条件およびASNase単剤、あるいはGCN2iBとの併用下での遺伝子発現解析を実施し、SL-R細胞でPt細胞と比較して通常条件で顕著に発現上昇している遺伝子群を抽出した。この遺伝子群の中には、Pt細胞において、ASNase単剤処理時に発現上昇し、GCN2iB併用処理時に発現上昇が解除される、すなわちISRの制御下にある遺伝子が多く含まれており、細胞内アスパラギン合成酵素 ASNSも含まれていた。これらの結果から、SL-R細胞においては、ストレス応答に重要な遺伝子の、GCN2非依存的な恒常的高発現が保たれていることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、引き続き耐性細胞の性状解析を進める。具体的には、前年度までに取得したトランスクリプトームデータの解析を引き続き進めるとともに、代謝的特徴に着目し、基底状態およびASNase+GCN2iB併用下でのメタボロームデータの解析を計画している。また、これまでに、複数のがん種・がん細胞株を用いてASNase+GCN2iBによる合成致死への感受性を調べた結果、同じ臓器由来でも強い感受性を示す細胞株と抵抗性を示す細胞株が存在することを見出していた。そこで、内在的に抵抗性を示す細胞株と高感受性を示す細胞株の遺伝子発現などについて解析するため、がん研究会が所有する10がん種39細胞株のJFCR39パネルについて網羅的にASNase+GCN2iB併用およびASNase+ASNSkdに対する感受性を調べ、細胞の類型化等を進めることを予定している。これらの解析により、内在的な抵抗性に関わる遺伝子発現(パターン)と、獲得抵抗性に関与する遺伝子発現(パターン)との共通性などについて明らかにしたいと考えている。
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