研究課題/領域番号 |
23K06710
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分50020:腫瘍診断および治療学関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
吉川 聡明 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (00625957)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 腫瘍浸潤リンパ球 / 個別化 / T細胞移入療法 / 自己腫瘍反応性 / T細胞機能改善 / 疲弊化 / 遺伝子改変 |
研究開始時の研究の概要 |
がん患者毎に異なる様々ながん抗原を標的とするために、がん患者組織検体から自己腫瘍反応性腫瘍浸潤リンパ球(Tumor Infiltrating Lymphocyte: TIL)を濃縮して使用する。TILに遺伝子改変することで細胞増殖能・生存能を亢進させることを試みる。培養したTILの自己がん細胞に対する反応性を評価し、培養過程におけるT細胞受容体レパートリーの偏りを解析する。同時に、腫瘍組織片を免疫不全マウスに移植しがん細胞株を樹立し、in vivoモデルでの抗腫瘍効果を評価する。これらを通して、TILに最適な培養方法、遺伝子導入方法を構築する。
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研究実績の概要 |
本研究では、腫瘍浸潤リンパ球(Tumor infiltrating lymphocyte: TIL)から一部の腫瘍反応性TILを濃縮し、さらに遺伝子改変により、低下した増殖能・長期生存能を亢進させ、持続的な抗腫瘍効果を高めた新たな個別化T細胞移入療法の開発を目的とした。 婦人科がん患者の手術切除検体を分散処理し、まず、TILの最適な刺激培養条件を検討した。これまでに世界で広く行われているTILの培養方法としては、高濃度IL-2のみの刺激があるが、抗原刺激や共刺激が入っているかは不明であり、T細胞レパートリーが増殖し易い細胞に偏るため、多様な腫瘍反応性TILを失っている可能性がある。本研究ではIL-2を低濃度にして抗CD3抗体と同時にCD80等の共刺激分子による刺激も加えることで、過剰な活性化や不応答になることを防ぎ、多様なT細胞レパートリーを保ったTILの増殖を促すことを目指した。培養後の増殖能・メモリーフェノタイプ・疲弊化マーカー・TCRレパトアの偏り・自己腫瘍反応性などを解析し、従来の高濃度IL-2で培養したTILと比較することで有用性を評価した。結果として、OKT3-CD80刺激による培養方法の方が、遺伝子導入効率が高率であり、高い細胞増殖率も得られた。TCRレパトア解析においては、どちらの培養法も、培養後TCRレパトアの多様性が認められた。分散処理した自己腫瘍細胞と共培養しIFN-γ ELISPOT解析により腫瘍反応性を評価したところ、どちらの培養法のTILも自己腫瘍細胞に対してIFN-γ産生を認め、その頻度は同程度であった。 これらより、我々が行ったOKT3-CD80刺激による培養方法は、TILのTCRレパトアの多様性や自己腫瘍反応性TILの頻度を損なうことなく、in vitroでの増殖と遺伝子導入効率においては、従来の高濃度IL-2培養法よりも優れていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
卵巣がん、子宮頸がん、子宮体がん患者の手術切除検体を分散処理し、がん細胞とTILを使用した。増殖能・生存能を亢進させるために、TILに遺伝子導入しサイトカインシグナルを恒常的に活性化させた。TILに適した刺激培養方法と遺伝子導入方法の検討を行ったところ、過去に報告されている高濃度IL-2のみの刺激培養方法と比較して、抗CD3抗体(クローン:OKT3)と共刺激分子CD80による刺激培養方法の方が、遺伝子導入効率が高率であり、高い細胞増殖率も得られた。培養後に疲弊化マーカーとしてPD-1, Tim-3, LAG-3の発現を比較したところ、高濃度IL-2培養とOKT3-CD80培養の間で同程度であった。TILを増殖させた前後でT細胞受容体(T cell receptor: TCR)のレパトア解析を行った。高濃度IL-2培養法もOKT3-CD80刺激培養法も、培養後にもTCRレパトアの多様性が認められた。培養したTILの腫瘍反応性を調べるため、分散処理した自己腫瘍細胞と共培養しIFN-γ ELISPOT解析を行った。高濃度IL-2培養とOKT3-CD80刺激培養法どちらで増殖させたTILも自己腫瘍細胞に対してIFN-γ産生を認め、その頻度は同程度であった。 これらより、研究計画はおおむね順調に進行しており、TILのin vitroでの増殖と遺伝子導入効率において、高濃度IL-2培養法よりもOKT3-CD80刺激培養方法が優れており、さらにTCRレパトアの多様性や自己腫瘍反応性TILの頻度は保たれていたことを確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、TILにサイトカインシグナルを入れることによる機能改善を詳細に評価する。我々は、恒常的にIL-7サイトカインシグナルを伝えるキメラ受容体を独自に開発し、T細胞に遺伝子導入することで増殖能やin vivoでの長期生存能が亢進する知見を得ている。TILにキメラ受容体を遺伝子導入し、増殖能や細胞傷害活性、サイトカイン産生能(IFN-γ, IL-2, TNF-α)等の多機能性を評価する。 また、オルガノイドや免疫不全マウスを使用して自己腫瘍細胞を増殖させ、自己腫瘍を標的として細胞傷害性試験やサイトカイン産生能(IFN-γ, IL-2, TNF-α)を解析することで、TILの自己腫瘍に対する反応性を評価する。In vivoで免疫不全マウスに腫瘍を移植し、作製した抗腫瘍T細胞を移入して抗腫瘍効果を評価する。また、T細胞移入後のマウス末梢血や腫瘍組織を解析し、T細胞の長期生存能や腫瘍局所への浸潤能を生体内で評価する。
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