研究課題/領域番号 |
23K06784
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分51010:基盤脳科学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉田 盛史 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 講師 (30723259)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | 視覚 / マウス / 注意 / 眼球運動 / ポピュレーションコーディング / デコーディング |
研究開始時の研究の概要 |
脳は注意を向けた情報を選択的に処理する。注意の個々の神経細胞活動への影響は多くの報告があるが、細胞集団での情報表現に対する影響は不明な点が多い。また、投射先などの細胞の特性と注意による活動調節の関係性はあまり研究されていない。本研究では、マウス視覚野を対象として、投射先による細胞標識、イメージングによる細胞集団活動の計測、情報表現の解析などの手法を組み合わせて、注意による脳の情報処理の調節機序の解明を目的とする。本研究で得られる知見は、将来的に注意障害などの機能障害の機序の解明にもつながることが期待される。
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研究実績の概要 |
本研究はマウスを対象として視覚的注意の神経基盤の解明を目的としている。まず、マウスにおける注意課題の立ち上げを行った。マウスに2つの視覚刺激を同時に提示して、いずれかに着目させるように訓練した。また、課題中の視覚野付近の活動を一光子広域カルシウムイメージングにより計測した。予備実験の結果、視覚野の視覚応答を調べると、正解時には課題遂行とは関係ない刺激への応答が抑制されることを示唆する結果を得た。 次に、上記課題に寄与する領野を調べる目的で、課題中の大脳皮質背側部の任意の場所の活動を光遺伝学的に抑制する実験系を開発した。抑制性細胞にチャネルロドプシンを発現したマウスを使い、青色光刺激を照射することで、活動の抑制を行った。この系の有用性の確認のために、単純な視覚図形弁別中の大脳皮質背側部の活動を抑制し、行動への影響を調べた。その結果、視覚刺激を提示した目と反対側の視覚野付近の活動を抑制すると、課題の成績が大きく減少した。この結果から、この実験系の有用性が示唆されるとともに、図形弁別においても視覚野の関与が示唆された。 注意は眼球運動と深く関係する。そこで、マウス視覚野における眼球運動の情報表現を調べた。マウス視覚野の個々の細胞の活動を二光子イメージングにより計測し、同時に眼球位置を計測した。視覚野の細胞が眼球の位置情報をコードしているのかを調べるために各細胞の活動と眼球位置の相関を調べたところ、予備的結果ながら、一部の細胞は正あるいは負の相関を示した。また、細胞集団から精度が低いながらも眼球位置の情報が予測できた。これらの結果は、マウス視覚野の細胞が眼球位置の情報を持つことを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、マウス大脳皮質の任意の領域を抑制する実験系を確立した。また、この実験系を視覚図形弁別課題に適用し、視覚野の関与を明らかにした。この点については予定通り進捗した。ただし、神経活動抑制の程度の定量や複数個所や任意の範囲を同時に抑制する手法までは開発できておらず、これらの点は今後の課題である。 また、視覚的注意の行動課題をマウスに訓練して、課題中の活動に関しての予備データを取得した。しかし、訓練に想定以上の時間がかかっており、また、行動指標において、個体間のばらつきが大きく、さらなる実験系の最適化が必要であることが分かった。これらの点に関しては今後も検討していく。 注意は眼球運動制御とも密接に関連しており、視覚野における眼球運動の情報表現を調べたところ、一部の細胞が眼球の位置情報を持っていることが示唆された。こちらの結果については当初想定されていない結果であり、今年度の進捗した点である。 上記のように、当初の目標から遅れている実験もあるが、想定外の結果も得られており、全体としては、やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
まず注意の行動課題の確立を目指す。現在の問題点として、訓練に時間がかかる、個体間でのばらつきが大きい、等の問題点がある。行動課題の難易度が高いことが原因と考えられるので、難易度を下げるなどして、これらの点を解決することを検討する。行動実験の確立後は、課題に関与する領野を調べる。2023年度に確立した実験系を用いて、大脳皮質背側部を網羅的に抑制し、関与する脳領野を同定する。領野を同定後は、課題中の試行内で抑制するタイミングを変え、その領野が関与する時間窓を確認する。また、各領野を活性化させることで、その影響を調べる。 また、上記の実験と並行して、課題中の視覚野の神経活動を計測し、注意時の情報表現の変化を調べる。特に集団活動での情報表現の変化を調べる。注意により視覚情報が変化するのか、行動と関連した情報が変化するのか等、調節される情報の内容を明らかにする。また、個々の細胞の持つ情報と注意による変化の関係性も明らかにする。さらに上記の情報表現において高次領野への投射細胞の役割を調べる。関与する領野間(視覚野から頭頂連合野あるいは前頭前野を想定)への投射細胞を選択的にラベルし、細胞集団での情報表現における、これらの細胞の役割を明らかにする。 また、視覚野における眼球位置情報の表現も明らかにする。一次視覚野、高次視覚野でどの領野に眼球位置情報を持つ細胞が多いのか、また、眼球位置情報がどの領野から来るのか、視覚弁別課題中でのそれらの細胞活動などを調べる。
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