研究課題/領域番号 |
23K06791
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分51020:認知脳科学関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
飯高 哲也 名古屋大学, 脳とこころの研究センター(保健), 教授 (70324366)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 扁桃体 / fMRI / 顔認知 / 社会脳 / 時間周波数解析 / 模倣 / 情動 |
研究開始時の研究の概要 |
扁桃体・海馬には後頭・側頭葉を含む広範な領域から感覚情報が入力する。扁桃体は感覚刺激を受けて、情動や社会性に関わる情報処理を行っている。ヒトを用いた扁桃体・海馬の研究は主にfMRIが用いられるが、この手法には解像度やアーチファクトの問題がある。そこで本研究では難治性てんかん患者の脳内電極を用いて、扁桃体・海馬領域の神経活動を直接計測する。被験者には表情認知、表情模倣、対人コミュニケーションにかんする心理課題を遂行させる。その結果を同じ実験課題と健常被験者を用いて行ったfMRI実験の結果と比較する。本研究により社会性・対人コミュニケーションにおける扁桃体・海馬の役割が明確になると期待される。
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研究実績の概要 |
表情認知とその模倣について、健常被験者を対象としたfMRI実験を行った。さらに難治性てんかん患者の術前に頭蓋内電極(iEEG)から脳波を計測し、扁桃体の電気生理学的反応を調べた。仮説としては、表情を模倣している時には、顔刺激が提示されなくとも扁桃体の活動が亢進すると考えた。 課題では表情変化を伴う動画が呈示され、被験者はそれを見るように指示された(Movie課題)。その後に顔のシルエットが呈示され、被験者は直前に見た表情と同じ表情を模倣した(Imitation課題)。表情にはNegative(怒り・嫌悪)、Positive(喜び)、Neutral(閉眼)の3条件があった。fMRI実験では18名の被験者が参加し、データはSPM12により解析を行った。iEEGでは6名の難治性てんかん患者が実験に参加し、データはEEGLABにより時間周波数解析を行った。 fMRI実験の結果では、Imitation課題における扁桃体の賦活はNegativeおよびPositive条件においてNeutral条件よりも有意に強かった(p=0.001, uncorrected)。iEEGの解析結果では、扁桃体活動はNegative条件とPositive条件でNeutral条件よりも有意に強かった(FDR, p<0.05)。扁桃体の活動は高ガンマ帯域において出現し、刺激提示後500ミリ秒付近から始まっていた。 本研究は表情が提示されなくても、模倣するだけで扁桃体が賦活されることを示している。加えてfMRI実験とiEEG実験の両方において同様の結果が得られた。顔面の皮膚や筋肉は表情模倣時に動くことから、その感覚情報が扁桃体へ刺激として入力している可能性を示唆している。本研究結果はヒトが表情を作る行為によって、扁桃体の活動が誘発されることを、血行動態と電気生理の両方から解明した点に新奇性があった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究成果としては、上述したようにfMRIとiEEGで表情模倣課題を行い、その両方で類似した扁桃体活動を得ることができた。この結果は学術誌Cerebral Cortex(IF=3.7)2024年1月号に掲載された。
Hemodynamic and electrophysiological responses of the human amygdala during face imitation: a study using functional MRI and intracranial EEG, Tetsuya Iidaka and others, Cerebral Cortex, Volume 34, Issue 1, January 2024
従って本研究課題の目的である、扁桃体における血行動態的変化と電気生理学的変化の類似性を示したという点において、研究目的に添った成果である。研究期間の1年目において、このような成果を得ることができたということは、進捗状況としては計画以上に進んでいると判断することができる。 一方で問題点としては、次の実験課題を遂行するための準備がやや遅れているということがあげられる。その原因として、この数年来共同研究を続けてきた名大病院脳神経外科の医師が退職したことがある。これにより新規に難治性てんかん患者を被験者としてリクルートすることが難しくなっている。このため現在は新たに共同研究者を探しつつ、新規の実験課題の準備を進めている所である。従って全体としては進捗状況はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究予定としては、今年度に得られた研究結果を次年度に学会発表することがあげられる。そのために国際ヒト脳機能マッピング学会(2024年6月23日~27日:韓国・ソウル市)に抄録を提出して、既にポスター発表として受理されている。次に新規の難治性てんかん患者を被験者としてリクルートするため、名大病院脳神経外科において新たな共同研究者を探す予定である。現時点では昨年度の実験において、実験助手をしていただいた脳外科医に依頼する予定である。それに伴い新たな研究チームで研究倫理申請を行う必要があり、現在はその準備をしているところである。
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