研究課題/領域番号 |
23K06813
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分51030:病態神経科学関連
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
河村 寿子 (中山寿子) 東京女子医科大学, 医学部, 准教授 (70397181)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2025年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2024年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 体性感覚視床 / 思春期 / ストレス / グルココルチコイド受容体 / シナプス / 視床 / シナプスリモデリング / 隔離飼育 |
研究開始時の研究の概要 |
思春期の心的ストレスは成人期以降の感覚認知機能異常、学習障害、情動異常、注意力欠如など様々な神経症状発症のリスクとなる。本課題では、マウスのヒゲ感覚情報処理を担う視床神経回路を対象として、思春期の社会隔離が神経回路の維持と感覚認知行動に及ぼす作用と制御機構の解明を目指す。既に見出した、思春期の隔離による視床神経回路の改編に関わるグルココルチコイド受容体の局在を特定する他、Gabra4持続性抑制とmGluR1シグナル系の均衡により神経回路の維持が実現されるという作業仮説を検証する。並行して、視床組織の遺伝子発現解析を行い、思春期の視床神経回路維持に寄与する遺伝子の特定も目指す。
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研究実績の概要 |
本課題の目的は、マウスのヒゲ感覚情報処理を担う視床神経回路を対象として、思春期の社会的隔離ストレスが視床神経回路の維持とヒゲを用いた感覚認知行動をどのように変容させるかをそのメカニズムとともに解明することである。我々は昨年度までに、離乳から性成熟(生後2ヶ月齢)までの思春期に隔離飼育すると、コルチコステロン(マウスのストレスホルモン)の受容体であるグルココルチコイド受容体(GR)が関与する機構によって、離乳までに獲得された成熟型の単一支配型シナプス結合の維持が破綻し、まるで幼若期のような多重支配型シナプス結合へと大きく改編されること、入力線維ごとのシナプス強度(振幅)が減弱することを見出していた。2023年度は、ヒゲ感覚とヒゲを用いた認知行動をテストする実験系(von Frey試験、Gap cross試験)を立ち上げ解析したところ、視床神経回路に改編が生じたマウスにおいてヒゲ領域への触刺激に対する感覚閾値の低下とヒゲを用いた認知行動に異常を認めた。次に、視床神経回路改変に関与するGRを発現する細胞種の特定を行った。免疫染色から視床VPMではニューロンとアストロサイトでGR発現を認めたため今年度は、視床ニューロン特異的GR欠損マウス(5HTT-Cre;GRfl/flマウス)を作成し、思春期に隔離飼育した際の神経回路の状態を電気生理学的に解析した。その結果、視床ニューロン特異的GR欠損マウスでは入力線維ごとのシナプス強度の減弱は生じるものの再多重支配化は誘導されず、視床ニューロンのGRが再多重支配化に寄与することが示唆された。以上の結果を、第46回 日本神経科学大会、学術変革領域研究(臨界期生物学)領域班会議、令和5年度 東京女子医科大学ダイバーシティ環境整備事業中間報告会、第9回 曙橋神経懇話会で発表し、論文投稿段階に至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は申請者にとって新規の行動実験系を立ち上げ、思春期の社会的ストレス下で視床神経回路改編が生じたマウスの感覚認知行動を評価できたうえ、遺伝子組み換えマウスやAAVウイルスを用いて視床VPMニューロンのGRが視床神経回路改変に大きく関与することを明らかにできた。また、それらの成果を学会や研究会等で発表し論文投稿段階に至った。加えて、2024年度に使用する遺伝子組み換えマウス(Aldh1l1-Cre/ERT2マウス)の所属機関への導入も済ませ、GRfl/flマウスとの交配仔の作成を開始している。さらに、思春期の隔離ストレス負荷により視床で発現変動する遺伝子群の探索のためのオミクス解析についても、神戸大学 古屋敷智之教授との共同研究として行う方針を定めることができた。これらの点から研究の進捗は「おおむね順調」であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに、思春期のストレスが視床ニューロンのGRを介したメカニズムで視床神経回路を改編することを明らかにした。2024年度以降は、その分子・細胞メカニズム解明に向けた研究を行う。視床VPMニューロンでのGabra4を介する持続性抑制(tonic inhibition)の亢またはmGluR1欠損が思春期以降の視床回路を改編するという先行研究 (Narushima et al., 2019, PLoS One; Nagumo et al., 2020, Cell Rep.) をもとに、視床VPMニューロンにおけるGabra4-tonic inhibitionとmGluR1シグナル伝達に着目し、思春期の社会的隔離ストレスによるGR活性化の下流で視床神経回路改編に寄与する可能性を検証する。思春期社会的隔離ストレス負荷後のVPMニューロンでのGabra4とmGluR1、mGluR1シグナル伝達系の分子の発現を組織学的に解析するとともに、tonic inhibition電流とmGluR1活性化をモニタする一過性内向き電流の電気生理学的計測を行う。これらのGabra4-GABAA受容体とmGluR1のポスト側の変化と合わせて、プレ側の変化として視床網様核ニューロンまたはアストロサイトからのGABA放出や大脳皮質-視床投射ニューロンの活動に変化が生じていないかを、遺伝子組み換えマウスやAAVウイルスを用いた組織学、電気生理学解析で検証する。変化が認められた場合には、視床ニューロンまたはアストロサイト特異的GR欠損マウスを用いた解析により、GRとの関連性を調べる。これらの仮設に基づいた実験と並行して、神戸大学 古屋敷智之教授との共同研究として視床組織の遺伝子発現解析を行い、思春期の視床神経回路維持に寄与する遺伝子の探索も進めたい。
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