研究課題
基盤研究(C)
脳室系の異常や機能低下は水頭症を招くほか、アルツハイマー型認知症との関連でも注目されている。これらの疾患ではしばしば海馬萎縮が生じるが、その機序には不明な点が多い。申請者は上衣細胞に特異的に発現する遺伝子 Hoatz を同定し、さらに、ごく最近この遺伝子改変マウスの作製に成功した。予備的知見として、このマウスでミクログリアが活性化し海馬萎縮が生じることがわかった。したがって Hoatz 遺伝子異常に伴う上衣細胞の機能不全が海馬萎縮の原因となる可能性が強く示唆された。本研究では Hoatz 遺伝子改変マウスや独自の上衣細胞-ミクログリア共培養系を用いてこの可能性を解明するための基礎実験を行う。
研究代表者は本研究課題に関して、令和5年度に以下の研究成果を得た。1.Hoatz 変異マウスと野生型マウスの海馬から抽出したRNAサンプルを用いてRNAseq解析を行い、Hoatz 変異が海馬組織にどのような遺伝子発現変動を引き起こしているかを探索した。その結果、過去に初代培養系を用いて行った同様の解析で発現変動を見出していたミクログリア活性化の指標となる幾つかの遺伝子について、in vivoにおいても変動していることを見出した。2.HOATZタンパク質は運動線毛軸糸においてDLEC1およびENO4と複合体を形成する。この生理学的意義としてENO4がENO1と同様に解糖系酵素として機能し、運動線毛内部でのde novo ATP生合成をおこなっている可能性が考えられた。これを検証するためにENO4のenolase活性を測定したが、活性はないことが分かり、HOATZを含む上記複合体は軸糸の構造体として機能している可能性が推測された。3.初代培養系を用いた実験系では、目的の細胞集団のみを得ることが難しく、解析結果の解釈があいまいになってしまうことがある。この問題を解決する目的で、任意のプロモーターで蛍光タンパク質および薬剤耐性遺伝子を発現できるレンチウイルスベクターを構築した。4.本研究の研究対象となっている脳室の上皮系グリア細胞は多線毛上皮であり、この種の上皮は一般に終末分化した細胞と考えられている。しかし初代培養系において、脳室の上皮が分化後に細胞周期に入り増殖する可能性を見出した。
3: やや遅れている
所属機関が変更し、転出元で維持していた Hoatz 変異マウス系統を畳み、転出先で新たにコロニー立ち上げの諸手続きをおこなう必要があったため。
RNAseqで発現変動が確認された遺伝子について、マウス脳切片を用いた免疫染色やRNA in situ hybridizationをおこなって同様の変化を認めることができるか、もし変動が見られた場合はその空間分布も含めて検討する。Hoatz変異マウスに見られる脳室拡大および海馬萎縮の精密な解析を目的として、MRI解析を試みる。初代培養系を用いてHoatz変異がミクログリア活性化を引き起こす機構について検討する。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Genes to Cells
巻: - 号: 7 ページ: 516-525
10.1111/gtc.13031