研究課題/領域番号 |
23K06850
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分52010:内科学一般関連
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
河手 久香 信州大学, 医学部, 研究員 (20507503)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 癌 / 転移 / 血管 / リンパ管 / 受容体活性調節タンパク |
研究開始時の研究の概要 |
未だ癌転移を抑制する方法は存在しない。本研究では、これまでの研究基盤を元に、RAMP2とRAMP3の病態生理学的意義を包括的に解明する。さらに、両者の機能分化にフォーカスすることで、癌の転移を抑制する治療法への応用をはかる。特に、転移先となる組織の転移前土壌、さらには、癌を取り巻く癌微小環境や癌関連線維芽細胞に着目し、RAMP2が癌転移の抑制に、RAMP3が癌転移の促進に働くメカニズムを解明する。さらに、選択的にAM-RAMP2システムを活性化し、AM-RAMP3システムを抑制することで、血行性およびリンパ行性転移を抑制する治療法への応用をはかる。
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研究実績の概要 |
癌は我が国の死因の1/3を占め、死因の第一位を独走している。分子標的薬や癌免疫療法の登場により、癌治療は大きな進歩を遂げたが、未だ癌の転移を抑制する方法は存在しない。アドレノメデュリン(AM)は、血管およびリンパ管の恒常性維持作用を有する生理活性ペプチドである。AMの機能は、AMの受容体CLRに結合する受容体活性調節タンパク、RAMP2あるいはRAMP3によって制御されている。申請者はこれまで、「RAMP2が血管の恒常性を制御するのに対し、RAMP3はリンパ管の恒常性を制御する」という、機能分化が存在することを明らかとしてきた。さらに興味深いことに、「RAMP2が癌の転移抑制に働く一方で、逆にRAMP3は癌の転移促進に働く」という、全く相反する作用が存在することを見出した。本研究では、これまでの脈管系および癌の研究基盤を元に、RAMP2とRAMP3の病態生理学的意義を包括的に解明する。特に、両者の機能分化にフォーカスすることで、癌の血行性およびリンパ行性転移抑制への応用をはかることを目的とする。 初年度の研究では、PAN02膵癌細胞を用いて、臓器間転移におけるAM-RAMP2、3系の意義の検討を進めた。その結果、誘導型血管内皮細胞特異的RAMP2ノックアウトマウス(DI-E-RAMP2-/-)では、原発巣サイズが縮小するのに対し、肝臓への転移は亢進する結果が得られた。一方、RAMP3ノックアウトマウス(RAMP3-/-)では、DI-E-RAMP2-/-とは逆に、肝臓への転移が抑制されていた。RAMP3-/-では、癌周囲の癌関連線維芽細胞(CAF)が減少していた。さらにRAMP3-/- CAFでは、ストレスファイバーの形成が抑制されている一方で、細胞膜直下のアクチンリングの形成が亢進しており、間葉上皮移行(MET)を生じていると考えられた。これらの結果から、AM-RAMP2系が血管の恒常性維持により癌転移抑制に働くのに対し、AM-RAMP3系はCAFの悪性化により癌転移促進に働くという相反作用が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PAN02膵癌細胞を用いて、臓器間転移におけるAM-RAMP2、3系の意義の検討を進めた。その結果、誘導型血管内皮細胞特異的RAMP2ノックアウトマウス(DI-E-RAMP2-/-)では、原発巣サイズが縮小するのに対し、肝臓への転移は亢進する結果が得られた。DI-E-RAMP2-/-では、RAMP2発現低下と共にRAMP3発現が代償性に亢進していた。そこで次に、RAMP3ノックアウトマウス(RAMP3-/-)を用いて、同様の臓器間転移モデルの検討を行った。RAMP3-/-では、DI-E-RAMP2-/-とは逆に、肝臓への転移が抑制されていた。RAMP3-/-では、癌周囲の癌関連線維芽細胞(CAF)が減少していた。さらにRAMP3-/- CAFでは、ストレスファイバーの形成が抑制されている一方で、細胞膜直下のアクチンリングの形成が亢進しており、間葉上皮移行(MET)を生じていると考えられた。RAMP3-/- CAFでは、PAN02細胞との共培養系において、細胞の遊走、増殖が抑制されていた。実際にRAMP3-/- CAFとPAN02細胞と混合してマウスに移植すると、癌のサイズは抑制され、肝転移も減少したことから、RAMP3-/- CAFは癌増殖や転移を抑制する、いわば善玉のCAFとなっていると考えられた。 上記のとおり、AM-RAMP2系が血管の恒常性維持により癌転移抑制に働くのに対し、AM-RAMP3系はCAFの悪性化により癌転移促進に働くという相反作用を明らかとするなど、計画どおりに研究が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
誘導型血管内皮細胞特異的RAMP2ノックアウトマウス(DI-E-RAMP2-/-)、誘導型リンパ管内皮細胞特異的RAMP2ノックアウトマウスマウス(DI-LE-RAMP2-/-)、RAMP3ノックアウトマウス(RAMP3-/-)を用いて、原発巣から転移巣への自然転移モデルを作成する。 C57BL/6 マウス系統に移植することができる乳癌細胞ラインであるE0771細胞をマウスの乳腺に同所移植し、肺転移させる。原発巣と転移巣の各々に生じる変化を解析する。CUBIC法により組織を透明化し、癌細胞と血管の3D組織構築を解析する。さらに各部位の網羅的遺伝子発現解析を行い、転移前土壌形成因子や腫瘍細胞遊走因子を同定する。
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