研究課題/領域番号 |
23K06881
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分52010:内科学一般関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
千葉 仁志 北海道大学, 保健科学研究院, 名誉教授 (70197622)
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研究分担者 |
櫻井 俊宏 北海道大学, 保健科学研究院, 准教授 (60707602)
惠 淑萍 北海道大学, 保健科学研究院, 教授 (90337030)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | カルジオリピン / モノリゾカルジオリピン / ミトコンドリア / 質量分析 |
研究開始時の研究の概要 |
ミトコンドリア内膜に特異的に局在するカルジオリピン(CL)とモノリゾカルジオリピン(MLCL)は、エネルギー代謝に関わる重要なリン脂質であるが、機能や役割についての全容の解明には至っていない。特に、MLCLの網羅的解析及び定量系は未だ確立されていない。本研究では、(A)MLCLの網羅的解析の構築、(B)MLCLの定量系の開発、(C)それらの測定系を応用することを目的とし、MLCLの標準物質や内部標準物質の化学合成、質量分析による測定系を分析化学的に構築する。このMLCLの網羅的解析とMLCL定量が確立されれば、将来的にそれらの測定系が様々な病態解明に応用され得る。
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研究実績の概要 |
カルジオリピン(CL)及びその前駆物質のモノリゾカルジオリピン(MLCL)はそれぞれ4種類、3種類の脂肪酸が結合するリン脂質である。アシル基(脂肪酸)の組み合わせで様々なCL分子種、MLCL分子種が存在する。CL及びMLCLはミトコンドリア内膜に特異的に局在することが特徴的である。CLの合成では、はじめに鎖長の短い脂肪酸が結合した未熟なCLが産生され、一本のアシル基(脂肪酸)が酵素的に切断されてMLCLになる。MLCLは酵素的に一本のアシル基(脂肪酸)が付加されて、CLになる。その繰り返しを経て、成熟CLが完成する。この過程をCLのリモデリングと呼ぶ。成熟CLはミトコンドリア内膜の構造やエネルギー産生を含むミトコンドリア機能の維持に重要な役割を果たす。一方でMLCLの増加は、CLのリモデリング異常(CL代謝の異常)を意味し、ミトコンドリア機能の低下と関連があると考えられてきた。しかしながら、機能や役割についての全容の解明には至っていない。申請者らの先行研究で、MLCLが脂肪肝で増加するという知見を得た(Sakurai T, Chiba H, Hui SP, et al., J Sci Food Agric, 2021)。この結果はMLCLが生活習慣病など様々な疾患で変動する可能性を示唆する。 しかし、MLCLの網羅的解析及び定量系は未だ確立されていない。そこで本申請課題では、MLCLの測定系の開発とその応用を目的とし、MLCLの標準物質や内部標準物質を用いる質量分析による測定系を分析化学的に構築する。このMLCLの新たな解析手法が確立されれば、将来的にそれらの測定系が様々な病態解明に応用される可能性が期待される。よって、本研究は健康科学領域での大きな波及効果があると考えられる。現在までにMLCLの網羅的測定系の構築を順調に進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度では、より精確なMLCLの網羅的解析手法を構築するために、MLCLの内部標準物質を脂質抽出時に加える手法を開発することを試みた。脂質の網羅的解析の場合、脂質抽出時に添加する内部標準物質には、生体試料に存在しない1種類のMLCLを選択する必要がある。調査する限りMLCL 48:0(16:0/16:0/16:0)という市販品が一種存在したのでそれを購入した。その試薬内のMLCL 48:0を質量分析によって検出を確認できた。また今回実験に使用した肝培養細胞C3Aの中には存在しないことを確認できた。MLCL 48:0の希釈系列を作成して質量分析計で分析したところ、直線性が確かめられた。よって、MLCL 48:0を今回のMLCL用の内部標準物質として採用できた。一方、他のMLCLの標準品は無く、正確な絶対検量線を引くことには未だ至らなかった。その代わりに、細胞には脂肪鎖の異なる様々なMLCL分子種が存在するので、細胞懸濁液の希釈系列を作成して各種MLCL分子種を分析したところ良好な直線性を見いだすことができた。 分析のメソッドについては、既に当研究室で確立済みのOrbitrap 質量分析計を用いる脂質一斉分析用のメソッドを適用した。問題なくMLCL分子種は検出された。元々使用しているSPLASH ISという脂質分析用内部標準物質を添加した状態でも、MLCLの内部標準物質を添加したことによりメソッドの変更が必要であると思われる事象は見当たらなかった。 以上より、MLCLの網羅的解析の構築は順調に進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
過去に当研究室では、CLの内部標準物質(CL 56:0(14:0/14:0/14:0/14:0))の使用やCLの網羅的解析手法を確立し、応用してきた。また、申請者らはNASHマウスの肝臓と腎臓でCLの低下を報告した。CLを標的としたミトコンドリア代謝研究は散見されるが、詳細な解明には至っていない。よって、MLCLと同時にCLもCL用の内部標準物質を用いて分析・解析する必要があると考えられる。今回用いたMLCL 48:0と一緒にCL 56:0(14:0/14:0/14:0/14:0)を添加した際に不具合が起こらないことを確認する。 また先述の通り、申請者らは短期間での劇的なMLCLの増加が起こること、それに伴うエネルギー産生の低下が起こり得ることを見いだした。以上より、MLCLがミトコンドリアにおけるエネルギー代謝をよく反映する可能性が推測された。MLCLに関する文献は極めて少なく、MLCL測定の臨床的意義は不明である。最近の研究では、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)や慢性腎疾患などの生活習慣病が関係する代謝性疾患の研究領域において、ミトコンドリア機能異常と酸化ストレスの関連性が発症要因として注目されている。予想として代謝異常を持つ条件ではMLCLが増加する可能性を考えている。以上より、今後はMLCLの網羅的測定系を用いて応用を行う予定である。例えば、具体的にどのようなサンプルにMLCLは存在するのか、細胞の種類によって存在比が異なるのか、細胞に対してMLCL分子種が多く存在する条件は何か、MLCLとミトコンドリア機能との関係性などを知る実験を行なっていきたいと考える。 また、MLCLの定量測定系の開発にも順次着手する予定とする。
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