研究課題/領域番号 |
23K06916
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分52010:内科学一般関連
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
礒濱 洋一郎 東京理科大学, 薬学部薬学科, 教授 (10240920)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 漢方薬 / 五苓散 / アクアポリン / 活性成分 / 頭痛 / システムバイオロジー |
研究開始時の研究の概要 |
漢方薬の薬理作用は,主に臨床上の経験則に基づくものが多く,その作用を担う活性成分やその成分が¥相互作用する標的分子に関する情報は乏しく,このことが漢方薬の本質管理や新たな適用拡大を考える上での障害となっている.我々は,五苓散の薬理作用には標的分子としてAQP類が重要であることを見出してきた.そこで,本研究では,五苓散によるAQP機能阻害および発現調節に関わる成分を同定し,その体内動態を明確にするとともに,その成分とAQPとの相互作用の特徴を明確にすることで,薬物動態・薬力学相関に基づく,新たな科学情報の提唱を目指す.
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研究実績の概要 |
漢方薬の五苓散の薬理作用には,水チャネルのアクアポリン(AQP)類の機能および発現を調節することが少なくとも一部関わることはこれまでの研究で明白である.2023年度は,AQPアイソフォームのうち,特に五苓散の作用との密接な関係が示唆されているAQP4に対する作用に焦点を絞り,AQP4機能調節に基づく新作用の解明とAQP4機能を阻害する活性成分の解明を目指した.まず,AQP4は主に脳内のアストロサイトに多く分布するが,本研究の先行研究でも五苓散がAQP4の機能を阻害することにより,アストロサイトの活性化およびこれに基づく脳内炎症を抑制する作用を示すことを明らかにしてきた.また,AQP4が内耳の上皮細胞に局在することや臨床現場で五苓散が低気圧によって悪化する頭痛によく用いられることに注目し,内耳より発する前提神経の低気圧曝露による興奮を前提神経核のc-fos発現を指標に調べ,五苓散がこれを著明に抑制することを明らかにした. 一方,五苓散によるAQP4機能阻害の活性成分については,構成生薬のうち単独でAQP4阻害作用を認めた蒼朮に含まれる少なくともatractylodinおよびatractylodin carboxylic acid の2種の物質が経口投与後30分をピークとして血液中および脳脊髄液中で検出されることを見出した.これらの物質について,in vitro実験系でAQP4を介した水輸送に対する作用を調べたが,著明な阻害作用は認められなかった.さらにAQP4の新機能として明らかにしてきた炎症応答亢進については,構成生薬のうち桂皮が重要であることを見出し,桂皮由来の成分としてcinnamic acidおよびmethoxycinnamic acidを血液中および脳脊髄液中で検出した.今後,これらの桂皮成分単独での炎症応答抑制作用を調べるとともに,その他の成分についてもさらに検討する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AQP4水チャネル活性の調節に基づく五苓散の薬理作用の解明については,これまでに解明してきた脳浮腫および脳内炎症の抑制に加え,新たに内耳から脳内へと投影し気圧センサーとして機能すると考えられる前提神経の低気圧曝露による興奮を五苓散が抑制することを見出したことは大きな成果である.また五苓散と同様の抑制効果はAQP阻害薬のTGN-020でも認められ,内耳での気圧感受機構がAQP4によって担われることも生理学的に新たな発見であった.一方,五苓散に含有されるAQP4阻害物質の同定については,当初推定していた蒼朮中の主要成分にAQP4阻害作用を認めなかったことから,その他の物質の関与が考えられた.一方,in vitroの実験で五苓散によるAQP4の水輸送の阻害作用が水溶性の高い分画に認められたことから,今後は,本分画に含まれる水溶性物質を中心に検討を進める予定である.
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今後の研究の推進方策 |
今回新たに見出した五苓散による内耳のAQP4機能調節を介した低気圧により誘発される頭痛緩和作用については,この仮説をさらに検証する.具体的には,三叉神経の興奮,血管弛緩因子カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)の産生,CGRP受容体下流のシグナル分子の活性化など,従来から知られている頭痛発症の機序を元に,低気圧曝露マウスより摘出した脳組織を標本に検討する. 一方,五苓散のAQP4機能阻害物質については,引き続きAQP4の古典的機能である水透過促進および炎症応答亢進の両面について,各々の活性物質の同定を目指す.さらに同定した成分については,投与後の血中および脳脊髄液中の濃度を測定し,五苓散の薬理活性と活性成分の体内動体との関連を実証する.これらのシステムバイオロジカルな検討を通じて,現代薬科学的に検証された五苓散の作用に基づく臨床適用に資する情報を構築する.
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