研究課題/領域番号 |
23K06935
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分52020:神経内科学関連
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研究機関 | 愛知医科大学 |
研究代表者 |
陸 雄一 愛知医科大学, 加齢医科学研究所, 講師 (50748382)
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研究分担者 |
勝野 雅央 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (50402566)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
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キーワード | 神経変性疾患 / タウオパチー / ALS / 認知症 / パーキンソン症候群 |
研究開始時の研究の概要 |
認知症や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患は有効な治療法がなく進行性であるため、克服すべき社会問題である。神経変性疾患患者では、疾患特異的に様々な病態関連タンパク質が神経細胞の細胞質に凝集することが知られている。しかし、なぜタンパク質凝集が起こるのか、タンパク質凝集が細胞にどのような影響をもたらすのかはほとんど不明である。今回は核膜タンパクの異常に着目して、TDP-43タンパクとtauタンパクに関連した神経変性疾患の両者に共通した分子病態を解明し、治療標的分子として提唱したい。
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研究実績の概要 |
大阪公立大学 立花研究室と共同しnucleoporinサブクラスに対する抗体を供与いただいた。アルツハイマー病、進行性核上性麻痺、皮質基底核変性症、筋萎縮性側索硬化症の剖検脳を用いてnucleoporinの発現や凝集タンパクとの関係を観察した。Nucleoporinサブクラスの一つであるNUP153がアルツハイマー病、進行性核上性麻痺、皮質基底核変性症の細胞質内タウタンパク凝集体に発現していることがわかった。また一部の神経細胞では核膜上でタウタンパクとNUP153が共局在している所見が見られた。タウアイソフォームの解析では4リピートタウと特に共局在していた。一方、筋萎縮性側索硬化症においては脊髄などのTDP-43タンパク細胞質内凝集体にNUP153が発現していることが分かった。一方、そのほかのサブクラス(NUP98、NUP53など)ではこのような共局在は認められなかった。一見、細胞質内に位置しているタンパク質の細胞質内凝集体にNUP153が発現しているということは、凝集過程のどこかで核膜が巻き込まれていることを示唆する。さらにこの現象は疾患を超えて広範なタウ関連疾患とTDP-43関連疾患に共通していることも示唆される。Nucleoporinは核膜を介した物質輸送に必須のタンパク質であり、これの障害が神経変性疾患における神経細胞死に関係している可能性が考えられる。今後はさらに疾患の幅を広げて、今回観察した所見の疾患特異性を検索する。 またアルツハイマー病、進行性核上性麻痺、皮質基底核変性症、筋萎縮性側索硬化症については症例数を増やし、罹病期間とNUP153異常との相関、解剖学的部位による差(前頭葉と後頭葉、運動ニューロン系と感覚ニューロン系など)についても検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究発足当時はnucleoporinに対する優秀な一次抗体がなく、コマーシャルベースのものでは剖検組織のホルマリン固定標本では検出感度が著しく低かった。当初からその解決が実験の律速段階になると予想された。しかし初年度で剖検組織で安定してnucleoporinsの免疫標識が可能となり、実験が進捗した。nucleoporinsの免疫標識が安定して行えるようになった理由として、次の二点があった。まず共同研究者(大阪公立大学 立花研)がDNA標識抗体の高い樹立技術を持っており、同施設から供与いただいたnucleoporin抗体が高感度、高特異度に剖検組織で機能したことがあげられる。二点目に、剖検組織のホルマリン固定標本とは別に、凍結脳や死後の新鮮脳からホルマリン固定を最小限にして標本化する系を樹立したことがあげられる。これはcryoprotectした固定液で凍結組織を脱水しつつ固定する方法で、抗原性を維持しつつ良好な組織ブロックを作成できる。またこうして作成した標本は永久に保存でき、実験の反復が容易であった。 これら二点の理由により、当初難しいと考えられていた剖検脳でのnucleoporinの免疫標識が可能となったため、研究が進捗したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、ここまでの研究でタウやTDP-43の凝集足掛かり分子としてnucleoporin153を見出した。一見、細胞質内に位置しているタンパク質の細胞質内凝集体にNUP153が発現しているということは、凝集過程のどこかで核膜が巻き込まれている可能性を示唆する。さらにこの現象は疾患を超えて広範なタウ関連疾患とTDP-43関連疾患に共通していることが示唆された。Nucleoporinは核膜を介した物質輸送に必須のタンパク質であり、これの障害が神経変性疾患における神経細胞死に関係していると考えられる。今後は実際にRNA輸送の阻害などがおきているかどうかを確かめるためにRNA transporterであるRANの発現を免疫組織化学的に検証する。NUP153とtauまたはTDP-43の共凝集が起きている神経細胞ではRANなど核膜孔を介して出入りしているタンパクが減少するのではないかと予想している。抗Ran一次抗体についても共同研究者から供与を受けており、条件設定中である。 さらにNUP153障害はタウオパチーやTDP-43関連疾患に特異的なのかどうかも検索する予定である。特に、主要な神経変性疾患の一角を占めるパーキンソン病、多系統萎縮症といったαシヌクレイン関連疾患ではNUP153との共凝集が見られるかどうか興味のある問題である。 NUP153に関連する病態の疾患特異性まで検証した段階で、論文投稿に向けての準備を始め、研究期間終了までに投稿の目途をつける計画である。
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