研究課題/領域番号 |
23K07080
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分52040:放射線科学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
渡邉 翼 京都大学, 複合原子力科学研究所, 准教授 (30804348)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 中性子捕捉療法 / 免疫反応 / 放射線生物 / ホウ素中性子捕捉療法 |
研究開始時の研究の概要 |
ホウ素中性子捕捉療法とは薬剤の集積と放射線(中性子)の照射を組み合わせることではじめて威力を発揮するようにデザインされた放射線治療の1種である。ホウ素原子(10B)が中性子を取り込みα線とリチウム原子核に分裂する。分裂後の粒子飛程は10μm以下と短く細胞直径を超えない。従って、ホウ素を癌細胞へ取り込ませ中性子を照射すれば癌細胞のみを死滅させることができる。本治療成否は正常細胞と癌細胞の間にいかにホウ素原子集積の差をつけられるかにかかっており、免疫細胞へのホウ素薬剤集積は本治療効果を減弱させる要素となりうる。本研究では免疫細胞のホウ素薬剤の取り込みを調べ、本治療の免疫機能へ与える影響を解析する。
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研究実績の概要 |
ホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy, BNCT)は、ホウ素原子(10B)がエネルギーの低い中性子を取り込みアルファ線とリチウム原子核に核分裂を起こす核物理反応を利用した癌治療である。分裂後の粒子飛程は10マイクロメートル以下と短く細胞直径を超えない。ホウ素を取り込んだ細胞へ中性子を照射すれば細胞内で選択的に核反応を起こして死滅させることができる。BNCT用ホウ素薬剤としてアミノ酸類自体であるboronophenylalanine (BPA)が開発され、BNCTによる癌治療に実臨床で用いられている。このBPAはL型中性アミノ酸トランスポーター(LAT)を介して細胞内に取り込まれるが、免疫細胞のうちの1つT細胞も活性化時にアミノ酸要求性が増加し、LATの発現が増加することが明らかとなった。また、栄養要求性向上は抗腫瘍効果に寄与する免疫細胞だけでなく抑制性マクロファージもLATを高発現し、アミノ酸の積極的な取り込みは免疫抑制的な機能の一端も担っている。 以上 のBNCTの現状と腫瘍免疫の知見を背景に、BPAを用いたBNCTの免疫細胞への影響を調べることが本研究の目的である。具体的にはマウスから摘出した免疫細胞および皮下腫瘍マウスモデルを用いてBPA投与後に中性子を治療が成立する量を照射し、免疫細胞へのBPAの取り込み・機能へ与える影響・viabilityへ与える影響を評価するとともに、BNCTが抗腫瘍免疫へ与える正および負の影響両面を解析することを目的とする。本年度はフローサートメーターを用いてBPAを用いたBNCT後の免疫細胞のviabilityへの影響を解析した。また、皮下腫瘍マウスモデルを用いてBPAを用いたBNCT後の抗腫瘍効果に与えるT細胞の影響についても評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスから摘出した免疫細胞および皮下腫瘍マウスモデルを用いてBPA投与後に中性子を治療が成立する量を照射し、免疫細胞へのBPAの取り込み・機能へ与える影響・viabilityへ与える影響を評価するとともに、BNCTが抗腫瘍免疫へ与える正および負の影響両面を解析することを目的とし、本年度はフローサートメーターを用いてBPAを用いたBNCT後の免疫細胞のLAT1の発現状態の評価、BPAをとりこませた後に中性子を照射した状態でのviabilityへの影響を解析した。まずはマウスの免疫細胞を用いて、免疫細胞ごとのLAT1の発現を複数の市販の抗マウスLAT1抗体を一次抗体として用いて同定・評価を試みたが、種類・濃度・使用条件などを調べてみたものの検出がうまくいかず市販の抗マウスLAT1抗体ではLAT1のフローサイトメーターを用いた検出は難しいと判断した。こちらに関しては条件などを再度検討しなおし、次年度以降の課題とする。次にマウス免疫細胞を摘出・BPA添加培地にて培養後、BNCTを行い各免疫細胞ごとのviabilityを評価した。本年度は照射枠の制限によりおおまかな免疫細胞ごとのviability評価にとどまったが、一定の傾向をつかむことができた。次年度はより詳細な表現形・分化度の免疫細胞のBNCT後のviability評価を行う。皮下腫瘍マウスモデルを用いてBPAを用いたBNCT後の抗腫瘍効果に与えるT細胞の影響についても評価した。その結果、BNCT後の抗腫瘍効果に関する免疫細胞の寄与は、通常のX線を用いた放射線治療後の抗腫瘍効果と異なる性質・異なるタイミングでの寄与が可能性として浮上した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度で得られた知見をもとに、引き続きマウスから摘出した免疫細胞および皮下腫瘍マウスモデルを用いてBPA投与後に中性子を治療が成立する量を照射し、免疫細胞へのBPAの取り込み・機能へ与える影響・viabilityへ与える影響を評価する。特に、免疫細胞それぞれのLAT1発現をフローサイトメーターで測定できる手法の確立を条件検討・抗体の探索により目指す。マウス用の市販の抗LAT1抗体のうちフローサイトメーターを公に適応内とした抗体は存在しない。膜貫通たんぱく質LAT1の膜に対する存在状態、他のたんぱく質との相互作用、細胞内でのLAT1の状態などが影響を及ぼしていると考えられる。免疫染色などとは異なり、フローサイトメーターでは賦活化のプロセスを行うことが困難であることも影響している。フローサイトメーターの測定が可能な温和な条件を用いてこれらの状況を改善するための手法の確立を目指す。また、より最適な抗体の検討を行う。また、次年度はより詳細な表現形・分化度の免疫細胞のBNCT後のviability評価を、マウス免疫細胞を摘出・BPA添加培地にて培養後、BNCTを行いフローサイトメーターを用いて行う。次に皮下腫瘍マウスモデルを用いてBPAを用いたBNCT後の腫瘍組織内浸潤免疫細胞の分布および割合、近傍リンパ節内の免疫細胞の割合を経時的に評価する。 また、同等線量のX線を照射した場合にくらべての、上記腫瘍組織内浸潤免疫細胞の分布および割合、近傍リンパ節内の免疫細胞の割合の変化とBNCT後の変化とを比較し、従来のX線治療と比較したBNCTの免疫細胞に与える影響について調べる。
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