研究課題/領域番号 |
23K07227
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分52050:胎児医学および小児成育学関連
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
西 順一郎 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (40295241)
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研究分担者 |
藺牟田 直子 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 助教 (00643470)
大岡 唯祐 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 准教授 (50363594)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 大腸菌 / 基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ / 菌血症 / CTX-M / K1莢膜遺伝子 / 系統解析 / AmpC型β-ラクタマーゼ / 血清抵抗性 |
研究開始時の研究の概要 |
小児腸管由来大腸菌と成人血液由来大腸菌および小児髄液・血液由来大腸菌を対象とし、O血清群・H血清群・MLSTの決定と系統解析、薬剤耐性遺伝子と病原遺伝子の分布状況の検討、薬剤感受性、血清抵抗性、抗食菌作用などの表現型の検討、血液分離株の遺伝子情報と菌血症患者の臨床情報との照合、各株が保有するプラスミドのレプリコンタイピングと接合伝達性の検討、各群の代表株のゲノム解析を実施する。各群の特徴を比較し、特に小児が保菌する大腸菌と成人の血液由来大腸菌との遺伝的共通性を薬剤耐性と病原性の観点から包括的に検証し、小児・成人の侵襲性大腸菌感染症の制御のための基盤とする。
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研究実績の概要 |
大腸菌菌血症患者の血液由来大腸菌は、鹿児島大学病院を中心に2019年11月~2021年11月までの2年1か月間に収集した134株を対象とした。MLST(multilocus sequence type)による系統解析と分子疫学的解析を実施し、臨床情報から重症化のリスク因子を検討した。系統群はB2 105株 (78.4%)、D 12株 (9.0%)、B1 9株 (6.7%)、A 7株 (5.2%)、F 1株 (1, 0.7%)に分類され、sequence type (ST)はST131 30株 (22.4%)、ST73 26株 (19.4%)、ST95 14株 (10.4%)、ST1193 7株 (5.2%)が多かった。O血清群は、O25 39株 (29.1%)、O6 24株 (17.9%)、O114株 (10.4%)、O125 7株(5.2%), O75 6株(4.5%), O2 4株(3.0%)の順に多く、開発中のO抗原(O25, O1, O2, O6)標的としたバイオコンジュゲート大腸菌ワクチンExPEC4V(Frenck RW. Lancet Infect Dis, 2019)のカバー率は60.4%であった。病原遺伝子では、免疫回避遺伝子であるiss (Increased serum survival protein)、neuC (K1 capsule)、 kpsMT K5 (K5 capsule)のいずれかを保有する株が124 株 (92.5%)みられ、ヒト血清抵抗性を示す株が多かった。ヒト血清抵抗性の指標serum resistance index(SRI)は、全株の平均が0.385 ± 0.141 (range: 0.170-0.909) であり、実験室株E. coli K12 (0.035 ± 0.027)より高かった。また、鉄獲得遺伝子aer-陽性株のSRI (0.401 ± 0.137) とヘモリジン遺伝子hly-陽性株のSRI(0.420 ± 0.091) は、それぞれ陰性株のSRI(0.366 ± 0.147、0.379 ± 0.149)より有意に高かった(p = 0.039、0.018)。大腸菌菌血症の重症度の解析では、カテコラミン使用と有意に関与していた宿主因子は、基礎疾患では糖尿病(OR 3.48)、菌血症の侵入門戸(原因感染症)では大腸菌による肺炎(OR 23.31)であった。また、30日死亡率と有意に関与していた宿主因子は基礎疾患で肝硬変(OR 30.64)、菌血症の侵入門戸(原因感染症)では大腸菌による肺炎(OR 10.50)であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大腸菌菌血症患者の血液由来大腸菌134株中34 株 (25.4%) が基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)CTX-Mを産生しており、そのうち21 株 (61.8%) がO25:H4/ST131であり、ST131のsubcladeは、C1-M27が11株(52.4%)と最も多く、次いでC2 6株(28.6%)、C1-nonM274株(19.0%)であった。2001~2019年の小児下痢症患者の便由来大腸菌9,510株から検出したESBL CTX-M遺伝子陽性株355株の検討でも、ST131は188株(53.0%)と多数を占め、ST131のsubcladeはC1-M27 85株(45.2%)、C1-nonM27 41株(21.8%)、B 36株(19.1%)、A 11株(5.9%)、C2 7株(3.7%)であった。小児の腸管でもESBL CTX-M産生大腸菌ST131 subclade C1-M27が広がっていることが明らかになった。 また、大腸菌菌血症患者の血液由来大腸菌134株中5株 (3.7%) がAmpC型β-ラクタマーゼ(ACBL)を産生しており、そのうち2株 (40.0%) がプラスミド性ACBL CMY-2産生株であった。ACBL産生株の系統群はB2が3株(ST12, 73, 127)、Dが2株(ST68, 69)であった。そこで鹿児島大学病院で2017~2023年に臨床検体から検出されたACBL産生大腸菌42株の分子疫学的解析を行った。その結果、プラスミド性ACBL産生菌が19株(45.2%)(CMY-2 15株、DHA-1 4株)みられ、系統群はB2 24株(57.1%)、D 6株(14.3%)、F 6株(14.3%)、B1 5株(11.9%)、E 1株(2.4%)であった。大腸菌においてESBL産生菌とともにACBL産生菌が一定の割合で検出され問題となっていることがわかった。小児腸管由来大腸菌におけるACBL産生菌の解析はまだ実施できておらず、今後検討したい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、小児が保菌する大腸菌と成人の血液由来大腸菌との遺伝的共通性を薬剤耐性と病原性の観点から包括的に検証し、小児・成人の侵襲性大腸菌感染症の制御のための基盤とすることが目的である。現在のところ、2021年までの成人の血液由来大腸菌の系統解析と分子疫学解析が終了したが、成人の血液由来大腸菌については、今後2022年以後の株を対象に同様の解析を進め、大腸菌ワクチンExPEC4Vの血液由来大腸菌におけるカバー率の検討も継続する予定である。また、大腸菌による尿路感染症や肺炎症例についても検討する予定であり、すでに尿路由来大腸菌は132株、喀痰由来大腸菌20株の収集が終了している。特に尿路由来大腸菌は、分子疫学解析とともに膀胱上皮細胞への付着性を検討する予定である。 小児の下痢症患者の腸管由来大腸菌については、ST131/O25:H4 株を中心としたESBL CTX-M遺伝子陽性株の検討が2019年まで終了しており、今後2020~2023年の株について解析を進める。またESBL産生菌とACBL産生菌などの薬剤耐性株の検討以外にも、免疫回避遺伝子であるiss、neuC、kpsMT K5保有株や、成人の血液由来大腸菌で多かったST73/O6:H35株、ST95/O1:H34株、ST1193/O75:H5株の検出を試みる予定である。 小児腸管に常在する薬剤耐性大腸菌や病原性大腸菌は集団保育で伝播しやすく、成人の大腸菌感染症原因菌のリザーバーとなっている可能性があり、小児と成人由来の大腸菌の遺伝的集団構造(population structure)のサーベイランスを継続することが重要である。
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