研究課題
基盤研究(C)
小児の後天性脱髄性症候群(Acquired Demyelinating Syndrome: ADS)は、急性散在性脳脊髄炎、多発性硬化症、MOG抗体関連疾患など、多彩な臨床病型を含む疾患群の総称である。ADSの5-10%は15歳未満の小児に発症するが、若年発症に寄与する生物学的メカニズムは不明である。本研究では、ADS患児由来誘導脳オルガノイドおよびミクログリア(induced microglia-like cells: iMG)を用いた、新しいヒト脳疾患モデルを構築する。iMG内の遺伝子発現・代謝プロファイルを網羅的に解析し、臨床上有用な活動性指標および治療標的を抽出する。本研究を通して、小児ADSを克服するための分子医学的エビデンスを創出する。
ミクログリアは、神経炎症性疾患の進行および防御に対して多彩な役割を果たす。炎症状態に対するミクログリアの多様性とそれを支えるメカニズムについては、これまで明らかにされてない。我々は、小児神経炎症性疾患のインビトロモデルを確立するために、血液採取量を最小限に留める方法を探索してきた。今回、成人および小児末梢血単球由来のヒト誘導ミクログリア様(induced microglia-like, iMG)細胞を樹立するために、年齢に応じた最小採血量を設定した。2週間の最適条件でiMGを誘導後、各iMGが自然免疫リガンドに対してどのように応答するかを解析した。iMGPoly-I:Cとリポ多糖(LPS)がIL1BとTNF mRNA発現を活性化した。コントロール群(n = 11)と神経炎症性疾患患者群(n = 24)の間で、iMGの免疫反応性の差は見られなかった。フローサイトメトリーにより、CD14high細胞がLPS刺激後にインターロイキン-1β (IL-1β)を発現することが、明らかになった。免疫ブロット法により、poly-I:CとLPSはiMG内で異なる炎症経路を活性化することが示された。一方、両リガンドは共通してミトコンドリア不安定性とピルビン酸キナーゼアイソフォームM2 (PKM2)の発現を誘導した。さらに、PKM2の強力な活性化剤(DASA-58)は、LPS刺激後のIL-1β産生を減弱させた。本研究を通して、ヒトiMGの多様な免疫反応性は、不均一な細胞集団とミトコンドリアの安定性によって支えられることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
予定通り、研究成果を英文誌に発表できた。
上記の結果を踏まえ、今後さらに細胞間の不均一性を支える分子メカニズムを掘り下げる。とくに単一細胞レベルで、炎症性サイトカイン関連遺伝子の発現レベルの特徴を網羅的に解析し、どのようなiMGサブセットが、どのような反応を示すかを明らかにする。
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件)
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