研究課題/領域番号 |
23K07371
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分53010:消化器内科学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大矢 由紀子 東京大学, 医学部附属病院, 届出研究員 (80972786)
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研究分担者 |
早河 翼 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (60777655)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 胃癌 / Bclxl / Wnt |
研究開始時の研究の概要 |
消化管腫瘍の進展においてWnt経路の活性化が重要である。本研究グループは胃癌マウスモデルにおいて神経刺激によってWnt経路とYAP経路が活性化されて腫瘍進展が促進し、YAP標的遺伝子であるBCL2L1(Bclxl)などの上昇を報告した。Bclxlは抗アポトーシス作用を持ち複数の癌種で高発現が認められている。本研究者は遺伝子改変マウスモデルを用いてBclxlの胃癌における機能を解析した。Bclxl欠損で腫瘍増殖が著明に抑制されることを確認し、Bclxlがβ-cateninの核移行に必須であり、Wnt経路活性化を誘導していることが示唆された。本研究は胃癌の新規機序解明と治療開発に寄与すると考える。
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研究実績の概要 |
近年、消化管腫瘍の進展においてWnt/β-cateninシグナル伝達経路の活性化が重要であることが確認されている。申請者らのグループは、過去の胃癌マウスモデルを用いた検討により、アセチルコリン依存性神経刺激によってWnt経路が活性化され、腫瘍進展が促進されることを過去に報告した。この胃癌細胞内のWnt活性化にはYes-Associated Protein (YAP)経路の活性化が必要であり、結果としてYAP標的遺伝子であるBCL2L1などが有意に上昇していた。BCL2L1の主要アイソフォームであるBclxlは抗アポトーシス作用を持ち、複数の癌種で高発現が認められており、Bclxlを阻害すると腫瘍の成長が抑制されるとの報告がある。申請者は、遺伝子改変マウスモデルを用いてBclxlの胃癌における機能を解析した。BclxlはApc依存性の胃腫瘍で発現が増加し、これをノックアウトすることで腫瘍増殖が著明に抑制されることを確認した。 RNA sequence解析により、Bclxlはインスリンシグナルや脂質代謝を制御するPPARγの発現やその他の細胞内代謝や分化を調節している可能性が示された。有意に変動する遺伝子群のうち、過去の既報からWnt経路・脂質代謝経路・細胞増殖経路に関与する転写因子とされるSox17、Pparg、Hnf1aに着目した。このうちSox17はBclxl欠損により発現が低下し、後2者は発現が増加していた。各遺伝子を強制過剰発現させるアデノウイルスベクターを作製し、これらをKPA/KPABオルガノイドに感染させ、各遺伝子の機能解析を行った。KPABオルガノイドに対するSox17過剰発現によってWnt経路活性化と細胞増殖が回復し、KPAオルガノイドに対するHnf1a過剰発現によりWnt経路・細胞増殖の抑制が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
BCL2L1の主要アイソフォームであるBclxlのノックアウトマウスモデルを用いてBclxlの胃癌における機能を解析した。BclxlはApc依存性の胃腫瘍で発現が増加し、これをノックアウトすることで腫瘍増殖が著明に抑制されることを確認した。 RNA sequence解析により、Wnt経路・脂質代謝経路・細胞増殖経路に関与する転写因子とされるSox17、Pparg、Hnf1aの同定に成功した。このうちSox17、Hnf1a過剰発現によりWnt経路・細胞増殖の変動が起きることを、オルガノイド培養モデルを用いて確認できた。 以上より、当初予定していた実験計画にそって研究は順調に推移している。当初の予定ではメタボローム解析の実績も検討していたが、メタボローム解析に必要な細胞数をオルガノイド培養系で得るのが技術的・予算的に困難であったことから、こちらは未実施となっている。しかしながら、RNAseqデータの詳細解析により、代謝経路の変動の同定に成功していることから、追加でメタボロームを実施しなくても研究目的は達成可能であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
Apc依存的胃腫瘍に対するBclxl阻害剤の効果を、M-A胃癌マウスモデル(観察必要期間約2ヶ月)およびKPAオルガノイド移植モデル(同約1ヶ月)を用いて検証する。阻害剤として市販されているABT-737、ABT-263、APG-2575の使用を予定し、解析前2週間にわたり連日投与を行い、腫瘍サイズおよび組織像の比較を行う。なお上記薬剤のうちABT-737についてはin vitroにおいてKPAオルガノイドの増殖阻害作用を確認できている。これにより、胃癌の治療薬としてのBclxl阻害剤の有効性・認容性を前臨床モデルで確認する。 マウスモデルで解明されたBclxlの機能および胃癌治療標的としての可能性について、ヒト胃癌サンプルで検証を行う。ヒト胃癌組織におけるBclxlおよび下流因子の発現状態を組織アレイの免疫染色およびTCGA公開データベース情報を用いて解析し、各分子の発現状態の相関、臨床パラメータとの関連を明らかにする。上記解析で同定されたBclxl依存的なWnt経路・細胞内代謝・細胞増殖制御機構について、ヒト胃癌細胞株とアデノウイルスベクターを用いた過剰発現実験により確認を行う。これにより胃癌におけるBclxlの腫瘍促進機序がヒトにおいても保持され、ヒト胃癌に対する有望な治療標的となりうるかを明らかにする。
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