研究課題/領域番号 |
23K07395
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分53010:消化器内科学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小沼 邦重 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (90597890)
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研究分担者 |
井上 正宏 京都大学, 医学研究科, 特定教授 (10342990)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2026年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | がん細胞集団の極性転換 / micropapillary carcinoma / がん細胞集団の薬剤感受性 / 大腸がんオルガノイド / がんの極性転換 / オルガノイド |
研究開始時の研究の概要 |
Micropapillary carcinomaは予後不良で、極性反転状態を特徴とする病理組織型である。申請者は、これまでに極性状態の動的な変化をin vitroで評価するプラットホームを確立した。本研究の目的は「MPCの病態を示すがん細胞集団の極性状態を転換させる新たな治療法を探索すること」である。申請者は、先行研究でIFN-γがMPCの極性を転換させることを明らかにしている。本研究では①IFN-γがMPCの極性を転換させるメカニズムの解析、②IFN-γと抗がん剤との併用による治療効果の検討、③生体での実効性の評価を行う。
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研究実績の概要 |
Micropapillary carcinoma(MPC)は予後不良、薬剤耐性で、極性反転状態を特徴とする病理組織型である。MPCには治療標的となる分子は見つかっておらず、治療法も確立されていない。Apical面にはABCトランスポーターが発現しておりapical-outの極性(apical面が細胞集団の外側に局在)を持つことで薬剤を外側に排出し、その結果、薬剤耐性になることが報告されている。この事実から、MPCの薬剤耐性に極性転換不全が関与している可能性を考えた。そこで、MPCの極性を転換させれば、抗がん剤の感受性が上がり、治療につながるのではないかとの着想に至った。本研究の目的は「MPCの病態を示すがん細胞集団の極性状態を転換させる新たな治療法を探索すること」である。研究材料として、すでにMPCの病態をもつ大腸がんオルガノイドを保持しており、マウス皮下に移植するとMPC様の組織像を呈することを確認している。また、IFN-γ処理によってMPCのapical-outの極性が消失し、抗がん剤への感受性が上がることを示している。2023年度は、①IFN-γがMPCオルガノイドを極性転換させるプロセスと②IFN-γによるMPCの極性転換の生体での実効性の検討を行った。IFN-γがapical-outの極性を消失させることに着目し、apicalマーカーであるVillinの動態を観察した結果、apical面はIFN-γ処理後6-12時間でMPC-オルガノイドの外側から消失した(①)。また、IFN-γをMPC-オルガノイドの担癌マウスへ投与すると、apical面およびABCG2は細胞集団の外側から消失した(②)。これらの結果から、IFN-γは、12時間以内にapical-outの極性の消失が始まり、少なくとも「極性」の観点から生体での実効性を持つことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、①IFN-γがMPCオルガノイドを極性転換させるプロセスと②IFN-γによるMPCの極性転換の生体での実効性の検討を行った。以下、進捗の詳細を記載する。 ①リアルタイムで極性状態をモニターできるGPI-GFP導入MPCオルガノイドを用いて、apical-outの消失が始まる時間を検討した。その結果、6-12時間以内にapical-outの消失が始まった。また、Tight junction(TJ)の緩みがapical-outの消失のトリガーになると仮説を立てた。apical面と TJの動態をVillinとZO-1の免疫染色によって電子顕微鏡で観察した。その結果、apical面とT Jは同様の局在を示し、IFN-γ処理後6-12時間でMPC-オルガノイドの外側から消失した。T Jとapical-outの消失は同時に起きると考えられた。 ②IFN-γは、MPCオルガノイドをECMに埋包してMPC状態が確立した後に処理してもapical-outの極性状態を消失させることを確かめているが、生体でも同様の効果が得られるかオルガノイドの皮下移植モデルを用いて、投与時期を検討した。具体的には、MPC-オルガノイドを移植後、腫瘍体積が100mm^3に達した時点でIFN-γを1日おきに3回投与し、1週後に摘出腫瘍をホルマリン固定した。Villinをapicalタンパクの、ABCG2をABC transporterのマーカーとして免疫組織学的に解析し、IFN-γの投与によるapical-outの消失効果を検討した。その結果、IFN-γを投与した担癌マウスの腫瘍では、apical面およびABCG2は細胞集団の外側から消失した。これらの結果から、IFN-γは、12時間以内にapical-outの極性の消失が始まり、少なくとも「極性」の観点から生体での実効性を持つことを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究のは以下に記載する3つに基づき推進する。 1)IFN-γがMPCの極性を転換させるメカニズムの検討:2023年度でIFN-γによる極性転換が開始する時間帯(12時間以内)で、活性状態が変動する分子を同定するためにリン酸化プロテオーム解析を行う。CTOS法で作製したオルガノイドの極性転換に関与するSRC、FAK、Rhoのシグナルやがんの極性の喪失に関与するPAR、SCRIB、Crubsファミリーの関連分子などから、候補分子を絞り込む。候補分子に対して、GPI-GFPを導入したMPCオルガノイドを用いてshRNAによる遺伝子発現抑制あるいは強制発現により、極性状態をリアルタイムでモニターする。ウエスタンブロッティングや免疫染色で分子の発現や局在を検討する。 2)IFN-γと抗がん剤との併用による治療効果の検討:すでにIFN-γはMPCの極性を転換させること、L-OHPなどの抗がん剤と併用効果があることを先行研究で見出しているので、大腸がんの治療に使用されている他の抗がん剤(5-FU,ドキソルビシン、ゲムシタビン)でも併用効果があるか検討する。また、1)で同定した極性転換を制御する分子の発現を調節したオルガノイドに対して抗がん剤の治療効果を評価する。また、apical-outの極性を転換したMPCで、薬剤の細胞内濃度が上昇するか検証する。 3)IFN-γによるMPCの極性転換の生体での実効性の検討:IFN-γおよび1)で見出したMPCを極性転換させる分子あるいは化合物と抗がん剤の組み合わせが、生体で効果を示すか検証する。抗がん剤は、5-FU、L-OHP、gemcitabineを用いる。マウスへの皮下移植モデルを用いる。
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