研究課題/領域番号 |
23K07417
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分53010:消化器内科学関連
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
樋口 琢磨 高知大学, 教育研究部医療学系基礎医学部門, 助教 (10754567)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | NASH / 肝細胞がん / NF90 / NF45 / miRNA / 肝臓特異的ノックアウトマウス / microRNA / RBPs |
研究開始時の研究の概要 |
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の肝臓において癌抑制・抗線維化・抗炎症作用を有するmiRNAの産生が低下していることが明らかとなり、当該miRNAの産生低下とNASHの発症・増悪化の関連性が着目されている。我々はこれまで、肝細胞癌検体やNASHモデルマウスの肝臓において発現増加しているRNA結合タンパク質複合体「NF90-NF45」が、複数のmiRNAの産生を阻害することを見出している。本研究では肝細胞特異的NF90欠損マウスおよびNASH由来肝発癌モデルを用いて、癌抑制・抗線維化・抗炎症作用をもつmiRNAの産生低下がNASHの発症およびNASH由来肝細胞癌への進展に与える影響を検証する。
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研究実績の概要 |
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は、肝臓における炎症・線維化を伴い肝硬変、肝細胞がん(HCC)へと進行する予後不良の慢性肝疾患であるが、NAHSの発症・増悪化の機序については不明な点が多く残されている。これまで我々の研究チームでは、miRNA産生阻害複合体NF90-NF45がヒトHCC患者手術検体およびマウスNASHモデルの肝臓において発現亢進することを見出している。上記知見より我々は「NF90-NF45の発現亢進が、がん抑制・抗炎症・抗線維化作用を有するmiRNAの産生低下を介して、NASHの進行および肝発がんに寄与する。」という作業仮説の着想に至り、当該仮説の実証を試みている。 本年度は、我々が独自に作製した肝細胞特異的NF90ノックアウトマウス(Hepa-NF90KOマウス)を用いて、NASHおよびNASH由来の肝発がんを誘発するNASH-HCCモデルを作製し、NASHおよびNASH-HCCの発症に対するNF90-NF45の影響の検討を試みた。解析の結果、コントロールマウスを用いたNASH-HCCモデルと比較し、Hepa-NF90KOマウスを用いたNASH-HCCモデルでは肝臓表面に発生した腫瘍数が有意に減少していた。また、コントロールマウスを用いたNASH-HCCモデルの肝臓では、高脂肪食の給餌のみで誘導した単純生脂肪肝モデルと比較し、NF90およびNF45の発現が有意に増加していた。一方で、Hepa-NF90KOマウスでは、単純生脂肪肝モデルとNASH-HCCモデルにおいてNF90およびNF45の発現に有意な差は見られなかった。 以上の結果から、肝臓におけるNF90-NF45の発現増加はNASH-HCCの発症に対して促進的に作用することを見出すことができた。 また本プロジェクトにおけるNASHモデルマウスの肝臓を用いた解析から、島根大学との共同研究に発展した。当該共同研究の成果は、学術誌Biomedical Researchに発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、2023年においてHepa-NF90KOマウスを用いたNASH-HCCモデルの作製を行い、十分な個体数を得た。また前述の通り、コントロールマウスと比較し、Hepa-NF90KOマウスを用いたNASH-HCCモデルでは肝臓表面に発生した腫瘍数が有意に減少していたことから、前述の作業仮説で提唱した「肝臓におけるNF90-NF45の発現増加がNASH-HCCの発症に寄与する」という内容を示すデータを得ることができた。一方で、当該表現型を呈す分子メカニズムについては解明できていないため、当該マウス肝臓におけるmRNAおよびmiRNAの網羅的発現解析を実施し、NF90-NF45の発現増加とNASH-HCCを繋ぐ分子機序を解明する。 また、HCC患者の検体およびNASHモデルマウス肝臓においてNF90の発現増加が確認されるが、肝臓においてNF90の発現を制御するシグナル経路は十分明らかになっていない。当該シグナル経路を探索するため、NF90の発現を発光検出できる細胞系の構築にも取り組んだ。肝細胞がん細胞株に対して、ゲノム編集(CRISPR/Cas9)によりNF90遺伝子のStopコドン上流にHiBiT配列を挿入したノックイン細胞の作製を実施している。HiBiT配列は小分子ルシフェラーゼLgBiTと結合し、基質の添加で発光する。現在、ノックイン細胞の抽出液がLgBiTと基質の添加により発光することを確認できている。後述の通り次年度では、当該細胞を単一化した後、低分子化合物ライブラリーを用いたスクリーニングを実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
肝臓におけるNF90-NF45の発現増加がNASH-HCCの発症を促進する分子機序を解明するため、コントロールマウスおよびHepa-NF90KOマウスを用いて作製したNASH-HCCモデルにおける網羅的遺伝子発現解析を実施する。当該マウスの肝臓からtotal RNAを抽出しRNA-seq および small RNA-seq を行うことで、mRNAおよびmiRNAの網羅的発現解析を実施し、NF90-NF45の発現増加とNASH-HCCを繋ぐ分子機序を解明する。 また当該マウスの肝障害状態の解析については、肝臓内の線維化解析および腫瘍の確認のみに留まっている。今後はマウス血漿を用いた肝障害マーカーの解析や、肝臓内の脂肪領域評価等も実施する予定である。 NF90の発現増加メカニズムの解明については、作製したHiBiT配列ノックイン細胞を単一化した後、既に取得済みの低分子化合物ライブラリー(先端モデル動物支援プラットフォーム・分子プロファイリング支援)と化学発光系を用いたスクリーニングを実施する。当該解析を通してNF90の発現を増加させるシグナル経路を探索する予定である。
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