研究課題/領域番号 |
23K07436
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分53010:消化器内科学関連
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小山 佳久 大阪大学, 大学院医学系研究科, 助教 (40397667)
|
研究分担者 |
島田 昌一 大阪大学, 大学院医学系研究科, 教授 (20216063)
小林 悠輝 大阪大学, 産業科学研究所, 特任准教授 (40723557)
小林 光 大阪大学, 産業科学研究所, 特任教授(常勤) (90195800)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
|
キーワード | 潰瘍性大腸炎 / 酸化ストレス / 水素 / 抗酸化物質 / 精神症状 / 活性硫黄 / 神経症状 |
研究開始時の研究の概要 |
潰瘍性大腸炎は寛解と再燃を繰り返すため治療が非常に難しく、完治を目指すためには患部だけでなく再燃に大きく関わる脳の治療が非常に重要である。我々が開発したシリコン製剤は、経口摂取によって抗酸化物質の水素を腸管で多く発生し続けることができる。シリコン製剤は潰瘍性大腸炎モデルマウスの病態だけでなく、内臓痛や内臓不快感などの神経症状も緩和することができた。 本課題では、潰瘍性大腸炎に伴う神経症状に対するシリコン製剤の有効性を検討し、その作用機序だけでなく大腸炎の神経症状発症機序解明にも取り組む。最終的に寛解導入及び長期寛解維持が可能な潰瘍性大腸炎の新規治療薬開発を目指す。
|
研究実績の概要 |
潰瘍性大腸炎は大腸粘膜に潰瘍やびらんができる原因不明の非特異性炎症性大腸炎であり、寛解と再燃を繰り返して慢性化する難治性疾患である。消化管の炎症が脳腸相関を介して脳機能にも影響を与えるため、増悪期にうつ病や不安障害など精神疾患を発症する危険が高い。一方、精神症状は潰瘍性大腸炎再燃の主要な要因である。したがって、潰瘍性大腸炎の治療には腸と脳の両方の症状緩和に有効な根治薬の開発が求められる。発症原因の一つに酸化ストレスの関与が挙げられることから、適切な抗酸化作用を有する薬剤が本疾患の有効な治療薬となる可能性がある。我々のシリコン製剤は、経口摂取によって抗酸化物質である水素を腸管で大量かつ持続的に発生し続けることができる。これまでの研究によって、シリコン製剤が患部である大腸の炎症亢進や酸化ストレスの蓄積を緩和することを明らかとした。一方で、シリコン製剤の経口投与マウスの大腸では、より多くの水素発生及び活性硫黄などの抗酸化作用の強い硫黄代謝物の発現増加が観察された。本年度では、大腸炎発症やシリコン製剤投与による脳の酸化還元状態について解析を行った。硫黄代謝物を基準に酸化還元状態を調べた結果、大腸炎発症によって脳は過還元化するが、シリコン製剤投与によってその還元ストレスが緩和されることが明らかとなった。過還元状態は細胞に対する還元ストレスとなり、ミトコンドリア機能不全やアポトーシスの増加などを引き起こすことが報告されており、大腸炎発症に伴う精神症状の発症や悪化に影響を及ぼしている可能性が考えられる。今後は、脳における還元ストレスの追試だけなく、行動試験や形態学的解析を用いて精神行動や脳の炎症状態を解析し、シリコン製剤の脳への効果を調べていく。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
潰瘍性大腸炎の発症や症状悪化に酸化ストレスは大きく関わっているため、適切な抗酸化剤は有用な治療薬になり得る。シリコン製剤は水と反応し、大量の水素を持続的に発生する事が出来る。水素は、選択的に有害な活性酸素(ヒドロキシラジカルなど)を中和する抗酸化物質である。新規抗酸化物質であるシリコン製剤が、潰瘍性大腸炎の症状緩和に有効性を示すか検討を行うため、5%デキストラン硫酸ナトリウム誘発性潰瘍性大腸炎モデルマウスに対して、2.5%シリコン製剤含有食餌を与えた群と通常食餌を与えた群で病態について比較解析を行った。潰瘍性大腸炎の発症や増悪に関わる炎症及び酸化ストレスの蓄積について、シリコン製剤投与によって有意に緩和されることが明らかとなった。また、シリコン製剤を与えたマウスの大腸では水素量が増加し、活性イオウなどの強力な抗酸化作用を呈する硫黄代謝物も増加していた。一方で、潰瘍性大腸炎に伴う精神症状は、大腸炎の難治性の大きな原因である。本期間では、大腸炎発症やシリコン製剤投与による脳への影響について、酸化還元状態を基準に解析した。驚くことに、硫黄代謝物の網羅的解析によって、大腸炎発症に伴って、脳は過還元状態になり、シリコン製剤はそのような状態を緩和することが明らかとなった。過還元状態は細胞に対する還元ストレスとなり、ミトコンドリア機能不全やアポトーシスの増加などを引き起こすことが報告されている。潰瘍性大腸炎に伴う精神症状の発症や悪化に影響を及ぼしている可能性が考えられることから、大腸炎に伴う精神症状の治療において、脳の還元ストレス緩和は非常に重要である。今年度の研究によって、シリコン製剤が、脳の酸化還元状態恒常性を維持している可能性が示唆された。
|
今後の研究の推進方策 |
2024年度は、潰瘍性大腸炎に伴う精神症状に対するシリコン製剤の有効性について、さらなる検討を行う。最初に、潰瘍性大腸炎に伴う精神症状を各種行動試験(新規探索行動を解析するオープンフィールド試験、うつ様症状を解析する強制水泳試験など)で評価する。続いて、潰瘍性大腸炎に伴う脳内炎症の領域について、炎症マーカー抗体(Iba1やCD11bなどのミクログリア/マクロファージマーカー抗体やIL-6抗体など)を用いた免疫染色法によって同定を試みる。最後に、大腸炎に伴う脳の還元ストレスやシリコン製剤投与による緩和効果のさらなる検討を行う。具体的には、シリコン製剤が直接活性硫黄の産生を増加できるか、in vitro実験にて解析する予定である。
|