研究課題
基盤研究(C)
血栓症は動脈、静脈を問わず多くの疾患に併発し直接的な死因となる。ポドプラニン(PDPN)受容体のC-type lectin-like receptor 2 (CLEC-2)ならびにコラーゲン受容体のglycoprotein VI (GPVI)は、次世代の抗血小板薬の標的として注目されているが、これらの受容体に対する低分子阻害剤を開発するのは難易度が高い。申請者らはこれまで、これらの受容体に対する低分子ヒット化合物の獲得に成功した。これ他の化合物が生体内でさらに効力を発揮できるように化合物に改変を施し、実用化を目指す。
血小板受容体CLEC-2に結合し、ポドプラニンによる血小板凝集を防ぐ化合物Xを獲得した。この化合物Xの抗血小板凝集阻害の特異性を検証した結果、ADPやトロンビンによる凝集に対しては抑制作用はないものの、コラーゲンによる活性化に対しては抑制することが判明した。化合物Xと血小板コラーゲン受容体glycoprotein VI (GPVI)との結合をin silicoのでバインディングアッセイにて評価したところ、化合物XはGPVIのコラーゲン結合部位にも結合することが判明した。しかし、化合物Xによる血小板凝集阻害が、凝集を抑制しているのか、活性化自体を抑制しているのかは不明である。そこで、この解明を試みた。化合物X存在下、非存在下でのコラーゲン惹起後凝集後の血小板の構造を電子顕微鏡で観察した。コラーゲン惹起した活性化血小板は、表面から多数の突起が伸長して互いに結び付いていたが、化合物X存在下での惹起では、惹起前と同様、滑らかな表面構造のままであった。次にフローサイトメーターにて活性化マーカーであるP-セレクチンの発現に対する影響を調べた。この結果、化合物Xはコラーゲン惹起によるP-セレクチンの発現を抑制していることが判明した。血小板活性化は種々のシグナル伝達系タンパク質のチロシン残基のリン酸化を引き起こす。そこでリン酸化チロシンへの影響をウエスタンプロットにて評価した。この結果、化合物Xはリン酸化チロシンの出現を抑制していることが判明した。以上の結果より、化合物Xによるコラーゲン惹起血小板凝集測定は、コラーゲンとGPVIとの結合を妨げることにより、活性化自体を抑制していることが判明した。同様の結果はポドプラニンによるCLEC-2を介した活性化に対しても見られ、化合物Xが選択的二重拮抗剤であることが示された。これらの結果をまとめ、化合物Xに関しての論文を発表した。
2: おおむね順調に進展している
化合物Xはマウス深部静脈血栓症モデルならびにコラーゲン誘導肺塞栓モデルにおいて、薬理効果が低いことが判明した。これは血中アルブミンとの結合による可能性が浮上した。そこで化合物Xについては一旦中断し論文発表し、新たな化合物をスクリーニングから行うことにした。研究の進行に伴い新たな課題が生じた。このため、当初の予定の予定に加え、これらにも取り組む必要が生じた。血小板上のCLEC-2分子は、ポドプラニン分子の結合によってクラスター化されることにより、活性化シグナルが入ることが知られている。このため血小板活性化は、ポドプラニンを過剰発現させた生細胞が惹起剤として広く用いられ、我々もポドプラニンを安定発現させたCHO細胞の懸濁液を用いている。しかし血小板の凝集の程度ならびに添加後の凝集開始時間には細胞の状態(実験日)により大きく変動する。一方、非細胞性の惹起剤(コラーゲンやADP)では、実験間に大きな違いはない。そこで生細胞ではなく、ポドプラニン分子を樹脂に結合させた非細胞性惹起剤を作成し、実験系を安定化させることにした。この目的のために発現ベクターを作成し、培地からの精製にも取り組んでいる。
第一弾研究で得られた化合物Xはマウスモデルでの効果が低いため、一旦中断して論文として発表した。この経験を踏まえ、第二弾研究では効率よく化合物獲得を行う。CLEC-2の惹起剤として、ポドプラニンを発現させた生細胞ではなく、ポドプラニン分子を樹脂に結合させた非細胞性惹起剤を作成し、実験系を安定化させることにした。分泌型ポドプラニンの発現ベクターを作成し、培地からアフィニティー精製する。これをキャリアタンパク質に共有結合させる。
すべて 2024
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Thrombosis and Haemostasis
巻: 124(3) 号: 03 ページ: 203-222
10.1055/a-2211-5202