研究課題
基盤研究(C)
本研究では、ペースメーカー植込み以外に有効な治療法のない家族性洞不全症候群を対象とし、独自に構築した大規模遺伝性不整脈疾患データベースと新しい技術であるサブタイプ特異的iPS細胞心筋分化誘導技術とを組み合わせた研究により、遺伝的背景と疾患発症機序の解明を行う。家族性洞不全症候群の遺伝的背景が明らかになれば、より「common」な洞不全症候群における遺伝的因子の解明、リスク層別化、治療薬開発への波及が見込まれる。
洞不全症候群は、心臓のペースメーカー機能に障害が生じる遺伝性疾患で、現在のところペースメーカー植込み以外に有効な治療法が存在しない。本研究では、この病気の遺伝的な原因と発症メカニズムを解明するために、最先端のiPS細胞技術と共同研究施設と構築した遺伝性不整脈ゲノムデータベースを活用した研究をすすめている。iPS細胞を用いた洞結節細胞への特異的分化に関しては、まだ挑戦的な技術であるが、我々は、既報(Protze et al. Nat Biotechnol. 2017)を最適化し、iPS細胞由来洞結節細胞(TnT陽性かつNKX2.5陰性、高い拍動数、典型的な活動電位波形を有する)の作製に成功している。この技術により、心臓のペースメーカーである洞結節細胞の機能とそれに関わる疾患発症プロセスを模倣することが可能となり、本研究では、家族性洞不全症候群患者由来iPS細胞を洞結節細胞特異的に分化させ解析を行った。4q25非コードDNA領域に大きな欠失を有する洞不全症候群の大家系より樹立した患者由来iPS細胞を用いて分化過程における遺伝子発現を検討した。バイオインフォマティクス解析では、本領域にあるCTCF結合モチーフの欠失が近傍にある洞結節細胞の発生に重要なPITX2の発現を変化させている可能性が示唆され、患者由来iPS細胞を用いた洞結節細胞分化過程における経時的遺伝子発現解析によりPITX2の過剰発現を認めた。PITX2は、洞結節細胞の発生を負に制御しているが、非コードDNA領域の欠失がPITX2の発現異常を来し、洞不全症候群を生じていると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
ヒトiPS細胞のサブタイプ特異的心筋分化法として、洞結節細胞への分化に成功し、患者由来iPS細胞モデルにおける解析をすすめている。疾患モデルにおいて、洞不全症候群の表現型の再現し、洞結節細胞の発生に関わる遺伝子発現の異常を同定しており、進行状況はおおむね順調であると考える。
引き続き、本家族性洞不全症候群iPS細胞モデルを用いて、表現型解析、心筋分化過程におけるより詳細な遺伝子発現解析を行い、疾患発症機序の解明をすすめる。非コードDNA領域の欠失がなぜPITX2の発現異常を引き起こすかに関して、noncoding RNA等の解析も行い、詳細な発症機序の解明、治療ターゲットの同定を目指す。また、他の家族性洞不全症候群症例においてもiPS細胞モデルを用いた同様の解析を行い本疾患の発症メカニズムを明らかにする。
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