研究課題/領域番号 |
23K07589
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分53020:循環器内科学関連
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
平井 希俊 関西医科大学, 医学部, 講師 (60422929)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | ヘテロクロマチン / 核の形状 / メカニカルストレス / 心筋細胞 / 心不全 / ゲノム高次構造 / 核のかたち |
研究開始時の研究の概要 |
申請者は、心筋細胞で変異ヒストンタンパクを過剰発現するマウスで、心筋細胞の核が加齢とともに、異常に変形・伸長することを見出した。これらのマウスでは、ゲノムの高次構造が喪失し、ついには重症心機能不全を呈して全例で死亡する。一方、メカニカルストレスのかからない肝細胞では、同様にゲノムの高次構造が喪失するが、核の変形は起こらなかった。すなわち拍動によるメカニカルストレスのかかる心筋細胞の核で、核のかたちを維持するのにゲノムの高次構造が必須であることが示唆される。本研究では、心筋細胞に焦点をあて、ゲノムの高次構造の役割はなにか、そして加齢・疾患とどのように関わっているのかを明らかにする。
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研究実績の概要 |
過剰なH2B-mCherryを発現させると、顕微鏡下で見えるヘテロクロマチン高次構造が消失し、メカニカルストレスのかかる心筋細胞で核の形状が保てなくなり、徐々に延伸し、遂には核膜が破れて致死性の重症心不全を呈する。本研究の目的は、このH2B-mCherry過剰発現によるヘテロクロマチン破綻システムを用いて、メカニカルストレスに対するヘテロクロマチン高次構造の役割を明らかにすることである。当該年度は、H2B -mCherry発現誘導2週後の心筋細胞核では、ヘテロクロマチン高次構造は破綻するが、核の形状はまだ保たれている。このステージの心筋細胞核と、ヘテロクロマチン高次構造が維持されているH2B-mCherry発現誘導0日後の心筋細胞核(コントロール)とで、Hi-C、ATAC-seq、RNA-seqによるNGS解析によりゲノム高次構造、クロマチンのopen/close構造、そして遺伝子発現の変化を比較した。H2B-mCherry過剰発現誘導2週後の心筋細胞のHi-Cでは、、contact mapの境界が著明に不明瞭になっており、ゲノム高次構造全体がゆるんでいることが示唆された。ATAC-seqで検討すると、発現誘導2週後の心筋細胞核で、LaminB1やH3K9me2/3でマークされるヘテロクロマチン領域はcloseのまま、それ以外の領域もopenのままであり、ヒストン修飾や転写を規定するクロマチン構造はまったく影響を受けていなかった。この結果と合致してRNA-seqで発現誘導2週の時点では遺伝子発現にほとんど影響はなく、ストレスマーカーとされるTnnt1やMyh7がわずかに上昇するのみであった。つまりヘテロクロマチンの高次構造は、遺伝子発現の転写調節よりも、メカニカルストレスに対して核のかたちを維持するための構造的基盤として機能することがより強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
以上のように、研究計画の予定どおりに、過剰なH2B-mCherryで破綻したヘテロクロマチン高次構造をもつ心筋細胞で、どのようなゲノム高次構造・クロマチン構造・転写制御がとっているのかをHi-C, ATAC-seq, RNA-seqを駆使して明らかにした。さらにメカニカルストレス下におけるヘテロクロマチン高次構造の物理的な役割を知るために、心筋細胞核の物性を計測した。顕微鏡下で見えるヘテロクロマチンの高次構造が消失した生後4週のH2B-mCherry過剰発現心筋細胞を単離してきて、原子間力顕微鏡で力学特性を計測すると、核が著しく柔らかくなっていることが分かった。また申請者自身が新しく構築した高解像生体内イメージングで、心筋細胞核の動態のイメージングを行った。ヘテロクロマチンの高次構造が保たれている心筋細胞の核は収縮期・拡張期とで核はまったく変形しない一方で、核が延伸したH2B-mCherry過剰発現誘導6週後の心筋細胞核は、収縮期・拡張期で提灯のように伸び縮みしていた。以上の実験から、ヘテロクロマチンの高次構造は核の物性の一部を担っており、この高次構造が破綻すると核が柔らかくなり、メカニカルストレスのかかる心筋細胞で核が異常に延伸することが明らかになり、当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は老化とヘテロクロマチン高次構造、そして、核の変形との相関を解析する。実際、2歳齢の老齢マウスの心筋細胞の核では、顕微鏡下で見えるヘテロクロマチンの高次構造がばらばらになっていて、核のサイズが大きく、そして延伸しているという予備実験の結果がある。老齢マウスの核を定量し、ヘテロクロマチン高次構造の維持と老化との相関を明らかにする。 また、H2B-mCherryを過剰発現した心筋細胞の核では、クロマチンが非常にゆるくなっているという生化学的な予備実験を得た。加えてクロマチンcompactionの効率が非常に悪くなっており、おそらくヒストンに結合したmCherryによる立体障害によってクロマチン構造自体がゆるくなり、その結果、顕微鏡下で見えるヘテロクロマチン高次構造が消失するのではないかという仮説をたてている。さらに、阻害されたクロマチンCompactionにより、ヘテロクロマチンの凝集形成が阻害される可能性を疑っており、ヘテロクロマチン凝集を促進する分子が、過剰なH2B-mCherryによりどうなるのかを検討する。
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