研究課題/領域番号 |
23K07711
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分53040:腎臓内科学関連
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研究機関 | 福山大学 |
研究代表者 |
木平 孝高 福山大学, 薬学部, 准教授 (90377276)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 腎虚血再灌流障害 / 低酸素誘導因子 / グルタチオン分解酵素 / 細胞死 / アポトーシス / リモデリング |
研究開始時の研究の概要 |
腎虚血再灌流障害(rIRI)は、一時的な腎組織への血流遮断後、血流が再開した際に起こる腎機能障害である。rIRIは、腎移植患者の予後に大きく影響することから、新たな治療法の開発が望まれている。rIRIにおける尿細管細胞死の適切な誘導が、rIRIからの回復に寄与すること、グルタチオン分解酵素(CHAC1)がこれに関与していることを示唆する結果が得られた。そこで、CHAC1による細胞死制御メカニズムを解明することにより、 細胞死発現とrIRI発症および回復との関連を明らかにすることを目的とし、研究を行う。
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研究実績の概要 |
野生型(WT)マウスに腎虚血再灌流障害を誘発すると、再灌流後6時間で腎尿細管細胞のアポトーシスが増加する。一方、低酸素誘導因子ヘテロ欠損(hKO)マウスでは再灌流後6時間でのアポトーシス増加は観察されず、24時間後に増加する。このアポトーシスの発現するタイミングの違いが、hKOマウスにおいて腎虚血再灌流障害が遷延する原因の一つと考えられる。 腎虚血再灌流障害を誘発したマウスの腎組織におけるアポトーシス関連因子の発現をウエスタンブロットにより解析した。アポトーシスを誘発する因子であるBAXおよびアポトーシスを抑制する因子Bcl-2の発現が、hKOマウスにおいて上昇していることが明らかとなった。また、hKOマウスにおけるBcl-2/BAXの値はWTマウスに比べて増加していた。このことから、hKOマウスにおけるアポトーシス発現の遅延にはBcl-2の発現増加が影響すると考えられる。また、アポトーシス等の細胞死の発現に重要な役割を果たすグルタチオン分解酵素(CHAC1)の腎虚血再灌流障害誘発腎組織における発現を免疫染色により解析した結果、CHAC1が再灌流後に尿細管細胞に発現すること、アポトーシス細胞の中にはCHAC1が発現している細胞も観察されることが明らかとなった。このことから、CHAC1も腎虚血再灌流障害における尿細管アポトーシス誘導に関与することが考えられる。 以上の結果から、腎虚血再灌流障害における尿細管細胞アポトーシスにはCHAC1とBcl-2が関与していることが考えられる。これらの結果は、CHAC1、Bcl-2を介したアポトーシス経路が腎虚血再灌流障害の新たな治療ターゲットとなる可能性を示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腎虚血再灌流障害を誘発した野生型(WT)マウスと低酸素誘導因子ヘテロ欠損(hKO) マウスの腎組織におけるアポトーシス誘導因子の解析を行うことを初年度の目標としていたが、2023年度の解析において、アポトーシスを促進するBAXおよび抑制するBcl-2の発現がhKOマウスで上昇していることを見出し、また、hKOマウスにおいてBcl-2とBAXの発現量比を測定すると、Bcl-2の発現がBAXの発現よりも優位となっていることを見出した。これまで明らかとしていたWTマウスとhKOマウスにおける腎虚血再灌流障害時のアポトーシス発現の時差をBcl-2/BAX比が異なることが原因の1つであることを示すことができた。また、WTマウスでは再灌流後に発現が上昇するCHAC1が、hKOマウスでは発現が抑制されているという結果をすでに明らかとしていたが、さらなる詳細な解析からCHAC1がアポトーシスを起こした尿細管細胞に発現していることを示すことができた。このことは、CHAC1が再灌流後の尿細管細胞アポトーシスに直接関与することを示唆する結果である。2023年度の解析から、腎虚血再灌流障害におけるCHAC1によるアポトーシス制御を解明するという本研究の基本となる結果が得られたと考えられ、今後のマウスを用いた実験や培養細胞を用いた実験の足がかりとなると考えられる。以上のことから、おおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
腎虚血再灌流障害を誘発したWTマウスにおいてCHAC1がアポトーシスを起こした尿細管細胞に発現していること、また、hKOマウスにおいてBcl-2の発現がBAXよりも優位となっており、尿細管細胞のアポトーシス誘導が遅延していることが明らかとなった。これらの結果から、低酸素誘導因子の欠損により、CHAC1発現およびBcl-2発現が影響を受け、再灌流後の尿細管細胞アポトーシス発現が遅延するという流れが考えられる。今後は、低酸素誘導因子がCHAC1を直接制御するかどうかについて培養細胞を用いた解析により明らかにすること、CHAC1とBcl-2の間にどのような関係があるのかをこちらも培養細胞を用いた解析により明らかにすることを目標に研究を推進していく予定である。 また、CHAC1はグルタチオンを分解する酵素であることから、細胞内の酸化還元状態に影響を及ぼしアポトーシスに関与することも考えられる。このことを解明するために、マウスに抗酸化作用を有するNアセチルシステインを投与した際に、腎虚血再灌流障害がどのように変化するかをWTマウスおよびhKOマウスを用いて解析する。さらに、培養細胞において発現ベクターや低酸素/最酸素化処理を行うことによりCHAC1を過剰発現させ、細胞内グルタチオン濃度がどのように変化するのか、これに伴い細胞死の進行がどのように影響を受けるのかを解析する。これらの解析を行うことにより、CHAC1の細胞内における機能発現メカニズムの解明と腎虚血再灌流障害のアポトーシス発現への関与について研究を進めて行く予定である。
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