研究課題/領域番号 |
23K07839
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分54010:血液および腫瘍内科学関連
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
小川 峰太郎 熊本大学, 発生医学研究所, 教授 (70194454)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2026年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 造血幹細胞 / 造血性内皮細胞 / 個体発生 / 試験管内分化 / ES細胞 / シグナル因子 / マウス |
研究開始時の研究の概要 |
マウス胎仔の細胞系譜追跡実験とシングルセルRNAシークエンシング解析から予測した造血幹細胞(HSC)の発生経路と分化誘導シグナルを基に、マウス胎仔から単離した各段階のHSC前駆細胞を培養して移植可能なHSCに分化させることにより実証する。さらに、この培養条件をマウスES細胞に応用してHSCの発生過程を試験管内で再現させる。本研究により、中胚葉細胞からHSCに至る個体発生経路が解明され、その経路を正しく選択させてHSCまで誘導するシグナル因子が明らかになる。マウスES細胞からHSCへの分化誘導はヒトiPS細胞からのHSC分化誘導系の開発に繋がり、発生・再生医学の発展にも貢献できる。
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研究実績の概要 |
造血幹細胞(HSC)の発生機構を解明することは発生医学の重要な課題である。マウスの個体発生において、卵黄嚢や胚体内の造血性内皮細胞から様々な成体型血液細胞が順次重層的に発生する。最後に大動脈-生殖隆起-中腎(AGM)領域にプレ造血幹細胞(pre-HSC)が出現し、胎仔肝に定着してHSCに分化する。重層的な成体型血液細胞の発生過程の中で、将来HSCに分化する細胞(HSC前駆細胞)は中胚葉からどのような発生経路を辿って分化するのか、その発生経路が正しく選択されHSCに至るメカニズムは何か、明らかでない。本研究の目的は、HSC前駆細胞が胎生各時期にどのような発生中間段階にあるのかを明らかにし、各段階の分化を誘導するシグナル因子を同定することである。 本研究では、マウスにおけるHSCの発生経路について以下の仮説を立てた。HSC前駆細胞は胎生7.5日(E7.5)では未分化中胚葉、E8.5では胚体内の早期血管内皮細胞、E9.5では早期造血性内皮細胞、E10.5では後期造血性内皮細胞であり、内皮血液転換を経てE11.5のpre-HSCに分化する。今年度は、(1)E10.5の後期造血性内皮細胞が内皮血液転換を起こしpre-HSCに分化すること、(2)E9.5のHSC前駆細胞はGfi1を発現する早期造血性内皮細胞であることを明らかにした。さらに、(3)E9.5の早期造血性内皮細胞からHSCを分化誘導する培養条件を決定した。 今後は、E8.5の早期血管内皮細胞およびE7.5の中胚葉細胞まで遡ってHSC前駆細胞とその分化誘導シグナルを同定し、中胚葉細胞からHSCを分化誘導する培養系を確立させる。最終的に、マウスES細胞を用いてHSCの発生過程をin vitroで再現させることが本研究の目標である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)後期造血性内皮細胞がE10.5に内皮血液転換を起こしpre-HSCに分化するという仮説を、動脈内皮細胞マーカーであるDLL4を利用して証明した。E10.5のマウス胎仔AGM領域からFACSで単離したVE-cad(+)CD41(-)CD45(-)DLL4(+)細胞とVE-cad(+)CD41(-)CD45(-)DLL4(-)細胞をSCFとTPOの存在下にbEnd.3内皮細胞株と無血清共培養し、培養後の細胞をγ線照射した成体マウスに移植して長期骨髄造血再構築能を判定した。その結果、DLL4(+)およびDLL4(-)の両細胞集団からHSCが分化誘導されることが分かり、HSC前駆細胞はE10.5に内皮血液転換を起こすことが明らかになった。 (2)E9.5のHSC前駆細胞は内皮血液転換に必須の転写因子であるGfi1を発現する早期造血性内皮細胞であることを、Gfi1-CreERT2マウスを用いた系譜追跡実験で証明した。Gfi1-CreERT2マウスをレポーターマウスと交配し、E9.5にTamoxifenを投与してGfi1発現細胞を標識したところ、骨髄のHSCの半数以上に標識が残ることをFACS解析で確認し、HSCがE9.5のGfi1(+)早期造血性内皮細胞に由来することを明らかにした。 (3)E9.5の早期造血性内皮細胞からHSCを分化誘導する培養条件を決定した。E9.5マウス胚体からVE-cad(+)CD45(-)細胞をFACSで単離し、bEnd.3無血清共培養系にBMP4を一定期間添加して培養した。培養後の細胞をγ線照射した成体マウスに移植したところ、HSCが分化誘導されたことが確認され、E9.5早期造血性内皮細胞からのHSC分化誘導系が確立した。一方、レチノイン酸の添加はHSCの分化誘導に影響を与えなかった。 以上の進捗状況から、計画は概ね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
次の段階として、E8.5におけるHSC前駆細胞を同定し、HSCに分化誘導する培養条件の探索を進める。E8.5におけるHSC前駆細胞は早期の血管内皮細胞であると推定される。FLK1、TIE2、DLL4、CD93などの発現を指標にして、E8.5のマウス胚体から細胞集団をFACSで単離し、bEnd.3無血清共培養系で培養する。bFGF、CXCL12、gp130阻害剤などを添加し、CFU-GEMMの出現頻度とGfiなどの発現量を測定し、これらの増加を指標にして最適な濃度と添加期間を決定する。最適条件で培養後に骨髄移植を行いHSCが分化したことを確認する。 さらに、E7.5のHSC前駆細胞は中胚葉細胞の中にあると推定されるため、E7.5マウス胚のscRNA-seqデータを取得し、E8.5のデータと統合してTrajectory解析を行い、早期血管内皮細胞に分化する前駆細胞を同定する。この細胞の細胞表面マーカー、シグナル関連分子、転写因子の発現パターンを明らかにする。この情報を基にして、E7.5マウス胚からHSC前駆細胞を単離し、OP9ストロマ細胞との無血清共培養を行う。E8.5の早期血管内皮細胞のマーカーであるCD93、DLL4、Evi1の発現が増加することを指標に培養条件を最適化する。分化した早期血管内皮細胞をさらにbEnd.3共培養系で培養し、HSCが分化したことを骨髄移植により確認する。 最終的に、本研究で確立した培養系を用いてマウスES細胞からHSCを分化誘導する。ES細胞をOP9ストロマ細胞と無血清共培養し、中胚葉細胞を分化誘導する。E7.5のHSC前駆細胞と同等の転写因子発現パターンが得られるように培養条件を調節する。 E7.5のHSC前駆細胞に相当する細胞が得られたら、本研究で確立した培養系で培養し、HSCが分化したことを骨髄移植により確認する。
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