研究課題/領域番号 |
23K07869
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分54010:血液および腫瘍内科学関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
服部 豊 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 教授 (20189575)
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研究分担者 |
松下 麻衣子 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 准教授 (10327520)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | ハイリスク多発性骨髄腫 / 上皮間葉系移行 / オートファジー / ドラッグリポジショニング / チロシンキナーゼ阻害 |
研究開始時の研究の概要 |
我々は、レナリドミド耐性骨髄腫細胞を樹立して細胞接着依存性薬剤耐性(CAM-DR)やエクソソームの薬剤耐性への関与を明らかにした。また、同一患者の骨髄および胸水由来ペア細胞を用いてリプログラミングや上皮間葉移行(EMT)様変化の髄外病変形成への関与を追跡している。本研究では、これらの現象の分子機構をさらに詳細かつ包括的に明らかにしてゆく。創薬研究として、新規天然物由来化合物のチロシンキナーゼ活性阻害による抗腫瘍・抗血管新生、免疫賦活作用の全貌を明らかにし、その薬物代謝も追及する。さらにdrug repositioningにより、オートファジーを標的とした新たな創薬研究を展開する。
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研究実績の概要 |
多発性骨髄腫は、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法を含む新規治療法の開発により、生存期間は著しく延長してきた。しかし、その中に予後不良の染色体異常であるdel17(TP53遺伝子欠失)やt(4;14)等を有するハイリスク症例は、早期に髄外形質細胞腫の形成や治療抵抗性といった悪性形質を獲得し、未だにその予後は絶対不良である。そこで我々は、悪性形質にかかわる因子を明らかにすることによってその分子病態の解明に挑戦している。例えば、我々はこれまでに骨髄腫細胞にリプログラミング遺伝子や上皮間葉系移行(EMT)遺伝子が恒常的に発現上昇していることを見出してきた。さらに、レナリドミド耐性細胞を樹立し親株と比較したところ、耐性株ではインテグリン群の発現上昇とエクソソーム分泌が亢進していた。さらに、同一患者の骨髄と髄外病変の検体における遺伝子発現のトランスクリプトーム解析も進行中である。 もう一つの研究の柱として、ハイリスク症例の克服薬の開発を進めている。シソ科植物由来のコマロビキノンを構造改変して合成した新規化合物GTN057は、ハイリスク染色体異常陽性の骨髄腫細胞死を誘導するが正常造血細胞への毒性が低い。GTN057はc-METチロシンキナーゼ阻害作用を介して骨髄腫のアポトーシスを誘導することを見出しており、免疫賦活能などさらなる抗骨髄腫機構についても研究を展開する。一方、既存薬をスクリーニングし、去痰薬アンブロキソールがハイリスク骨髄腫細胞のアポトーシスを誘導することを見出した。Turnover assay、reporter assay、透過電子顕微鏡(TEM)により、同薬がオートファジー後期阻害作用を示すことが明らかになった。既存の骨髄腫治療薬のオートファジーへの作用も明らかにしながら、臨床応用に向けてアンブロキソールとの併用療法を確立する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2023年度は、ドラッグリポジショニングにより見出されたアンブロキソールのオートファジーへの作用に関する検討が進展した。Turnover assayでは、アンブロキソールをオートファジー促進作用のあるレスベラトロールと併用すると、再現性をもってLC3-IIの発現を強く誘導することから、オートファジー後期阻害作用を有すると考えられた。さらに既存薬についてもオートファジーへの作用を検討し、HDAC阻害薬であるパノビノスタットがオートファジーを誘導することにより薬剤耐性を獲得していることを見出した。同薬は、オートファジー阻害作用を有するアンブロキソールと相乗的に骨髄腫細胞死を誘導することを確認し、その効果はヒト骨髄腫細胞のSCIDマウスxenograftにおいても顕著であった。さらに興味深いことに、パノビノスタットによる下痢症状が、アンブロキソール併用により改善することも見出した。現在、上述の分子機構について、RNA seqによる検討を開始している。 一方、病態解明について、SOX2低発現細胞に同遺伝子を強制発現させ、薬剤感受性、SCID皮下形質細胞腫形成について評価したが非導入細胞と著変なかった。このことから、SOX2単独では悪性形質に寄与せず、他因子の関与が推測された。そこで、同一患者から樹立された骨髄由来株(KMS12-BM, KMS28-BM)と胸水由来株(KMS12-PE, KMS28-PE)を入手してトランスクリプトーム解析を行った。髄外病変(胸水)株で共通して発現が2倍以上高値を示した6遺伝子に関して、MMRF-CoMMpass臨床試験のデータベースを用いて予後解析を行った。その結果、予後不良に関連する遺伝子としてRGS1とSDN4遺伝子が抽出された。RGS1、SDN4はいずれも細胞内増殖シグナルに関わる分子であり、骨髄腫の臨床的悪性化に寄与する可能性が推測された。
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今後の研究の推進方策 |
現在研究が良好に進行しているアンブロキソールを用いたオートファジー創薬に集中して、前臨床研究として必要なデータの収集に努める。既存の骨髄腫治療薬であるボルテゾミブ、レナリドミド、パノビノスタットの単独でのオートファジーへの作用情報をもとにアンブロキソールとの2剤あるいは3剤併用についても検討を進める。In vitroでの検討において、アンブロキソールは100-200μMという高濃度で検討が行われているが、薬物動態的に経口投与でこのような高い血中濃度を得ることは困難である。併用療法によってどこまでアンブロキソールの有効濃度(IC50値)を下げうるかは今後の臨床試験に向けて重要課題となる。また、アンブロキソールによるオートファジー阻害、アポトーシス誘導、腸管保護作用の詳細な分子機構の解明も重要課題である。上記のように、当初推定されたリソソームの機能阻害作用は否定的で、RNA seqデータからオートファジー経路阻害分子やオートリソソーム形成阻害分子が候補としてあがっていて検証を進める。骨髄腫の悪性化の病態解明について、髄外病変で共通して発現が上昇するRGS1およびSDC4遺伝子が実際に髄外病変形成や薬剤耐性にかかわるのかについても検証を進めて行く。
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