研究課題/領域番号 |
23K07947
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分54030:感染症内科学関連
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
関根 隆博 奈良県立医科大学, 医学部附属病院, 研究員 (50896735)
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研究分担者 |
矢野 寿一 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (20374944)
笠原 敬 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (50405403)
中野 竜一 奈良県立医科大学, 医学部, 准教授 (80433712)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 大腸菌 / 薬剤耐性 / 病原性 / 多様性 / バイオインフォマティクス / 集団遺伝学解析 / 病原性遺伝子 |
研究開始時の研究の概要 |
大腸菌は種々の動物の腸管内常在細菌であるが、一部の症例では尿路や胆管などの臓器に感染症を引き起こす。薬剤耐性の観点からも、大部分の抗菌薬が有効な株から、抗菌薬がほぼ効かない株まで様々である。この理由として大腸菌の持つ遺伝的多様性が挙げられ、複数の病原性・耐性遺伝子の機能が解析されてきた。その一部は共存傾向を示しながら多くの大腸菌株に分布する事が知られているが、何百個と存在する遺伝子群の詳細な共存性や分布は明らかにされていない。我々は遺伝子同士の共存性を解明し、それら複数の遺伝子を簡便に特定するシステムの構築を目指す。同手法により迅速な最適治療や感染対策が推進されるのを期待する。
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研究実績の概要 |
ヒト・動物・環境など様々な場所で検出された計48613の大腸菌ゲノムデータをNCBIより抽出し、シークエンスの質の良い35831個のデータを解析対象とした。耐性・病原性遺伝子はいずれもパンゲノムとして数百に及び、それらの組み合わせによる耐性・病原性プロファイルは数千以上という高い多様性を示した。それらの遺伝的多様性は同一の系統群においても非常に高いため、頻度の高い10種のシークエンスタイプ(ST)に対して耐性・病原性遺伝子が近似しているゲノム同士を階層的クラスタリングを用いて分類した。その結果、耐性・病原性遺伝子の両者において、各ST毎に特徴的な遺伝子型がある事が判明した。さらに、一部のSTにおいては耐性遺伝子型と病原性遺伝子型との間に強い関連を認めた。その理由としてクローン拡散が考慮されたためコアゲノムSNPによる進化系統解析を加えた。その結果、統計的に有意に頻度の高い耐性遺伝子型・病原性遺伝子型の組み合わせを持つゲノムは近い進化系統にある事が示された。一方で、進化系統距離が遠いにも関わらず、同一の耐性遺伝子型・病原性遺伝子型を持つゲノムも見られた。 ゲノムクラスタリングで得られた結果からは、各STで特徴的な共存遺伝子群がある事も示された。特に病原性遺伝子は複数のSTにおいて明瞭な共存性が確認された。このことから、少数の病原性遺伝子の有無をPCRで確認する事で病原性遺伝子の全体像を推定する事は可能と推定された。一方で、耐性遺伝子の多様性は病原性遺伝子に比べて非常に高く、一部の耐性遺伝子の有無により全体の耐性遺伝子型を推定する事は困難である事が示唆された。 現時点で得られている結果は既に国際学会において発表を行っており、国際学術誌への投稿準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
解析を進める中で耐性遺伝子の多様性が非常に高い事が判明した。当初の目的は耐性遺伝子と病原性遺伝子の両者を一部のマーカー遺伝子の有無により高い精度で推定する事であったが、耐性遺伝子の高精度な推定は困難である事が今回の研究で示唆された。しかし、同内容を明確に結論できた事は大きな意味があり、全ゲノムシークエンスによる臨床判断の推進を後押しする根拠になりうる。一方で、全ゲノムシークエンスが広く臨床現場で行われるには時間が要すると予想され、薬剤感受性試験とは別に遺伝学的な病原性の解析が必要と思われる。その際に必要な病原性遺伝子の共存性を特定することができており、現時点での進捗は概ね順調と思われる。
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今後の研究の推進方策 |
1つ目の課題は、コアゲノムSNP解析による進化系統距離が遠いにも関わらず、耐性・病原性遺伝子型が類似しているゲノム集団の遺伝学的特徴を明らかにする事である。推定される理由としてプラスミド、ファージなどが挙げられるため、それらの検討をゲノムデータベース上で引き続き行う。 2つ目の課題は、病原性遺伝子の共存関係を元に病原性遺伝子型を推定するためのPCR法の構築である。PCRで検出する遺伝子領域はゲノムデータベースを用いて決定する。そのPCR法が、我々で菌株収集を行なった日本由来の大腸菌株にも適応可能かを検討する。この検討は全ゲノム情報が必要であり、50-100株程度の比較的少数の菌株を対象とする予定である。日本由来の大腸菌株にも同手法が適応可能であれば、奈良県立医科大学附属病院で検出された大腸菌株に対して同PCR法を行う。当施設における検出株は臨床情報の収集が可能であるため、病原性遺伝子群と臨床情報の統合解析を行う。こちらの解析では複数の病原性遺伝子群を変数として、患者予後との関連性を検討するため、500株程度の比較的サンプル数の多い解析を行う予定である。
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