研究課題/領域番号 |
23K08176
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分55020:消化器外科学関連
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
白石 憲男 大分大学, 医学部, 名誉教授 (20271132)
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研究分担者 |
泥谷 直樹 大分大学, 医学部, 准教授 (80305036)
赤木 智徳 大分大学, 医学部, 講師 (80572007)
上田 貴威 大分大学, 医学部, 教授 (30625257)
相場 崇行 大分大学, 医学部, 客員研究員 (10896012)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 大腸癌 / VSNL-1 / 細胞増殖 / アポトーシス / がん遺伝子 / 治療標的 |
研究開始時の研究の概要 |
我々は、大腸癌の網羅的遺伝子発現解析より、リンパ節転移症例ではリンパ節転移のない症例に比べて、Visinin like protein-1(VSNL-1)の発現が有意に亢進していることを見出した。さらに、原発巣のVSNL-1の発現亢進は、リンパ節転移の予測因子ならびに大腸癌の独立予後因子となることを明らかにした(Int J Cancer. 2012, 131:1307-17)。本研究では、大腸癌の発生・進展過程におけるVSNL-1発現変動を解析して、その機能的および臨床的意義を解明し、治療標的分子としての可能性を検討する。
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研究実績の概要 |
今年度は、免疫組織化学と、大腸癌細胞株におけるRNAおよびタンパクレベルの発現解析、高発現細胞株におけるVSNL-1の機能的意義について、すでに得ている予備データの拡充と確認のための実験を施行した。 ① 大腸腺腫(管状腺腫)およびステージ0、1および2の大腸癌の組織検体を用いて、VSNL-1の発現レベルを免疫組織化学で解析した。さらに、免疫組織化学の染色所見をシグナル強度と陽性面積で定量化して比較検討したところ、正常大腸上皮に比べて腺腫および癌では発現亢進しており、癌の進展に伴って発現レベルが増加することがわかった。正常大腸上皮については、表層の分化した細胞ではVSNL-1の発現はみられなかったが、陰窩底部に細胞質に強陽性を示す細胞が散在していた。この陽性細胞の起源を同定するために増殖マーカーと幹細胞マーカーの発現レベルを検討した。 ② 大腸癌細胞株におけるVSNL-1の発現動態を定量的RealtimePCR法およびWestern blot法で確認した。正常大腸上皮不死化細胞(HCoEpiC)ではVSNL-1の発現は認めなかった。一方、大腸癌細胞株については株によって低発現~高発現と種々の発現レベルを認めた。 ③ VSNL-1を高発現している2種類の細胞株HCT116とCW-2を用いて、siRNAによりVSNL-1をノックダウンしたところ、いずれの細胞株も細胞増殖能が顕著に抑制された。このとき、DNAの断片化が亢進していた。さらに、アポトーシス実行分子であるカスパーゼの活性化も観察されていたことから、VSNL-1の発現抑制は細胞にアポトーシスを誘導し、それに伴い増殖能が低下することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、昨年度までに施行した予備実験で得られたデータの拡充と確認を行った。その結果、以下の知見を得た。いずれも本研究の今後の展開を推進していくものと期待する。 ① 大腸正常上皮から腺腫、表層癌を経て浸潤癌に至る過程で、VSNL-1の発現が亢進することが確認された。このことからVSNL-1は大腸癌細胞の悪性形質獲得に寄与することが示唆された。加えて、正常上皮においては陰窩底部のごく一部の細胞に限局して発現していたことから、特定の細胞(増殖能あるいは分化能の高い細胞など)において機能的意義を発揮する分子であると考えた。 ② 大腸癌細胞株を用いたVSNL-1発現抑制実験から、VSNL-1は細胞の生存能を高める分子であることが示された。この結果は、癌細胞の足場からの離脱に伴うアノイキスに対する抵抗性を高め、浸潤能や転移能亢進に関与するという仮説を支持する。
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今後の研究の推進方策 |
来年度以降は今年度得られた知見を検証するとともに、VSNL-1を標的とした新規治療法や早期診断法の確立につながる予備実験を施行する。 ① 大腸上皮特異的にVSNL-1を欠失した遺伝子改変マウスを作成して、大腸の発生や分化、再生等への影響を調べる。また、APC変異マウスと交配することで、大腸腫瘍の発症・進展形式の変化をみる。 ② VSNL-1の発現亢進に伴って活性化しているシグナルパスウェイの同定を試みる。まずVSNL-1の発現抑制によって発現レベルが変動する遺伝子群を抽出する。次に、パスウェイ解析やGene set enrichment analysisを施行してどのような細胞形質が変化しているのかを明らかにする。同定されたシグナルパスウェイの中から治療標的あるいはバイオマーカーとなりうる分子を抽出する。
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