研究課題/領域番号 |
23K08383
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分55050:麻酔科学関連
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
西原 佑 愛媛大学, 医学系研究科, 准教授 (50568912)
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研究分担者 |
阿部 尚紀 愛媛大学, 医学部附属病院, 講師 (10512155)
田中 潤也 愛媛大学, 医学系研究科, 教授 (70217040)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 敗血症 / せん妄 / 敗血症関連脳症 / ミクログリア / 神経炎症 / ドパミン受容体 / 起炎症性サイトカイン / マイクログリア / ドパミン |
研究開始時の研究の概要 |
一次培養マイクログリア(MG)にLPSやドパミン自体を添加することで、MGの産生する起炎症性および抗炎症性サイトカインの変化を観察する。MGの活性化とモノアミンの産生量の関連を明らかにし、さらにドパミンによるその修飾効果を観察することで、ドパミン作動薬のせん妄治療薬としての可能性を模索する。行動実験で上記を実証し、より臨床応用に「近づけることができるように、既存のドパミン作動薬などの効果を検証する。
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研究実績の概要 |
敗血症に伴うせん妄、およびその原因である敗血症関連脳症 (sepsis-associated encephalopathy; SAE)のメカニズム解明と新たな治療戦略の構築を目指して、Wistarラットに対して大腸菌由来リポポリサッカライド(LPS)を腹腔内投与するモデルを用いて研究を進めてきた。LPSによって誘発される脳内ミクログリアの活性化が起炎症性サイトカインIL-1bやTNFaの脳内濃度を上昇させ、認知機能障害や睡眠覚醒リズムの変化を主症状とするせん妄状態を生み出す。我々はドパミンD1様受容体(D1様受容体にはD1及びD5受容体が含まれる)特異的アゴニストSKF-81297 (SKF)が、培養ミクログリア細胞内cAMP濃度を上昇させ、LPS刺激による起炎症性サイトカイン産生を抑制することを明らかにした。またin vivo実験により、ラット脳内ミクログリアにD1受容体が発現しており、LPS投与ラットにSKFを投与すると脳内でのIL-1b及びTNFa発現が抑制されることを見出した。臨床応用可能性を探るため、SKFに代えてドパミン前駆体であるL-DOPAを投与しても一定の神経炎症抑制効果を発揮することも明らかにした(Nishikawa…Nishihara.. et al. 2023)。さらに、L-DOPAとD4受容体アンタゴニストであるクロザピンを併用投与すると、神経炎症抑制効果はより明確になった。従って、ドパミンの神経炎症抑制効果やSAE改善効果は、D1受容体またはD5受容体を介している可能性が非常に強くなった。しかし、これらの受容体は神経細胞やアストロサイトにも発現しており、必ずしもミクログリアがD1様受容体アゴニストの標的細胞であるとは言い切れない現状である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
そこで、遺伝子改変マウスを用いた実験を行い、ミクログリアがSAEの病態生理の鍵を握る細胞であり、SKFの敗血症およびSAEに対する治療的効果がD1あるはD5受容体のどちらか、あるいは、両方であるかを明らかにしたいと考えた。その解明のためには、ラットではなくマウスで実験する必要があり、C57BL/6Jオス成熟マウスに盲腸結紮穿孔 (Cecum ligation and puncture; CLP) を行って作成する敗血症モデルを利用することとした。CLPによる敗血症マウスも、脳内のIL-1b、TNFa発現が増大し睡眠覚醒障害や認知機能障害を起こすことから、このモデルでもSAEあるいは敗血症誘発せん妄を観察しうることが明らかになった。このモデルに対して、SKFを投与すると死亡率が低下すること、マウスパーキンソン病モデル作成に用いるドパミン神経細胞毒であるMPTPを投与すると脳内ドパミン量が減少し死亡率が上昇することなどがわかっている。また、脳内でのD1及びD5受容体の分布について大まかな検討を行ったところ、マウス脳内ではD1受容体が主たるD1様受容体であるという結果が得られた。このようにマウスCLPモデルでSAEを研究できることが明らかになり、D1受容体がSKFの敗血症およびSAE改善効果を伝達している可能性が高まったことから、D1受容体のミクログリア特異的コンディショナルノックアウトマウスを利用する研究に目処がついた。
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今後の研究の推進方策 |
以上のような結果を得て、今後次のような研究を進める。 1) 遺伝子改変マウスを用いる研究 Drd1-floxマウスおよびCx3cr1-CreERT2マウスを導入し、両者を交配してミクリグリア特異的にCreリコンビナーゼを発現誘導できるマウスを作出する。エストロゲン受容体特異的アゴニスト、タモキシフェンを投与して、マウス脳内ミクログリア特異的にD1受容体をノックアウトする。Cx3cr1プロモーターは脳内ではミクログリア特異的に作動するが、末梢では単球・マクロファージでも作動する。しかし、細胞死と増殖がほとんど生じないミクログリアではほぼ恒久的にCreが発現するが、単球・マクロファージでは細胞の更新が早く、タモキシフェン投与約1ヶ月後にはD1受容体発現のノックアウトはミクログリアにほぼ限局する。このマウスにCLPを施行し、SKFの救命効果が消失するかどうかを調べる。この研究には、約1年半を要することから、次項の実験計画も併せて実施する。 2) CSF1Rアンタゴニスト投与によるミクログリア消失マウスの作成 CSF1R(MCSF受容体)アンタゴニストであるPLX5622・PLX3397を添加した飼料(ミクログリア除去飼料)をマウスに与え、ミクログリアを一過性に除去する。ミクログリアを除去したマウスにCLPを実施し、その生存期間や認知機能を調べる。また、ミクログリア除去マウスに対してSKFを投与し、その影響を解析する。この研究結果は2024年度中に得られる見込みである。
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