研究課題/領域番号 |
23K08507
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分56010:脳神経外科学関連
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
中冨 浩文 杏林大学, 医学部, 教授 (10420209)
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研究分担者 |
柴原 純二 杏林大学, 医学部, 教授 (60334380)
尾崎 峰 杏林大学, 医学部, 教授 (60372926)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2027年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2026年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 脳動静脈奇形 / 全エクソームシーケンシング / 体細胞遺伝子変異 / スフェロイドモデル / 分子標的治療 / 血管形成メカニズム / KRAS遺伝子変 / がん抑制遺伝子 / マウス脳動静脈奇形モデル / 分子標的薬 |
研究開始時の研究の概要 |
・我々が保有している310例の膨大なbAVM検体と50例のextracranial AVM検体を用いた体細胞変異の解析 ・全エクソーム解析、RNAシームエンス解析を用いた、bAVM新生に有効な遺伝子の同定 ・上記で同定した遺伝子を用いた、bAVMのマウスモデルの確立 ・上記マウスモデルを用いた、bAVMに有効な分子標的薬の同定 最終的な目標は、現代の医療水準では治療困難なbAVMの薬物療法を開発することである。
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研究実績の概要 |
脳動静脈奇形(brain arteriovenous malformation: bAVM)は、正常な毛細血管網を欠き、動脈と静脈が異常に直接接続する疾患である。これにより、内部には大小さまざまな異常血管塊が形成され、患者にとって重大な出血リスクをもたらす。現行の治療法には、開頭手術やカテーテルを用いた脳血管内治療による切除、および定位放射線治療による縮小があるが、これらの手段は特に大型のbAVMに対してはリスクが高く、罹患率および死亡率は共に約30%と報告されている。これらの症例に対する有効な薬物療法はまだ開発されていない。 本研究の主要目的は、bAVMの形成メカニズムを解明し、外科的治療が困難な症例に対して新たな薬剤治療の可能性を探求することにある。この目的を達成するため、bAVMの発症に関与する遺伝子レベルの要因や分子経路を特定し、新たな治療標的を同定することを目指す。 昨年度は、bAVMを有する65症例から収集された組織および血液サンプルに、全エクソームシーケンシング(WES)を実施した。この解析から、92個の体細胞変異が検出され、これらの変異が主にHippo、Notch、RTK-RASなどの細胞増殖や細胞死に関連する重要なパスウェイに集約されていることが明らかになった。このうち28遺伝子は、血管異形成シグナルに近接しており、これらの遺伝子変異がbAVMの形成にいかに寄与するか理解することが、今後の治療法開発の知見となる。 今年度以降は、スフェロイドモデルとモデルマウスを用いて、同定された遺伝子変異の生物学的影響を調査し、これらの変異が血管形成に及ぼすメカニズムを明らかにすることで、有望な分子標的を特定する。このプロセスを通じて、治療薬候補をスクリーニングし、臨床試験に進むための前臨床データを収集する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、bAMVを有する65症例から得た組織および血液サンプルで全エクソームシーケンシング(WES)を実施した。得られた組織由来のゲノムDNAは最低リード数が230x以上、血液由来のゲノムDNAは最低リード数が90x以上であり、十分なシーケンス深度を確保した。この解析から、100個以上の体細胞変異が検出され、80%の症例で少なくとも一つ以上の体細胞変異が存在することが確認された。 検出された体細胞変異遺伝子のうち、4症例に含まれる6種類の遺伝子は、細胞増殖や細胞死に関連するHippo、Notch、RTK-RASそれぞれのパスウェイに関与していた。また、Ingenuity Pathway Analysis(IPA)を用いたネットワーク・パスウェイ解析から、変異遺伝子28遺伝子は、血管異形成に関連するシグナルと関連していることが示唆された。さらに、KRAS遺伝子では新規の変異が同定された。この遺伝子変異は、Combined Annotation Dependent Depletion (CADD)によるin silicoの有害性予測において、PHEREDスコアが20以上と算出され、有害なアミノ酸置換であることが示唆された。このアミノ酸置換Val→Glyは翻訳タンパク質GTPase KRasの立体構造やイオン結合等に影響を及ぼす可能性がある。 これらの結果から、本研究の実験方法が適切であることを示した。そのほかの遺伝子変異についても現在解析中であり、今後候補遺伝子が増えると期待される。これらの成果は、脳動静脈奇形の遺伝的背景とその発症メカニズムに新たな展開をもたらし、将来の治療法の可能性を示す。今年以降は、これらの遺伝子変異の生物学的影響をさらに詳細に調査し、bAVMの治療に有効な分子標的薬の同定を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までにWESにより、多数の体細胞遺伝子変異が検出された。今年度も、これらの変異遺伝子から、bAVM形成の候補となる遺伝子変異の精査をさらに進める。文献調査、バイオインフォマティクスツールを用いた解析等でbAVM形成に関与する遺伝子を選定する。また、脳血管関連のシグナル伝達経路に焦点を当て、影響の高いと推察される遺伝子を絞り込む。 本年度は、これらの候補遺伝子を生物学的に評価する実験系の構築を開始する。脳組織の基本構造であるの神経血管単位neurovascular unitの形成に必要な内皮細胞、星状膠細胞、周皮細胞を、ヒト不死化細胞株を用いてスフェロイドを形成する培養条件(Biol Pham Bull 2021)を確認し、均一なスフェロイドを形成する条件下で、再現性のあるハイスループットなアッセイ系を確立する。すなわち、96ウエルプレート上で血液内皮細胞にアデノウイルスもしくはレンチウイルスを添加して候補変異遺伝子を導入する。続いて、これら遺伝子変異がスフェロイド形成に影響を与えるかどうか評価する系を検討する(Biol Pham Bull 2021)。異常スフェロイド構造が形成される遺伝子変異については、既存薬の新たな適応を検証するための感受性試験の予備検討を行う。 来年度以降は、スフェロイドモデルにより異常bAVM構造に関与した遺伝子変異について、さらにマウスモデルでの検証を進める。マウスモデルで効果のある変異遺伝子については、投薬試験を行い、bAVMの縮小あるいは消失に有用な既存薬剤を検索する。これらの結果からbAVM形成に関わるメカニズムを検証していきたい。
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