研究課題/領域番号 |
23K08517
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分56010:脳神経外科学関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大内田 隼 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院助教 (70908821)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | グリピカン2 / 糖鎖 / 神経損傷 / 脊髄損傷 |
研究開始時の研究の概要 |
脊髄損傷後に形成されるグリア性瘢痕において、再生中の神経軸索の先端はdystrophic endballと呼ばれる球体構造を呈し伸長を停止してしまう。一方で、胎生期の神経細胞は脊髄損傷の状況を再現した環境においても軸索伸長をすることが知られている。さらに胎生期神経ではグリア性瘢痕での神経伸長の阻害因子であるPTPσに抑制的に働くヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)が細胞表面に豊富に発現していることが明らかになった。本研究ではグリア性瘢痕において強い再生能力を持つ胎生期神経細胞に特異的な分子機構を明らかにし、糖鎖的アプローチを用いた脊髄損傷の有効な新薬開発に繋げていく。
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研究実績の概要 |
免疫蛍光染色法で胎生神経では10E4抗体で標識されるヘパラン硫酸(HS)が神経損傷後のグリア性瘢痕を模倣したコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)濃度勾配上でも軸索先端に豊富に発現していることが示された。また、後根神経節組織のリアルタイムPCR法での遺伝子発現の定量実験で、胎生マウスは成体マウスに比べヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)の一種であるグリピカン2(GPC-2)が約6倍多く発現していた。GPC-2はHS鎖を豊富に持つことが知られている。このことから、胎生マウスの神経細胞は成体とは異なるHSPG環境のプロファイルを持っていることが示唆された。 CSPG濃度勾配in vitroモデルでの培養実験で胎生マウス神経細胞は成体とは異なり旺盛な軸索伸長が見られた。さらに、レンチウイルスベクターを用いてGPC-2を成体神経で過剰発現しCSPG濃度勾配in vitro実験モデルで表現型を観察すると、軸索再生の阻害を示すdystrophic endballの構造は見られず、軸索伸長時に見られるgrowth cone(成長円錐)の形態が保持されていた。免疫蛍光染色法では、GPC-2を過剰発現させた成体神経細胞においてHSが強く発現しており、CSPGの受容体であるPTPσの基質コータクチンがリン酸化されていることが免疫蛍光染色法で示された。これらの実験結果より、胎生神経に強く発現するGPC-2のHS鎖が競合的にPTPσに作用し不活化されていることが、胎生と成体神経のグリア性瘢痕での挙動の違いに関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HSがCSPG濃度勾配での強力な軸索伸長を助ける因子であることを直接的に証明するために、HS鎖の切断酵素であるヘパリナーゼを用いた実験を行った。しかし、この実験ではヘパリナーゼを添加した胎生神経のCSPG濃度勾配培養モデルでの軸索先端の表現型に変化は見られなかった。この実験結果については、胎生神経の軸索の伸びが早くヘパリナーゼの作用時間が十分でない可能性や、神経細胞の培地接着など本研究のフォーカスとは異なる機構に作用し実験結果に影響している可能性が考えられた。ヘパリナーゼの作用を免疫蛍光染色等を用いて評価し、さらにGPC-2過剰発現させた成体神経でも同様に添加実験を行い、HS鎖による軸索末端の表現型での影響を検証したい。 また、成体神経でのGPC-2過剰発現実験では成体神経がCSPG濃度勾配上でもgrowth coneの表現型を維持するという結果は得られたものの、CSPG濃度勾配を突破する軸索伸長はみられなかった。このことは、胎生神経でみられる強力な軸索伸長にはHSとPTPσの経路以外の付加的要素が関与している可能性を示唆している。GPC-2のノックダウン/ノックアウト実験を行い、軸索伸長に対するGPC-2の特異的な役割を確認したい。 以上の進捗状況であるが、CSPG濃度勾配in vitro実験モデルを用いた免疫蛍光染色や表現型の観察実験、PCR、レンチウイルスによる遺伝子過剰発現の実験の結果により、胎生神経における糖鎖の環境が成体とは異なる力強い軸索再生の能力に関与していることが明らかになりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
ヘパリナーゼによるHS鎖分解における表現型の観察実験を、HS処理後のstubを認識する3G10抗体を用いて確認する。さらにライブイメージングを行いダイナミックに伸長する胎生神経の軸索末端のCSPG濃度勾配上での挙動と、経時的なヘパリナーゼ添加の影響を観察する。GPC-2過剰発現させた成体神経でも同様にヘパリナーゼ添加実験を行う。 また、胎生神経の軸索伸長におけるGPC-2の特異的な機能を明らかにするためにGPC-2 shRNAを用いたGPC-2のノックダウンを行い、CSPG濃度勾配in vitro実験モデルで培養し軸索末端の表現型を観察する。このことにより、GPC-2がグリア性瘢痕でも成長円錐を維持するための標的遺伝子であるか調査する。 HSによるPTPσ活性の制御を直接的に評価する方法は現在確立されていない。PTPσは活性化されるとオリゴマー化されることがわかっており、近接ライゲーションアッセイ(PLA)法での受容体活性の定量化実験を行う。 さらに、PTPσは細胞外プロテアーゼであるカテプシンの分泌の制御に関与している可能性が報告されている。胎生神経においても、酵素の分泌によるCSPGの分解が軸索の伸長を促している可能性がある。成体および胎生期マウス神経細胞をCSPG上で培養しconditioned mediumを採取しCSPGのマーカーであるCS56と、カテプシンB濃度をウエスタンブロッティング法、ELISA法で定量する。
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