研究課題/領域番号 |
23K08532
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分56010:脳神経外科学関連
|
研究機関 | 藤田医科大学 |
研究代表者 |
廣瀬 雄一 藤田医科大学, 医学部, 教授 (60218849)
|
研究分担者 |
中江 俊介 藤田医科大学, 医学部, 准教授 (20622971)
大場 茂生 藤田医科大学, 医学部, 准教授 (80338061)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
|
キーワード | DNAミスマッチ修復 / 膠芽腫 / 薬剤耐性 / DNA相同組換え修復 / テモゾロミド / 悪性神経膠腫 / DNAメチル化剤 |
研究開始時の研究の概要 |
代表的な原発性脳腫瘍である悪性神経膠腫、特に最も悪性度の高い膠芽腫に対してDNAメチル化剤テモゾロミド(TMZ)の導入は治療の進歩をもたらしたものの、同腫瘍の根治に向けた治療法は確立していない。本研究では悪性神経膠腫細胞の生物学、特に腫瘍特異的なDNA修復機構に関する検討を行い、薬剤耐性機構を解明するとともに将来の新規治療法開発の基盤とする。特にグリオーマ細胞内でのDNA修復機構と細胞生存維持機構の関連を解明することは新たな化学療法プロトコールの開発や将来の新規薬物療法の開発のための基盤形成になり得る。
|
研究実績の概要 |
代表的な原発性脳腫瘍である浸潤性神経膠腫(グリオーマ)を外科的手術のみで根治することは一般的には不可能である。特に最も悪性度の高い膠芽腫は全悪性腫瘍の中でも生命予後が不良な腫瘍に属し、化学療法も含めた補助療法の有効性を改善することが必要である。これに対してDNAメチル化剤テモゾロミド(TMZ)の導入は化学療法に一定の進歩をもたらしたものの、同剤を用いても膠芽腫の平均生存期間はわずか数ヶ月延長したのみであり、同腫瘍の根治に向けた有効な治療法は確立していない。本研究ではグリオーマ細胞の生物学、特に腫瘍特異的なDNA修復機構に関する検討を行い、薬剤耐性機構を解明するとともに将来の新規治療法開発の基盤とする。我々はヒトグリオーマ細胞がTMZ処理に反応してG2チェックポイント機構の活性化を介してG2期細胞周期停止を起こす事を報告し、G2チェックポイント機構を阻害するとTMZ耐性を得た細胞株ですら再感受性化が可能であることを確認した。一方、腫瘍細胞が真の化学療法耐性を獲得するためには少なくとも致命的なDNA損傷を修復または回避する機構が必要である。化学療法剤によってDNA損傷を受けたグリオーマ細胞内での生物学的応答を解明することは脳腫瘍学の発展の上で重要な意義があるが、特にグリオーマ細胞内でのDNA修復機構 (MMR)と細胞生存維持機構の関連を解明することは腫瘍の治療耐性獲得機序の解明につながり、化学療法によるグリオーマの治療効果改善には不可欠な課題であり、新たな化学療法プロトコールの開発や将来の新規薬物療法の開発のための基盤形成になり得ると考え、本研究の着想に至った。これまでに、グリオーマの化学療法耐性に関する研究報告は乏しく、MMR異常細胞の詳細な解析は独自性が高いと考える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は先行研究において化学療法剤テモゾロミド(TMZ)処理に対して全く細胞周期停止を示さないヒトグリオーマ細胞株を複数樹立しており、これらの株においてはDNAミスマッチ修復(MMR)蛋白であるMSH6の発現低下を示すことが確認されている。これらのTMZ耐性株はいずれにおいても何らかのDNA修復異常が生じていると考えられるが、薬剤処理条件を揃えたin vitro実験においてもMMR障害が化学療法耐性に関与することを示唆するものである。DNAメチル化剤処理回数が多いほど、MMR障害を生じやすくする可能性もあり、臨床例において腫瘍が薬剤耐性を獲得しながらゲノム不安定性に基づく”hyper-mutator”となって進行する過程を説明することが可能である。一方、この事象が臨床例においても当てはまるのかを探索するために、TMZ治療前後の腫瘍検体 (再発時に手術がされた症例)を用いて、MMR蛋白の発現状況の変化を解析し(免疫組織化学)、腫瘍再発様式 (悪性度の変化)、生命予後との関係、再発後治療への反応性などを解析中である。我々の研究室では過去10年以上の症例について最新のWHO分類 (2021)に沿った形での診断が確定されており、まず、膠芽腫(glioblastoma, IDH-wildtype, WHO grade 4)症例について情報を収集している。現時点の途中解析結果では、膠芽腫においてTMZ投与を繰り返した後のMMR蛋白の発現低下を示す症例は稀であり、in vitro実験系で認められた事象が再現できていない。先行研究においてMMR異常の他に薬剤耐性への関与が示唆されたDNA相同組換え修復機構の関与についての解析を計画中である。
|
今後の研究の推進方策 |
先行研究で得られたTMZ耐性株の中には、TMZ処理に対して一過性に細胞周期停止を示すものがあり、こうした株は薬剤処理を繰り返し行う中で比較的早期に分離された。生化学的解析により、これらの株においては何らかのDNA障害が生じているものの比較的短期間でDNA修復がされていることが示唆され、TMZによる致死的細胞障害であるDNA二重鎖断裂を修復するDNA相同組換え機構の亢進が起きている可能性が示唆された。実際に我々の研究室ではこの推論を支持する予備データを論文発表した(Ohba Sら Cancers 2021)が、臨床検体において同機構の重要タンパクであるrad51をはじめとした関連因子の発現状況に変化が生じているかを解析する計画を立案している。解析対象は昨年の研究において再発時にMMR発現異常が認められないことが判明した膠芽腫(glioblastoma, IDH-wildtype, WHO grade 4)症例の初発時及び再発時の切除組織を用いる。
|