研究課題/領域番号 |
23K08556
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分56010:脳神経外科学関連
|
研究機関 | 一般社団法人プラズマ化学生物学研究所 |
研究代表者 |
落合 祐之 一般社団法人プラズマ化学生物学研究所, 研究部, 研究員 (20815469)
|
研究分担者 |
鈴木 良弘 一般社団法人プラズマ化学生物学研究所, 研究部, 代表理事 (80206549)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
|
キーワード | ミトコンドリア / 悪性神経膠腫 / フェロトーシス / 過酸化水素 / ROS / グリオブラストーマ / 活性酸素 / 低温大気圧プラズマ照射液 |
研究開始時の研究の概要 |
グリオブラストーマの治療抵抗性には、アポトーシス耐性が大きく寄与することからアポトーシスとは異なる細胞死の腫瘍特異的な誘発は、革新的な治療法に繋がることが期待される。空気プラズマ照射液(APAM)はフェロトーシス類似細胞死を起こして薬剤耐性GBM細胞を傷害し、この作用には、特異的なミトコンドリアの核偏在とそれに伴う核傷害が関与した。本研究では、APAMによる細胞死がフェロトーシスであるか確認する。細胞死におけるミトコンドリア動態の役割を調べ、これを指標にしたアジュバント剤を開発することでAPAMの抗腫瘍作用の増強を図る。また、これらの薬剤耐性細胞・腫瘍幹細胞に対する有効性を検証する。
|
研究実績の概要 |
APAMがグリオブラストーマ(GBM)に増加させる鉄依存性細胞死とフェロトーシスの異同を調べた。鉄キレート剤はいずれの細胞死も阻害したが、フェロトーシス阻害剤として知られるフェロスタチンー1は阻害しなかった。一方、フェロスタチンー1はエラスチンによる鉄依存性細胞死は強く抑制することからAPAMによる細胞死はフェロトーシスとは異なる可能性が考えられた。そこで、次に、APAMとエラスチンの生物学的作用を比較した。タイムラプス実験の結果、APAM添加後、時間依存的にGBM細胞全体が縮小し、ミトコンドリアは分裂し、細胞核は変形、縮小した。添加1~2時間後には断片化したミトコンドリアが核の片側の周辺に局在するMPMCが顕著となった。これに対して、エラスチン処理細胞では細胞の縮小、ミトコンドリアの形態、分布変化、ならびに核変化はほとんど見られなかった。 また、APAMは核周辺のミトコンドリア内にスーパーオキシドやヒドロキシルラジカルを増加させたが、エラスチンはこのような作用を示さなかった。ミトコンドリア酸化ストレスを抑制するとMPMCは起こらなかった。ミトコンドリア酸化ストレスは鉄キレート剤やカタラーゼにより抑制されることから、ミトコンドリア内での鉄と過酸化水素(H2O2)によるフェントン反応の関与が考えられた。ミトコンドリア内での酸化反応の証拠として、ミトコンドリア特異的リン脂質であるカルジオリピンの酸化が起こることも見出した。以上の結果は、APAMが特異的にミトコンドリア酸化ストレスを増加させ、これがMPMCを介したフェロトーシスとは異なる鉄依存性細胞死に関与することを示唆する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の大きな目標はAPAMによる鉄依存性細胞死がフェロトーシスであるかどうかを調べることであったが、これがカノニカルなフェロトーシスとは性質が異なるという予期しない結果を得た。また、この細胞死ではフェロトーシス経路では起きないミトコンドリア酸化ストレスとそれによるMPMCや核傷害が関与することが示唆された。 興味深いことに、GBMのこの細胞死に対する感受性は細胞株や増殖条件に応じて顕著に変化した。その結果、鉄キレート剤はAPAMによる細胞死を全く阻害しなかった。研究に用いたGBM細胞株はシスプラチン、テモゾロミド耐性であり、APAM処理でアネキシンV陽性細胞の増加、カスパーゼー3/7活性化、カスパーゼ-8, -9の切断も見られないことからアポトーシスの役割は小さい。また、RIP1/3キナーゼ阻害剤ネクロスタチン-1、リソソーム不安定剤クロロキンによる抑制を受けなかったことからネクロトーシスやオートファジーの関与は否定的と思われる。一方、カタラーゼはこれを強く抑制したことから何らかの酸化的細胞死が誘発すると推察された。 APAMは細胞株によらずミトコンドリア酸化ストレスとMPMCを増加させ、それらの阻害によって細胞死が抑制されたことから、これらのイベントが細胞の状態に応じて鉄の役割が異なる細胞死経路に関与する可能性が示された。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)細胞内鉄動態の解析:APAM による鉄依存性細胞死に関与する不安定鉄がどこに由来するかを調べる。(i)カノニカルなフェロトーシスとの相違、(ii)特異的なミトコンドリア酸化ストレスの増加、(iii)その内でのin situフェントン反応の可能性、(iv)ミトコンドリアが多くのヘムならびに非ヘム鉄タンパク質を含む、などの点を考慮するとミトコンドリア内鉄の関与が十分に推測される。そこで、APAM処理によるミトコンドリア内および細胞質内鉄レベルの変動を調べる。 (2) オートファジーによる鉄貯蔵タンパク質からの不安定鉄遊離の検討:フェリチンなどの鉄貯蔵タンパク質からの不安定鉄の遊離にはオートファジーによるその分解が必要である。APAMはミトコンドリアの断片化を誘発し、その効果は時間とともにDrp1依存性が減少する傾向があることから、ミトファジーによる分解の関与が考えられる。そこで、APAMがマクロなオートファジーならびにミトファジーを起こすかどうかを検討する。また、ミトファジーのトリガーとなるミトコンドリア膜電位の喪失が起きるかどうか、ユビキチン分解系に関与するプロテアソームを阻害してミトコンドリアの断片化や酸化ストレスの増加が抑制されるかどうかを調べる。 (3) 一酸化窒素(NO)の役割の検討:予備的検討から鉄非依存性細胞死はNO感受性であることがわかった。APAMは、亜硝酸イオン (NO2-) ,硝酸イオン (NO3-)を含んでおり、これらはNOの酸化物であることからAPAM処理によって細胞内にNO が生成していると推測できる。実際に、低温大気圧プラズマ照射液がNO2-やNO3-を含むこと、NO が抗腫瘍効果に関与することの報告があるが、詳細は明らかではない。そこで、このNO感受性経路と鉄依存性経路との関連性を調べる。
|