研究課題/領域番号 |
23K08580
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分56020:整形外科学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
松井 雄一郎 北海道大学, 歯学研究院, 准教授 (20374374)
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研究分担者 |
村上 正晃 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 教授 (00250514)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 線維化 / 炎症 / IL-6 / NF-κB / SFRP4 / デュピュイトラン拘縮 / IL-6アンプ |
研究開始時の研究の概要 |
本疾患は慢性炎症の関与も指摘されているが、その詳細な作用機序は不明である。共同研究者の村上教授らは、炎症性疾患の非免疫系細胞において、NF-κBとSTAT3が協調的に作用することにより、IL-6の増幅回路(IL-6アンプ)が活性化され、炎症性サイトカインの産生が異常に増加することを報告している。そこで、本研究では、デュピュイトラン拘縮の発症・進行において、慢性炎症、特にIL-6アンプの作用機序を明らかにし、その特定の制御因子を抑制することで抗線維化作用を証明し、治療薬への発展性を示す。
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研究実績の概要 |
デュピュイトラン拘縮は、手掌腱膜の線維性増殖に伴う肥厚により手指の不可逆性の屈曲拘縮を生じる疾患であり、日常生活動作に著しい支障をきたす。リスク因子として、性別(男性)、家族歴、糖尿病等が指摘されている。また、本疾患は慢性炎症の関与も指摘されているが、その詳細な作用機序は不明である。共同研究者の村上教授らは、炎症性疾患の非免疫系細胞において、NF-κBとSTAT3が協調的に作用することにより、IL-6の増幅回路(IL-6アンプ)が活性化され、炎症性サイトカインの産生が異常に増加することを報告している。そこで我々は、デュピュイトラン拘縮の発症・進行において、IL-6アンプによる慢性炎症が存在しているという仮説のもと、本疾患におけるIL-6アンプの存在およびその病態への作用機序を明らかとすることを目的に研究を開始した。IL-6アンプの制御遺伝子として1000以上 の候補遺伝子が明らかとなっており、これに既報のDupuytren拘縮に関するゲノムワイド関連解析のデータを組み合わせ、IL-6アンプの正の制御因子かつ疾患関連SNPs (rs16879765 および rs17171229) が関連する遺伝子であるSFRP4に着目した。本研究の結果、当該SNPsのリスクアレルをもつDupuytren拘縮患者では、SFRP4の発現が上昇し、炎症性疾患の進行において重要であるIL-6アンプが活性化されることが明らかとなった。また、機能的解析により非免疫細胞においてSFRP4がNF-κBの核内移行を促進し、IL-6や種々のケモカインの発現に関わることを示した。さらに、SFRP4はIκBα及びβTrCPと直接結合することでNF-κB経路を活性化し、炎症を惹起していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
IL-6アンプの正の制御因子かつ疾患関連SNPs (rs16879765 および rs17171229) が関連する遺伝子であるSFRP4に着目し研究を開始した。病的手掌腱膜の免疫組織染色や線維芽細胞を用いた実験により、NF-κBとSTAT3の同時活性化およびIL-6の過剰産生を認め、IL-6アンプが活性化していることを示した。SFRP4のノックダウン細胞ではIL-6のmRNA発現が低下し、過剰発現細胞ではIL-6プロモーターおよびNF-κB p65 binding siteの活性が亢進した。マウス皮膚炎モデルではSFRP4のノックダウンにより炎症が抑制された。SFRP4ノックダウン細胞ではIκBαのリン酸化および分解、NF-κB Ser536のリン酸化が抑制され、NF-κB p65の核内移行が抑制された。SFRP4はβTrCPおよびIκBαと結合し、NF-κB経路におけるIκBαのSCF complexによるユビキチン化およびプロテアソームによる分解に関与している。Dupuytren拘縮患者の手掌腱膜では、リスクアレル保有例においてリン酸化NF-κB p65およびリン酸化STAT3の発現が上昇し、IL-6の発現も増加していた。SFRP4の発現が上昇することから、rs16879765 および rs17171229はSFRP4を介してIL-6アンプの活性化に寄与していると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
SFRP4ノックダウン細胞を使って、IL-6とTNF-αの刺激によるIL-6アンプ活性の抑制をqPCRで評価する。さらに、同様の条件下で線維化に関わるTGF-β1やⅠ、Ⅲ型コラーゲンなどの細胞外基質の発現抑制効果をqPCRとELISAで検討する。中和抗体を作り、病的手掌腱膜由来の線維芽細胞に投与し、炎症刺激下でのIL-6やⅠ、Ⅲ型コラーゲンの発現が抑制されるかをqPCRとELISAで評価する。デュピュイトラン拘縮の動物実験モデルはないので、デュピュイトラン拘縮患者の組織を使ってex vivo実験を行う。また、糖尿病がデュピュイトラン拘縮のリスク因子であることは知られているが、その発症機序は未解明である。糖尿病は「Diabetic hand syndrome」と呼ばれるデュピュイトラン拘縮などを引き起こすことが報告されている。SNPsが関与している可能性があるので、他施設での調査でその頻度を明らかにしていく。RNA-seqでデュピュイトラン拘縮患者と手根管症候群患者の手掌腱膜を解析し、PPARγやGlutathione代謝経路の遺伝子発現変化を確認したので、今後、糖尿病患者におけるデュピュイトラン拘縮のメカニズムを明らかにしていきたい。
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