研究課題/領域番号 |
23K08680
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分56020:整形外科学関連
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
木下 晃 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 准教授 (60372778)
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研究分担者 |
大山 要 長崎大学, 病院(医学系), 教授 (50437860)
谷村 進 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(薬学系), 准教授 (90343342)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | Myhre syndrome / TGFシグナル / Smad3 / ヒストンメチル化酵素 / IDR / 液相分離 / Mhyre症候群 / ヒストンメチル化 / 骨系統疾患 |
研究開始時の研究の概要 |
低身長が特徴のMyhre症候群患者に、TGFシグナル系で働く転写因子SMAD3のIDR領域に変異を同定した。IDR領域は立体構造を取らないが、タンパク質相互作用と転写調節に重要な機能を持つ。またモデルマウスの骨芽細胞では、転写を活性化させるヒストンH3の4番目のリジン残基のトリメチル化が著しく減少していた。「SMAD3がIDR領域を介してヒストン修飾酵素と相互作用し、クロマチン構造と遺伝子発現を制御する」との仮説のもと、SMAD3とヒストン修飾酵素が決定する骨形成に必須な遺伝子とその発現調節領域を決定する。ヒストン修飾を標的にした治療法の開発、骨粗鬆症の予防・治療法への展開を目指す。
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研究実績の概要 |
低身長と短い四肢が特徴の非常に稀な遺伝病Myhre syndrome (MS)はTGFスーパーファミリーが関与するシグナル系で共通して働くシグナル伝達因子SMAD4のミスセンス変異が原因とされている。しかし研究代表者は国内のMS患者で、SMAD4と結合するTGFシグナル系転写因子SMAD3に新規ミスセンス変異を同定した。同定された変異はDNA結合ドメインと転写活性化ドメインに挟まれた立体構造をとらず機能も持たないとされているintrinsically disordered region(IDR)に存在する。近年IDRは相分離を介してタンパク質が相互作用し、クロマチン構造を変えながら転写制御を行うことが明らかになってきている。 研究代表者が作製したMSモデルマウスは患者の表現系を再現した。さらにこのマウスから単離した骨芽細胞・軟骨細胞では転写の活発なプロモーターの目印であるヒストンH3の4番目のリジンのトリメチル(H3K4me3)化が著しく減少していた。SMAD3は転写因子であり、直接H3K4me3化することはできない。そこで「SMAD3がIDRを介してヒストンメチル化酵素と相互作用し、クロマチン構造と遺伝子発現を制御する」との仮説のもと、今年度はこのヒストンメチル化酵素を免疫沈降法により同定することを第一目標とし、抗Smad3抗体による免疫沈降物を質量分析によるタンパク質の同定を行った。 また文献から相互作用するヒストンメチル化酵素の候補をピックアップした。そのcDNAを発現ベクターにクローニングし、SMAD3との相互作用を免疫沈降法で確認した。今年度は他にもモデルマウスの表現系解析、クロマチン免疫沈降法によるSmad3の結合領域の同定、RNA-seqによる発現解析も行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度行った研究は以下である。① 質量分析によるヒストンメチル化酵素の同定:複数のSMAD3市販抗体も用いて骨芽細胞から抽出したタンパク質を材料に免疫沈降を行った。しかし電気泳動とゲル染色を行ったが免疫沈降物の明確なバンドを確認できなかった。② これまでに報告されているヒストンメチル化酵素と脱メチル化酵素の文献検索を行った。その中で有力候補として2つの遺伝子(XとY)のcDNAをクローニングした。共に全長が5 kb以上で、GC-richな遺伝子のため全長のクローニングは断念し、そのIDR領域のN端にFLAGタグを付加した。mCherryでタグしたSMAD3との免疫沈降を行った結果XのIDRとの相互作用が示唆された。現在、追加実験として蛍光タンパク質のタグをつけたIDRタンパク質の精製を行っている。③ マウスの表現系解析:(i)体重測定によりMSモデルマウスでは誕生時には野生型と差がみられないが、生後1週間後から体重増加が遅くなり有意な差が観察された。(ii)マウス胎仔の骨格標本の作製を行ったが、野生型と顕著な差は確認できなかった。しかし変異ホモ接合体は骨化の遅延と口蓋裂が観察された。変異ホモ接合体は生後すぐに死亡するが、その原因であると考えられる。④ Smad3抗体とヒストンメチル化酵素X抗体を用いて、クロマチン免疫沈降 (ChIP) をおこなった。次世代型シーケンサーによる配列決定を行ったが、明確なSmad3とxの結合領域のピークが得られなかった。おそらく抗体が原因と考えられる。⑤ 骨芽細胞のRNA-seqを行い、野生型と有意な差があるパスウェイを同定した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの失敗を踏まえて令和6年度は以下のように研究を進めていく。 ① 免疫沈降とChIPが上手くいかなかった原因の一つが抗体の性能である。別の抗体を新たに購入するか、FLAGタグをつけたSMAD3 (野生型と変異型)発現ベクターを培養細胞にトランスフェクションする予定である。以前の論文(Kinoshita, Development, 2021)でも市販抗体で上手くいかなかった免疫沈降やChIPが、タグ付き遺伝子発現ベクターをトランスフェクションすることで解決できた実績がある。 ②蛍光タンパク質タグをつけた遺伝子XのIDRタンパク質の精製を行っているが、分解が激しく精製が上手くいっていない。共同研究者や経験者の意見を参考に手技を改善し、顕微鏡下での相分離実験を行う。 ③長崎大学に新たにマイクロCTが導入される。これを用いてマウス成体の骨格撮影を行い、形態の比較を行う。撮影後のマウスから大腿骨を取り出し、脱灰後切片を作製する。この切片を用いてHE染色、免疫染色で比較を行う。 ④これまで軟骨はマウス胸骨・肋骨を酵素処理して、単離してきたが、新たに成長板や関節から軟骨細胞を単離するプロトコールを確立した。この軟骨細胞を材料に、RNA-seqやChIP-seqによりMSの特徴である四肢の短縮の発症機序を解明する。
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